鶴見川
ブックマーク、コメント、評価、よろしくお願いします。
感想もくれたら、最高に喜んでしまいます。
神奈川県横浜市鶴見区を流れる鶴見川沿いの道は、深夜になると昼間の人通りが嘘のようになくなる。
頼りない街灯がわずかに照らしているだけの夜道を塾帰りの女子生徒が歩いていた。
彼女は髪を金色に染め、褐色肌をしていて可愛らしいネイルをしていた。全体的に化粧が濃く、いわゆるギャルという部類の女性だった。
「ん? 何だろう、あれ」
道の端で何かがモゾモゾと動いていた。このあたりは野良猫も多く、最初は猫が横たわっているのだと思っていた。しかし近づいてみると、それが猫ではなかった。
「るぅーんごっ、るぅーんごっ」
普通の生物では出せないような鳴き声を出しているそれは、猫とは程遠いものだった。長くボサボサとした髪の毛をした女性。ただし、腕はありえない方向に曲がっており、下半身はなく、胴体につながっている人間の足のようなものは飛び出した内臓だった。
今まで幽霊という存在を信じていなかった女子生徒でも、それが人間ではないとすぐに分かった。こんなところに怪我をしている人間なんているはずもないし、怪我している人間にしては活発に動いている。
女子生徒は顔を青ざめさせながら、ゆっくりと後ずさりして距離を取ると、幽霊に背をむけ歩き出した。万が一、走ったりして大きな音を出したら、あの幽霊に自分の存在がバレてしまう。
—ざざっ。
背後から砂利が転がる音がした。彼女は恐る恐る後ろを振り向いた。
「るぅーんごっ、ごっ、ごっごっ」
先程まで道の端にいた幽霊が中央でうずくまっていた。ただ先ほど違い、その顔は真っ直ぐに女子生徒を睨んでいる。目は黒色で塗りつぶされ、口からは血が滴り落ちていた。
「るぅーんご」
本能的に嫌悪感を感じてしまうようなこの声は、血が喉に詰まって上手く話せない音だった。
—ざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざ。
幽霊は折れ曲がった腕を使い、不気味に体を動かしながら、一気に女子生徒と距離を詰めた。
「きゃあああ!」
女子生徒は手に持っていた鞄を落とし、ひたすら走った。彼女は女子の中でも足が速い方なのだが、体を引きずっているの幽霊はそれよりも速かった。
彼女と幽霊の距離はどんどん縮まっていく。だが怖くて後ろを向くことができない女子生徒はそのことに気づいていなかった。
「いたっ」
足が急に動かなくなり、彼女は思い切り躓いた。
なぜ足が動かなくなったのか。彼女は倒れたまま、恐る恐る自分の足元に視線をうつした。
そこには幽霊が彼女の足首を掴み、血だらけの口を綻ばせながらニンマリと笑っている姿があった。
「るぅーんごっ」
「ぎゃあああ!」
必死に足を動かして抵抗するが、万力のような力で掴まれ、解くことができない。むしろ足首を握る力はどんどん強くなり、痛くなる一方だった。
「千草!」
「『月光』」
月の光のようなぼんやりとした光が女子生徒の視界を横切った。すると目の前にいた幽霊は手を簡単に離し、後ろへ飛び退いた。
「もう大丈夫だよ」
黒髪黒目で大した特徴もない顔立ち、ただ見ただけで優しそうな人だというのは分かる不思議な雰囲気を纏った青年、雅楽は女子生徒の背中を支え、あやかしと彼女を遮るように膝まずいた。
その雅楽を守るように二人の女性があやかしの前に立ちはだかった。
女子生徒はなんとなく自分が助かったことを理解した。
「あれは『てけてけ』じゃのう。この前の口裂け女といい、最近は人間に危害を加えるあやかしが増えておる。のう、カグヤよ」
「……うん」
カグヤは静かに答えた。彼女はいつも沈黙を纏っていた。初めて彼女を迎えてから二週間も経っているが、簡単な単語しか話せなかった。
「相変わらずだんまりか……。まあ良い。今回、助けには参上したが、この後は二人でてけてけを除霊しておくれ。今までの修行の成果を見せるのじゃ!」
「頑張るよ」
「……」
雅楽は丹田に意識を集中させた。全身に強大な力が湧き上がってくる。てけてけは折れ曲がった首をさらにあり得ない方向に傾け、警戒している。
「『たけのこの山』!」
てけてけに向かって大量のたけのこが生えた。もこもこと地面を突き破るたけのこの数は非常に多いが、それ以上のことは何も起こらず、てけてけもぽかんとしている。
「るぅーんごっ」
「……『もみじの絨毯』」
季節は夏だというのに、どこからか紅葉が舞った。紅葉で囲まれた森林に一陣の風が吹いたかのような風景だった。
カグヤは地面に手を押し付けた。地面は赤く染まり紅葉が積もっているかのようにも見える。女子生徒はその光景を「美しい」と感じた。非日常のあり得ない光景で命の危険が迫っていることも分かっていたが、それでもうっとりとしてしまうほど美しかった。
だが、ただ美しいだけではない。地面がさらに赤く発光すると、先程雅楽が生やしたタケノコがみるみる枯れ始めた。
「るぅーんごっ」
てけてけは異変を感じたのか、逃げようとしていた。必死に体を捻じ曲げ、凄まじい速度で離れている。
「『竹柵牢』」
突如として地面から竹が生えてきた。雅楽が生やしたたけのこではなく完全に成長している竹だ。それは柵の形をしながらてけてけの行先を阻んだ。
てけてけは急停止して、別の方向へ逃げようとした。しかし、どちらに逃げようかと悩んでいるその瞬間、体は完全に停止していた。
「……『大竹輪』」
カグヤがそう唱えると、てけてけの真下から巨大な竹が顔を出した。その先端は鋭く尖り、てけてけの胴体を貫いた。てけてけの体から流れ落ちる血が青々しい竹をつたって地面に血溜まりを作っている。
「んごっ、んごっ」
最後に短く鳴くと、てけてけは宙にとけるように粒子となって消えた。
雅楽たちの周囲にようやく柔らかな空気が流れ始めた。二人だけで除霊に成功した証だ。
「流石じゃのう。雅楽殿のたけのこを生やす能力と、栄養を吸い取りそれを自由に使うカグヤの能力は相性が良いみたいじゃ」
カグヤが雅楽たちに育てられるようになってから二週間、彼女があやかしとしての戦闘能力にも長けていることを知り、戦い方を模索した結果、今では雅楽とコンビを組みながら除霊に勤しんでいるのだった。
「助かった……の?」
一人落ちてけぼりの女子生徒は、何もすることができずポカンとしている。雅楽は彼女の手をつかむとそのまま立ち上がらせてあげた。
「あんまり夜道を一人で出歩かない方が良いですよ。あやかしもいるし、あやかしがいなくたって危険です」
雅楽は手を握ったまま注意をした。彼女はあまりの出来事に雅楽の声なんて入らないのか、返す言葉もなくただ黙っている。
「一応、家まで送りま……」
「あら。二人で除霊に成功したのね」
別のあやかしを除霊していた蓮香が雅楽に話しかけた。相変わらずその背後には大量のあやかしが控えている。
「きゃああ!」
先程まで突っ立っていた女子生徒は蓮香の後ろにいたあやかしを見て、どこかへ走り去ってしまった。相当怖かったようだ。あやかしに慣れてきたとはいえ、雅楽ですら卒倒しそうな光景だった。
あの女子生徒がどこかに行ってしまったことで、残されたのは雅楽たちと、彼女の香水の残り香だけになってしまった。
作者の紫 凡愚と申します!
この作品が面白い、気になると思った方は是非、ブックマーク、コメント、評価お待ちしています。途轍もないやる気になります! タイトル通りストックは最終話まであるため、人気になればどんどん投稿ペース上げてくのでよろしくお願いします!




