つららの鋭い愛
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治郎と千草の二人が寝静まっても、まだ寺子屋の中で一人だけ起きている人物がいた。その人物は雅楽の隣の部屋にいた。
「雅楽くんはもう眠ったようですねー」
雅楽のいる方の壁に耳を当てていたつららはベッドの上に横になると、大きく背伸びをした。その頬はあやかし界の空よりも赤く染まっている。
彼は顔を枕に埋めると、そのまま足をバタバタとした。月明かりを透かすまつ毛は長く、雪の結晶のようだ。
やはり彼の顔や体つきは女性そのもので、神秘的と言っていいまでに美しかった。
「影間をしていたことを教えた時にあんなふうに対応してくれたの、初めてでした……」
つららは恍惚とした表情で初めて雅楽と会話した時のことを思い出していた。
雅楽は一切のやましい感情無く「尊敬する」と言った。影間という職業柄、相手の表情から感情を読み取ることが得意なつららは、雅楽がそれを本心から言っていることに気がついていた。
今まで彼が自分のやっていた職業を伝えると、全員がつららのことを下に見るか、同情するような目で見るかの二択だった。そんな反応に慣れていたからこそ、雅楽の反応が新鮮で嬉しかった。
「ぬらりひょんが現れた時、私は命に換えても雅楽くんを守るつもりだったんですよねー」
ベッドと小さなタンスという最小限のものしか置かれていない空間に独り言が吸いこまれる。
つららは自分の服を脱いだ。彼の裸体は女性のように華奢で、雪のように白かった。磨かれた巻貝のように細い純白の指で、彼は服の裏面に刺繍をし始めた。
「できましたー」
しばらくすると服の裏面には雅楽の顔が可愛くデフォルメされた刺繍が出来上がっていた。彼はその着物をぎゅっと抱きしめた。
「これが恋なのですね。なんと甘美で、美しい感情なのでしょうか……」
それを純愛と言うには、あまりに彼の瞳は濁っていた。瞳の中にはドロリとした狂気と愛が混じり合い、笑みを浮かべている口から垣間見える尖った犬歯は凶器のようだった。
普通の愛は胸を熱くし、体をほてらせる。しかし、つららの愛はどこまで冷たく、体を痛いくらいにいてつかせる。
小さい時から影間として暮らしてきたせいで、普通の愛を彼は理解できなかった。
「早く明日になってほしいなぁ」
つららは着物を抱きしめ、雅楽の刺繍の部分に鼻を当てると大きく息を吸い込んだ。呼吸をするたびに、つららの背中から翼が生える。氷でできた翼だ。それは息を吸うたびに大きくなり、部屋の気温を下げる。
その姿は、彼の美しい女性的な見た目も相まって、本物の天使のようだ。
そのまま呼吸しているうちに、だんだんと息遣いは静かになり、眠り始めた。
つららは眠っている間も魔法を切らすことはなかった。彼の吐く息は冷たく、白い。その吐息は、縫われた雅楽の顔にあたり、凍らせていく。
雅楽の知らないところで、狂気の愛が始まろうとしていた。
作者の紫 凡愚と申します!
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