惚れた相手の暗殺者率が100%な件
俺は今、覆面を被った暗殺者と戦っている。
相手は女性の様だが、かなりの手練だ。
相手がナイフを投げてきた。
俺はそれを咄嗟の判断で避ける。
そのまま相手の懐に入り込み
喉元をナイフで切り裂いた。
相手の暗殺者が倒れ込む。
追撃の一撃を胸に突き刺すと動かなくなった。
俺は殺した暗殺者の覆面を外した。
その素顔は見知った顔だった。
俺は泣き叫んだ。
「まったかよおおぉぉ!!うわあああぁぁ!!」
俺は暗殺者だ。
暗殺者といってもただの暗殺者ではない。
国に認められた暗殺者だ。
俺はとある国の秘密組織に雇われた身で
国が指定した標的を殺すのが俺の任務だ。
標的を護衛する人間や
俺を狙う刺客を殺す権利も与えられている。
主な標的はテロリストだ。
他にも盗賊や暗殺者を標的にしている。
テロリストと称した
反国王派の人間を殺させられている疑惑もあるが
俺は深く考えない様にしている。
そんな俺は惚れっぽい人間だ。
今まで何人もの女性に惚れてきた。
俺が惚れる相手には共通点がある。
そして必ず共通点には気づかずに惚れてしまう。
……その共通点とは正体が暗殺者な事だ。
国に雇われた俺は暗殺者に狙われる事がある。
それをことごとく返り討ちにして殺すのだが
その暗殺者が惚れた相手だった事が何度かあった。
国が指定した標的が惚れた相手の事もある。
標的の暗殺者が惚れた相手だと気づいて
悲しみに暮れながら殺した事が何度かあった。
そんな俺を狙った暗殺者がまた惚れた相手だったのだ。
彼女との出会いは約1ヶ月前の事だ。
**********
その日の俺は急な雨に襲われていた。
あいにく傘の一つも持ち合わせていなかった。
そんな俺に傘を貸してくれたのが今回殺した相手だった。
その女性は偶然にも近所に引っ越してきたばかりだった。
だからその後も何度も会ってはたわいもない話をした。
そんな日々に心が救われた気がしていた。
俺は彼女に心惹かれていった。
いつしかそれは恋心に変わっていた。
俺は孤独な暗殺者だ。
国に雇われた身だが
一緒に行動する同僚はいないも同然だ。
そして家族は居なかった。
家族は俺が幼い頃に暗殺者に殺されてしまった。
俺はその事で暗殺者を憎む様になった。
暗殺者を殺せる様になる為に沢山の鍛錬を積んだ。
その結果。国が認める暗殺者になれたのだ。
憎き暗殺者を殺す為に選んだ職業が
憎んだ相手と同じ暗殺者というのは皮肉な話だが
俺はそんな現状を受け入れていた。
……惚れた相手が100%暗殺者な事以外は。
**********
惚れた相手を殺してしまい
悲しみに暮れる俺に一人の男性が近づいてくる。
それは俺の監視役であり
死体の後片付け担当でもあるシャルルだ。
彼は常に俺を監視しており
俺が人を殺すとこうやって接触してくるのだ。
「はぁ。またですか」
彼はしれっとそう言った。
俺が惚れた相手を殺してしまったと
分かっていてこの態度である。
彼はそういう人間だった。
「そっとしておいてくれよ」と俺は呟く。
「そうは行きません。これは僕の仕事ですから」
彼はそう言って遺体を背負った。
俺は遺体を背負った彼に付き添って
秘密の処分場へと運ぶのを見届ける事になる。
監視役と離れるのはルール違反である。
だから俺は惚れた相手の遺体を眺め続けるハメになるのだ。
俺は泣きながら彼の後を追う。
彼はそんな俺に全く構わずに淡々と歩き続ける。
そして秘密の処分場に到着する。
惚れた相手の遺体が火葬されていく。
俺はそれを眺めて涙を流す。
彼はそんな俺を平然と眺めている。
骨になった惚れた相手を
即席の墓に彼が埋めていく。
俺はその光景を見て更に泣き叫ぶ。
それが終わったら
彼と一緒に我が家へと向かう事になる。
俺が泣きながら我が家に帰ると
彼は向かいにある住処へと入っていく。
ここまでが毎度のやり取りだ。
その後の俺は一晩中泣き続けた。
気がついたら眠っていて
起きたら昼過ぎだった。
俺は惚れた相手を殺した事を引きずりながら
暗殺の任務へと向かった。
これもいつもの事だ。
その日の俺は標的を淡々と殺した。
標的の盗賊とその仲間たちを殺していると
俺の心まで死んでいく気がした。
**********
それから約一ヶ月。
俺はもう恋はしないと誓っていた。
また惚れた相手を殺してしまうのは嫌だったからだ。
そんな俺の家の隣に一人の女性が引っ越してきた。
その女性は地味な見た目だった。
引っ越しの挨拶に来た時は
緊張のせいか挙動不審になっていた。
「ここ、こんにちは!わわ、私は隣に引っ越してきたエミリーでご、ごじゃいます!以後お見知りおきををを!」
「はあ。ご丁寧にどうも」と俺は返事をした。
彼女は恥ずかしそうにしながら
そそくさと去って行った。
俺はそれを見届けてからまた任務へと向かう。
今日の標的はテロリストだ。
どうやらテロ組織の幹部らしい。
まあ殺す相手の事なんてどうでもいいか。
そう思いながら標的の隠れ家に向かった。
隠れ家に到着すると見張りの男性が二人いた。
俺はそいつらにナイフを投げつけて殺した。
そのまま隠れ家に突入する。
中には何人ものゴツい男性がいたが
そいつらもサクサクと殺していく。
殺した奴らが大声で叫んでいたので
またテロリストどもが集まってくる。
俺は冷静にそいつらをナイフで殺していく。
ナイフは常に何本も携帯している
特注品で殺傷力が高い。
俺はその必殺の武器で
数え切れないほどの命を奪ってきた。
今日もそのナイフが何人もの命を奪っていく。
一人の男性が建物の外に逃げ出した。
恐らくアイツが今回の標的だ。
俺はすかさず後を追う。
標的が見えてきた。
俺はナイフを投げつける。
ドスッ!
見事に命中し相手が倒れ込む。
その男性に近づきトドメを刺した。
顔を確認する。
うん。今回の標的だな。
間違いない。
すると監視役のシャルルが近づいてきた。
「いやー見事な手際ですね。流石です」
彼はそう言いながら拍手をしている。
彼はこう続けた。
「いつも通り処理班を呼んでいます。後は彼らに任せましょう」
今回の様に殺す相手が大人数だと事前に分かっている時は
専門の死体処理班を呼んで彼らに片付けてもらっている。
それを見届ける必要は無い。
俺はシャルルと一緒に我が家へと向かった。
我が家の前で彼と別れる。
彼は向かいにある住処へと入っていく。
すると隣の家に住んでいるエミリーに話しかけられた。
「ええええぇっ!?い、今のってもしかしててて!?」
彼女はまた挙動不審になっている。
彼女はこう続けた。
「今のってもしかして、あなたの恋人さんですか?」
……何を言ってるのだ彼女は。
俺は呆れながらこう答えた。
「今のはただの知り合いですよ。それと彼は男性です」
彼女はとても驚いた。
「えええっ!?あんなにお綺麗なのに男性なのですか!?」
シャルルは中性的な容姿だし背も少し低い。
その為よく女性と間違われる。
だが見た目とは裏腹な怪力の持ち主だ。
そんな彼と俺との仲はお世辞にも良いとは言えない。
それなのに恋人と間違えられるなんて誠に遺憾である。
「ではそういう訳なので。失礼致します」
と言いながら俺は我が家の中に入った。
エミリーはなんだか納得できないという表情だった。
……まさか俺の説明を言い逃れの嘘だと思ってるんじゃないだろうな?
「まあどうでもいいか」
俺はそう呟くと風呂に入った。
そして夕食を食べてから眠った。
**********
翌日。
俺は家でゴロゴロしていた。
今日は休日だからだ。
暗殺者にも休日はある。
やってる事は真っ黒だが
待遇は案外ホワイトだ。
家の扉を叩く音がした。
俺は警戒しながら家の外の様子を見る。
だがそこに居たのは隣人のエミリーだった。
俺は鍵を外して扉を開けた。
「こんにちはエミリーさん。何かご用でしょうか?」
「実家から沢山の野菜が送られて来たんです。一人じゃ食べきれないのでご近所さんにおすそ分けしてるんですよ」
「そうですか。ではありがたくいただきます」
「はいどうぞ。とっても美味しいですよ!」
「ありがとうございます。今晩料理して食べてみますね」
「ではさようなら。できればお料理の感想くださいね」
「はい分かりました。ではさようなら」
俺たちはそんなやり取りをした。
たわいもないやり取りだが心が安らいだ気がした。
俺はその野菜で料理を作って食べた。
うん。美味しい。これは質がいい野菜だ。
今度会ったら美味しかったと伝えておこう。
**********
数日後。
俺は任務に向かっていた。
今回の標的は潜伏中のテロリストだ。
標的はこの辺りに潜んでいるという情報を貰った。
それはとてもザックリとした情報だった。
まあこういう事も珍しくはない。
俺はある家に目星を付け
少し離れた所から観察している。
空振りに終わる事もあるが
これが一番無難な手段だ。
しばらくすると怪しい人物が出てきた。
顔の大半を隠しているので標的かどうかは不明だ。
俺はその人物の尾行を始める。
暗殺者だから尾行ぐらいはお手の物だ。
俺は気づかれずにその人物の後を追った。
その人物はある建物に入っていった。
俺はその建物に忍び寄る。
窓の鍵が空いていたのでそこから中に入る。
ここがただの民家だとしても俺は許される。
そのぐらいの事は黙認される立場に俺はいる。
だが現地の警察に捕まると面倒な事になる。
だから見つからない様に注意しなければならない。
建物の中を慎重に進むと
いくつかの部屋の扉があった。
その内の一つから微かに話し声が聞こえる。
その部屋に近づき聞き耳を立てる。
話してる内容はただの日常会話の様だった。
だが暗号や筆談でやり取りをしている可能性もある。
気づかれない様に扉を少しだけ開き
こっそり中を覗き込む。
そこには二人の人物がいた。
その内の一人は尾行していた人物だろう。
その人物がこちらに向かってくる。
俺は慌てて扉から離れる。
一瞬だが顔を確認できた。
あれは間違いなく今回の標的だ。
しかし標的はなかなか部屋から出てこない。
もしかして気づかれたか?
と思っていると何かがこちらに飛んできた。
それは破裂して煙を吐き出した。
くそっ!煙玉かっ!
あっという間に煙は充満し
少し先すら見えなくなった。
そしてまた何かが飛んでくる。
俺は自分の耳と野生の勘に頼りながら
それをナイフで撃ち落とす。
キン!と金属音がした。
恐らく刃物のたぐいだろう。
それは次々と飛んできた。
俺はそれらを迎撃しながら
曲がり角まで走って逃げる。
煙幕から抜け出すと
大柄な男性が待ち構えていた。
彼は斧を振り下ろしてきた。
俺はそれを横に躱しながら相手の懐に入り込む。
そしてナイフで心臓を一突きした。
大柄な男性は倒れ込みそのまま息絶えた。
「完全に気づかれてしまったな」
俺はそう呟く。
だがここがテロリストの隠れ家だと確信できた。
だったら全員殺すまでだ。
あまり時間はかけられない。
もたもたしていたら
近隣の住人に警察を呼ばれる恐れがある。
俺は急いでその建物にいる
テロリストどもを殺していった。
幸いにして大した人数はいない様だ。
だが標的が見つからない。
俺はさっき標的がいた部屋へと向かう。
中にはまだ標的が残っていた。
先程会話をしていた相手も一緒にいる。
俺はナイフを標的に投げつける。
それは撃ち落とされてしまったが
そのまま標的に近づき喉元を切り裂いた。
その瞬間。俺は左腕に痛みを感じた。
俺はそれに怯むことなく
もう一人の人物にナイフを投げつける。
命中したが致命傷には至らない。
俺は追撃を繰り出していく。
だが相手は手練の様で
なかなか致命傷を与えられない。
俺は一旦相手との距離を取り
ナイフを連続で投げつける。
それも防がれるが一瞬の隙が生まれた。
俺は一気に距離を詰め
胸にナイフを突き刺した。
相手は倒れ込み動かなくなった。
俺は念の為に倒した二人にトドメの一撃を放つ。
これで確実に殺す事ができたな。
先程痛みを感じた左腕を見ると
刃物で切られた跡があった。
傷は浅くはなく血が流れ出ている。
俺は適当な布で傷口を縛ってから
急いでその建物から去って行った。
我が家に戻ると既に日が暮れていた。
中に入ろうとすると近くに誰かがいた。
それは隣人のエミリーだったので声をかける。
「こんばんはエミリーさん。先日いただいた野菜はとても美味しかったですよ」
「それは良かったです……。って怪我をしてるじゃないですか!一体どうしたのですか?」
「ちょっと木の枝に引っ掛けてしまいまして……。でも軽傷だから大丈夫ですよ。自分で手当てもできます」
「それなら安心しました。ですが傷口にばい菌が入るといけないので、しっかり消毒してくださいね」
「はい分かりました。お気遣いありがとうございます」
俺は彼女とそんな会話を交わしてから
我が家の中に入った。
誰かに心配して貰うのなんて久しぶりだなと思った。
シャルルの野郎は俺の怪我を見ても何も言わないからな。
だから心配してくれた彼女の反応は新鮮に感じられた。
それに彼女と話していると心が安らぐ気がする。
俺は彼女の忠告通りに傷口をしっかり消毒した。
その後は夕食を食べてさっさと眠った。
**********
それから約一ヶ月が過ぎた。
相変わらず任務を淡々とこなす日々だ。
でもそんな俺の暮らしにちょっとした変化があった。
それは隣人のエミリーとの交流だ。
彼女はよく俺の家を訪ねてくる。
そしてたわいもない話をしたり
余った料理を分けて貰ったりする。
休日には二人で買い物をする様にもなった。
彼女は野菜に詳しくて美味しい野菜の見分け方を教えてくれたりする。
彼女と過ごす時間はとても楽しかった。
そして気がついたら俺は彼女に惚れていた。
もう恋はしないという誓いはあっさりと破られたのだ。
だが彼女に想いを伝えるつもりはない。
俺は血塗られた暗殺者だからだ。
彼女には普通の人として幸せになって欲しい。
俺はただそう願っていた。
**********
俺は今、任務で国の偉い人の護衛をしている。
最近になって国の要人が何人か暗殺されているらしい。
それで俺が護衛として要人の警護をしている。
護衛といってもピッタリと付き添っている訳ではない。
少し離れた所から見守って
要人が襲われたら暗殺者を返り討ちにしろとの指令だ。
要人は暗殺者をおびき寄せる為の餌って訳か。
それでいて殺されたら俺の責任にされるんだから損な役回りだな。
その要人は昼間から街頭で演説をしている。
俺は護衛の兵士という臨時の肩書きを与えられ
要人を少し離れた場所から見守っている。
すると要人に向かって何かが飛んできた。
俺はすかさずナイフを投げてそれを撃ち落とす。
撃ち落としたのはナイフだった。
暗殺者のお出ましの様だな。
俺はナイフが飛んできた方向へと飛び跳ねる。
そこには仮面を付けた暗殺者がいた。
顔は分からないがどうやら女性の様だ。
暗殺者は屋根の上を走って逃げようとする。
俺はそれを追いながらナイフを投げつける。
しかしそれは避けられた。
お返しとばかりに俺の方にナイフが飛んでくる。
俺は難なくそれを避けながら更にナイフを投げる。
それは暗殺者の左手に命中した。
だが暗殺者は怯まずに俺に何かを投げつけてくる。
なんとか撃ち落としたが、それは煙を吐き出した。
しまった!これは煙玉だ!
そう思った俺はすかさず屋根から飛び降りる。
丁度手すりがあったのでそれに掴まる。
だが暗殺者を見失ってしまった。
俺は護衛対象を守る事には成功したが
暗殺者の殺害には失敗してしまった。
その後も要人を護衛したが
暗殺者が再び現れる事は無かった。
**********
数日後。
任務で朝早くから出かける事になった。
俺が家から外に出ると
隣人のエミリーも家から出てきた。
俺は彼女に話しかける。
「おはよう。エミリーさん」
彼女は笑顔でこう答える。
「おはようございます。今日はいい天気ですね」
その時である。
俺は彼女の左手に包帯が巻かれてる事に気がついた。
俺の視線に気づいた彼女はこう言った。
「ああ、これですか?ちょっと包丁で切ってしまって……。でも大した事はありませんよ」
「大した事ないなら安心したよ。お大事に」
と俺は答え、そのまま彼女と別れた。
その日の任務は森に現れる盗賊たちの退治だった。
俺は商人のふりをして森に馬車を走らせる。
しばらく馬車を走らせていると
狙い通りに盗賊たちがやってきた。
馬の蹄がくぼみにハマり鳴き声をあげる。
それと同時に盗賊たちが馬車に襲いかかってくる。
その盗賊たちを俺は特注のナイフでサクサクと片付けた。
あっという間に任務を終わらせると
馬車に同乗していた監視役のシャルルがこう言った。
「流石ですね。あの数の盗賊を一瞬で片付けるなんて」
俺は適当に相槌を打ち、再び馬車を走らせる。
街に戻った俺は借りた馬車を返却した。
日が暮れる頃に我が家へと戻れた。
中に入ろうとすると隣人のエミリーに声をかけられた。
「こんばんは。あなたもお仕事の帰りですか?」
「ああそうだよ。まあ今日は比較的楽な仕事だったかな」
「へーそうなんですか。ところでどんなお仕事をされているのですか?」
「一応公務員だよ。役割は……分かりやすく言うと清掃員かな?」
「へー意外ですねぇ。あんまりそう見えないです」
「よく言われるよ」
「ふふっ」
俺たちはいつも通りにたわいもない話をした。
その時間は俺にとっては安らぎであった。
まるで普通の人間の様に話す時間を、俺は大切に思っていた。
**********
約半月後。
俺はまた任務で国の偉い人の護衛をしている。
つい最近になって
また要人が一人殺されたらしい。
それで俺がまた護衛をしながら
暗殺者の抹殺を目指す事になったのだ。
今回は偉い人の側で護衛をしろとの指令だ。
それだけ国にとって重要な人物なのだろうか。
まあ特に興味もないけどね。
その要人は貿易関係の人間らしく
港の中を歩き回っている。
俺はその要人の護衛として付き添っている。
しばらく歩いていると何かが飛んできた。
俺はそれをナイフで撃ち落とす。
だがそれは煙を吐き出した。
また煙玉か。
俺は要人を支えながら走り出す。
だが逃げた先にも煙幕が広がっていた。
まずいぞこれは……。
風を切る音と共に何かが飛んでくる。
俺はそれをナイフで迎撃する。
飛んできたのはナイフだった。
飛んできた方向にナイフを投げ返すのも考えたが
関係のない人に当たる危険性があると思い中止した。
くそっ……。
このままだとジリ貧だぞ。
俺がそう考えていると
聞き覚えのある声がした。
それは監視役のシャルルの声だった。
彼はこう言いながら近づいてきた。
「要人の護衛は僕に任せてください。あなたは暗殺者を始末してください」
「分かった」とだけ俺は答え
ナイフが飛んできた方向に走り出す。
ナイフの標的にならない様にジグザグに走っていく。
それでも何本かナイフが飛んできた。
俺はそれを避けたりナイフで防いだりした。
要人の方にもナイフが飛んで行くが
シャルルがそれを迎撃している。
実は彼はかなりの実力者だったりする。
そして俺は暗殺者の元に辿り着いた。
相変わらず仮面を付けているが
以前に要人を狙っていた暗殺者と同一人物だろう。
俺は暗殺者に向かってナイフを投げた。
それは簡単に避けられた。
その隙を狙って間合いを詰めようとする。
しかし暗殺者はそれを嫌って後ろへと跳ねる。
そして何かを取り出した。
俺はとっさにナイフを投げそれに命中させる。
すると暗殺者は煙に包まれた。
どうやらまた煙玉を使う気だった様だ。
俺は煙に向かって数本のナイフを投げつけた。
それと同時に側面から暗殺者へと近づいていく。
ナイフが飛んでくるが俺はそれを撃ち落とす。
すると煙が晴れてくる。
暗殺者はすぐ近くにいた。
俺はナイフを投げる。
だがそれは防がれた。
俺は「計算通り」と呟きながら
暗殺者との距離を詰める。
そして胸にナイフを突き刺した。
その勢いのまま暗殺者の背後に回り
今度は首をナイフで切り裂いた。
暗殺者は倒れ込んだ。
俺は更にナイフを胸に刺してやった。
これで確実に殺せたな。
「ふぅ……。なかなか手強かったな」
俺はそう言いながら暗殺者の仮面を外す。
…………そして俺は絶望した。
その暗殺者は隣人のエミリーだった。
俺はまた惚れた相手を殺してしまったのだ……。
俺は泣き叫んだ。
「まったかよおおぉぉ!!うわあああぁぁ!!」
おしまい。