あやかし増加の原因
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「なんで私のことをみんな怖がるのかしら……」
「蓮香じゃなくて、後ろのあやかしが原因じゃないかな!」
二人が話していると、少し離れた場所にいたカグヤがとてとてと走り寄ってきた。運動神経はさほど発達していないのか、走り方がぎこちなかった。
「すごかったよ、カグヤ。てけてけを除霊してきてくれてありがとう」
「……ん」
「よしよし」
雅楽が頑張りを褒めると、カグヤは赤色の頭を差し出した。彼女がこうするときは決まって頭を撫でてほしいときだ。
雅楽の華奢な手が紅葉のような髪をサラサラと撫でる。カグヤの顔が少しだけ綻んだ。
一週間前、自我が芽生え始めた瞬間、彼女はまず自分の名付け親を誰か聞いた。それが雅楽だと分かると、それ以来、雅楽を「主人」と呼び、ずっと後ろをついて回っている。雅楽も妹ができたみたいで彼女を可愛がっていた。
彼は一人っ子で、しかも唯一の親である治郎が単身赴任していたこともあり、自分の兄弟が欲しいと心底思っていた。
そのため、カグヤに懐かれることは満更でもな買った。
とはいえトイレや風呂にまで入ろうとするのは流石に勘弁してほしいが。
「ずるいのじゃ。妾だってしてほしいのじゃ」
カグヤに嫉妬したのか、千草も擦り寄ってきた。雅楽は困った顔をしながら、しかしあながち満更でもなさそうな感じで頭を撫でた。ふさふさの猫耳の感覚が気持ち良い。
「にゃーごろごろ」
「……メス猫」
「どこでそんな汚い言葉を覚えたんじゃ!」
千草とカグヤは犬猿の中だった。千草はそもそも、雅楽の妻になろうとしていたのだ。急に現れた恋のライバルを目の敵にするのは当然の反応だった。
カグヤとしても自分と雅楽の仲を妨げる千草の存在は気に入らなかった。
「二人とも静かにしなさい。一応、近くには家があるのよ」
道沿いにある家の電気はどれも消えており、そこに暮らす人々は寝静まっていた。蓮香はあやかしを知らずに生きている人間の眠りを妨げてはいけないと思い、二人を注意した。蓮香が正しいと思ったのか、カグヤも千草も口を閉じた。
「ようやく静かになったわね」
「みなさーん! あやかしの除霊は終わりましたかー!」
「はあ。またうるさい人が増えた」
ようやく人々の寝息が聞こえてくるほどの静けさを取り戻したというのに、それをかき消す元気な声が響き渡った。男性とも女性とも取れる声、元気さの中に寂しさを感じる声だった。そんな声を出せる人を雅楽は一人しか知らなかった。
「つらら、そっちはどうだったの? 怪我してない?」
「あやかしを三体ほど除霊しましたよー。あ、怪我はしてないです。雅楽くん、そんなに私の体を大切に思ってくれてるんですね。いつでも脱ぎ脱ぎしますよ」
「そういうのじゃないから!」
初めて会った時から、つららの雅楽へのアプローチは日に日に増えていった。影間として働いており、男性とまぐわうことはあっても、恋をしたのは初めてだったため、押すことしか分からないようだ。
雅楽は彼が男性だということを理解はしているのだが、外見は完全に女性なのでどきりとしてしまうこともあった。
「……まさかつららもライバルになるとはね」
「ん? 蓮香、何か言った?」
「いいえ、何も。さ、早くあやかし界へ帰りましょう。治郎さんに明らかにあやかしが増えていることを報告しないと」
蓮香が「帰りましょう」と言った通り、この二週間で彼らにとっての家はあやかし界になっていた。あやかしの存在を一番遅く知った雅楽ですら、この夏休みは人間界にいるよりもあやかし界にいる時間の方が長かった。
五人は鶴見川沿いの道のすぐそばにある国道駅へ向かった。この駅は一階がトンネルになっており、その中にある階段を登ると線路があった。トンネルの中には焼き鳥屋や居酒屋など、仕事帰りのサラリーマンで賑わう店が並んでいた。
しかし飲食店のシャッターが閉まるこの時間帯になると、薄暗い照明と古びている内壁、人の顔のように見えるシミが目立ち、夕方の活気が幻のように感じられる陰気さが漂っていた。
彼らは立ち並ぶ店のうち、最も汚く古い店に入っていった。その店だけは、異質の古さでこのトンネルができるよりも前に作られたのではないかと思うほどだった。
蓮香は慣れた手つきで鍵を差し込み、扉を開けるが、そもそも店自体が傾いているのか扉は固く、なかなか開かなかった。ガタガタと音を立てながら強引に開けると、中には変哲もない居酒屋が広がっていた。しかし靴を脱いでその中に入ることはせず、玄関の横にある下駄箱を開いた。そこにはお札が一枚貼られていた。蓮香はそれをペリッと剥がした。
トンネルの天井についていた電球がジジジッと音を鳴らして数回点滅した。雅楽たちは再び店の外に出ると、鍵を閉め、駅に向かうための階段を登った。普通ならばそこには古ぼけた駅があるはずだった。
しかし、駅はなかった。
そこにあったのは沈みかけの太陽。たくさんの屋台。奇奇怪々なあやかしたち。
何故か国道駅につながる階段はあやかし界へと繋がっていた。最初は雅楽も驚いたが、あやかし界への道は蓮香の家だけでなく、たくさん存在していた。誰にもバレないようにひっそりと、息を潜めるように隠れながら、あやかし界はどこにでもにあったのだった。
「お父さん。やっぱりあやかしの数が増えてるよ」
「その件についてなんだが、理由が分かった」
寺子屋には相変わらず金髪オールバックにサングラスという奇抜な格好をした治郎がいた。彼はここ最近、横浜市周辺であやかしが増加している件について調べていた。
その結論がようやく出たようだ。
「青葉区にある防空壕にヒダル神が出た。元々防空壕はあやかしがたくさんいたんだ。人に危害を与えるものも、与えないものもな。だが、そいつが現れてそのあやかしたちが逃げたんだ。ヒダル神は近くにいるだけで耐え難い飢餓感を与える。一度防空壕から離れたのは良いものの、飢餓感に耐えきれなくなったあやかしが凶暴化し、人間を襲っているというわけだな」
「ヒダル神が出るとは珍しい。なぜそんな奴がこんなところにいるんじゃ」
「ぬらりひょんが原因だ。あいつの手下のあやかしを退治した時に聞いたんだ。ぬらりひょんは日本中を旅しながら各地域のあやかしを従え、率いる。あいつの存在自体が百鬼夜行なんだ。ただヒダル神は一緒にいるあやかしにまで飢餓感を与えるから追い出されたらしい」
「なるほどのう。じゃが、ヒダル神を退治すれば他のあやかし共も元に戻るんじゃろう?」
「ああ。行政が他の闇祓いを横浜に配置してくれるそうだ。彼らに治安の維持は頼んで、その間に俺たちはヒダル神を叩く」
「お主一人で足りるであろう」
「雅楽たちのいい修行になると思ってな。連れていくことにした」
治郎は最近若手の育成、特に雅楽の育成に力を入れている。ただの親心とも思えるのだが、彼の焦りようは異常だった。
まるで自分がいなくなっても彼が一人で生きていけるように育てているかのようだ。
いつものお調子者な治郎ではなくなっていることを雅楽は感じ取っており、最近は妙に嫌な予感がしていた。
不安がる雅楽の耳に祭囃子が聞こえてくる。
彼らはは真剣な話をしているというのに、あやかし界はいつでも呑気で陽気な雰囲気に包まれていた。
「僕たちも除霊に参加するってこと?」
「そうだ。二週間もあやかし界にいて、だいぶ慣れただろ? そんなに怖がるなって」
「慣れたけどさー。やっぱり怖いものは怖いんだ」
「怖がることは良くないぞ、雅楽。何度も言っただろ? 邪悪なあやかしにとって恐怖こそが動力源なんだ。今回のヒダル神は神とついているだけあって今までのあやかしとはレベルが違う。気張っていくぞ」
雅楽はため息をついた。あやかしを見て気絶することは無くなったとはいえ、怖がりが治ったわけではないので、あやかしに対しては強い苦手意識があった。
「人間界は深夜だから、明日準備を整えて行こう。今日は解散!」
治郎は明日のためか、直ぐに自室へ戻った。
作者の紫 凡愚と申します!
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