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ようこそ! あやかしの世界へ!  作者: 紫 凡愚
第2章 ぬらりひょんの娘
12/41

食卓

ブックマーク、コメント、評価、よろしくお願いします。

感想もくれたら、最高に喜んでしまいます。

 扉を開けると、暗い場所に繋がっており、機織り機があった。最初に見た機織り屋敷の内装だ。初めに来た時にはあれほど恐怖を煽った場所だったのに、あの不気味な住宅街に比べるやぬらりひょんに比べると全然怖くなかった。


「今日はぬらりひょんに会って疲れただろ。早く寺子屋に帰るぞ」

「うん」


 治郎を先頭に雅楽たちは寺子屋に戻った。道中、相変わらずたくさんのあやかしとすれ違ったが、雅楽は初めほど怖く感じながった。ぬらりひょんと一度会うと、ただ面妖なだけのあやかしが子犬のように可愛く思えた。


「わっはっは! 相変わらず雅楽は笑わせてくれるなあ! せっかく能力を解放させたっいうのに、タケノコが生える能力だったのか!」

「笑わないでよ、お父さん! 僕もショックだったんだから」


 寺子屋に着いた雅楽たちは全員で食事をしていた。その席で雅楽の能力を聞いた治郎は大笑いしていた。


「治郎さんは大笑いしてますけど、私は好きですよー、その能力。蓮香が生えたタケノコを使って美味しい青椒肉絲(チンジャオロース)作ってくれますしー」

「あら。つららが美味しいって言ってくれて嬉しいわ」

「確かに美味しいけどさ。もっとこう、ちゃんとあやかしを除霊することができる能力がよかったな……」


 机の上には青椒肉絲が盛り付けられたお皿が置かれている。

 寺子屋についてすぐ、つららが勝手に刈り取ってきたタケノコを出して、「蓮香、青椒肉絲が食べたいでーす」と言ったのだ。


 雅楽としては得体の知れない力で生やしたタケノコなんて食べたくなかったのだが、治郎たちはむしろ乗り気で全く気にしていなかった。


「そうは言うがな、なかなかいい能力だと思うぞ」

「お世辞は良いよ、お父さん」

「いや、マジだ。竹っていうのは植物の中でも物凄い素早さで成長するだろ? 今まで気づかないうちにその恩恵を受けていたはずだ」

「恩恵?」

「三者面談でよく言われるが、お前授業中よく寝てるだろ」

「ご、ごめんなさい」

「なのに物覚えは昔から良くて成績はいいじゃないか。何に対しても雅楽の成長速度は昔から異常なまでに早かったよな。真面目にやんないからそこそこの結果で終わるが」

「もしかして、成長速度が速いっていうのがこのタケノコの能力のおかげってことなの?」

「なるほど。竹は成長速度が他の植物と比べても段違いに早いからのう。だからあんなに早く能力を開花させることができたんじゃな」


 千草は箸を止めることなくひたすら動かしている。蓮香の作った青椒肉絲がお気に入りだったようだ。

 最初は面倒臭い姑のごとく文句を言おうとしていたのだが、あまりに美味しくて口答えすることができなかった。

 それは蓮香の味付けが上手いということもあるのだが、雅楽の生やしたタケノコが異常なまでの旨味を含み、圧倒的美味しさだったというのも理由の一つだった。


 千草は黙々と青椒肉絲を食べている。


「私のことを目の敵にしているくせに、料理は食べるのね」

「料理の腕だけは認めてやってもいいのう」


 青椒肉絲の他にもいくつか料理が置かれていた。中華料理独特な鮮やかな色彩が油で光り、目に映すだけで満腹になるような料理だった。どの料理も白い湯気と共に香ばしい匂いを漂わせている。


「ん! この野菜炒めのネギ美味しいですね! 私、ネギ好きなんですよー。陰間として働いているときは、お尻の穴の傷を治すために蒸したネギをよく入れてましたー」

「よくネギが好きになったね!」

「急にネギ食べたくなくなってきたわ」


 つららの余計な一言のせいで、ネギの価値が下がってしまったが、それにしても美味しそうな料理というのは変わらなかった。

 しかし、これほど食事を前にしてぬらりひょんの娘は箸を持とうとすらしなかった。ただ(うつろ)な目をしているだけだ。


「この子の名前はどうしますかー」


 つららがそう言ったおかげで思い出したが、彼女にはまだ名前がなかった。ぬらりひょんから名前をつけてほしいと言われていたのだ。


「確か百人の死体に紅葉を合わせてできたんですよねー? だったらそれにちなんだ名前がいいですねー」

「百人の死体にちなんだ名前なんて物騒なものになりそうだけど……」

「蓮香、考え方殺伐としすぎだって。紅葉にちなんだ名前にしようよ」

「はいはーい! 候補ありまーす!」


 皆が頭を悩ませる中、つららが勢いよく手を上げた。候補となる名前を思いついたようだ。 彼の目は爛々と輝いており、かなり自信がありそうだ。


「紅葉太郎なんてどうですか?」

「女の子なのに!?」

「センスないわよ、つらら。ぬらりひょんの娘だし、もっとかっこいい名前にしないと。そうね……、レッド・プリンセスとかどうかしら」

「まさかの洋名!」


 名前をつけることに関して、つららと蓮香には頼れそうになかった。二人とも本当にいい名前だと思っているのか、雅楽につっこまれた理由を分かっていなかった。


「お父さん! この中で子供いるのお父さんだけでしょ? 何か良い名前ない?」

「良い名前って言ってもなあ。雅楽の名前をつけたのはお母さんだし、俺はセンスないぞ」


 治郎はどこか遠くを見るような目をしている。雅楽という名前をつけた時を思い出しているようだ。彼は少し涙目で感慨にふけっている。


「お父さんも無理か……。千草は?」

「妾たちよりも、雅楽殿がつければ良いではないか。雅楽殿はぬらりひょんの選んだ正当な育て親なのであろう。それならば名前もつけてやるのが道理というものよ」

「確かにそれがいいかもな。まだ雅楽が小さい時、紅葉を見るために京都や奈良に連れていったろ? その時に説明書きを興味津々で見ていたし、紅葉についてはこの中で一番詳しいよな?」

「確かに紅葉は好きだけどさ……」


 雅楽は憂鬱そうに俯きながら「はぁ」とため息をついた。雅楽は今まで動物にすら名前をつけたことがなかった。誰かの名前をつけるという大事な出来事を、自分なんかが請け負っていいはずがないと思っていたのだ。

 ぬらりひょんの娘は自分が話題に上がっていることすら分かっていないのか、自我のない瞳で雅楽を見つめ続けている。

 雅楽はその黄色の瞳をじっと見つめ返した。吸い込まれそうな黄色の瞳を眺めているうちに、とある植物が浮かんだ。


「カグヤ。カグヤなんていいんじゃないかな?」

「……カグヤじゃと? 何故じゃ」

「僕が特に好きな紅葉に竹があるんだ。でもそれは赤色じゃなくて、黄色になるんだけどね。一般に知られている楓の木よりか派手さはないけど、あまり主張しない、お淑やかで成熟した黄色なんだ。彼女の瞳がその色に似ているんだ。竹みたいだから昔話から名前を取ってカグヤ」


 その場にいた全員の胸にカグヤという名前が染み込んだ。

 カグヤ。カグヤ。その名前を彼らは反芻した。

 なぜだかカグヤという名前以外が考えつかないほど、彼女らしい名前だった。


「本当にその名前で良いのか?」

「僕的には凄く良いと思うんだけど、ダメかな。お父さん……」

「その名前は……。いや、何でもない。良いと思うぞ」

「治郎お主……。まあ良い。妾もその名前は好きじゃ。雅楽殿の能力にも合っているしのう」

「私もその名前には賛成ですー。まあ、紅葉太郎の方が良いと思いますが」

「カグヤ……。可憐な響きだわ。レッド・プリンセスの方が良い名前だとは思うけど」

「二人ともまだその名前を引きずってたの!?」


 ぬらりひょんの娘の名前はカグヤに決まった。カグヤという名前をもらっても彼女には相変わらず感情の起伏はない。しかし初めて彼女の唇が動いた。


「カ……グヤ……」

「しゃ、喋った!」


 カグヤが初めて言葉を発した。薄桃色の唇をゆっくりと動かし発せられた言葉はまだ辿々しかったが、今まで喋ることができなかったことを考えると大きな進歩だった。


「あ……、あ……」


 その後にも言葉を続けようとしているカグヤを雅楽たちは見守っていた。しかし、言葉を発するだけで疲れたのか、彼女はその場で倒れgd眠ってしまった。

 畳の上で「すーすー」と寝息を立てている。


「まあ、巻き込まれちまったもんはしょうがない。でもちょうどいいんじゃないか? 雅楽は闇祓いとしての力を一か月で習得する予定だったし、この夏休みの目標をカグヤを育てるということにすれば」

「そうだね」

「蓮香、カグヤに布団をひいてはくれぬか」

「ええ。畳の上で寝たら風邪ひくものね。ぬらりひょんの娘が風邪をひくか知らないけど」

「さて、妾たちももう寝ようぞ。雅楽殿も初めて機織り屋敷に行ったり、ぬらりひょんに会ったりと疲れただろう。ただ治郎。少しだけ二人だけで話したい」

「俺もお前と話したいところだったんだ。しばらく席を外すからみんなは先に寝ていてくれ」


 治郎と千草は真剣な面持ちで部屋を出ていき、庭へ移動した。二人はなぜか「カグヤ」という名前を雅楽が決めた時から、神妙になっていた。

 雅楽たちはそんな二人を不思議そうに見送った。

作者の紫 凡愚と申します!

この作品が面白い、気になると思った方は是非、ブックマーク、コメント、評価お待ちしています。途轍もないやる気になります! タイトル通りストックは最終話まであるため、人気になればどんどん投稿ペース上げてくのでよろしくお願いします!

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