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第九十五話 桔梗ちゃん、詩恩くんの父親と出会う

桔梗視点です。

 アパートの給水タンクの修理が終わって、しーちゃん達はお部屋に戻っていきました。彼らと一緒に暮らしたのは二週間ほどですが、好きな人と一つ屋根の下で過ごす日々はすごく楽しかったです。またいつか一つ屋根の下で暮らしたいなと願いながら、今日も彼のお部屋に向かいます。


(しーちゃんは外出していますから、代わりにお掃除をしましょうか)


 お部屋の主であるしーちゃんですが、新聞部の取材で朝から学校に行っています。個人的にはついていきたかったですけど、いつまでかかるかわからないそうなので留守番ついでにお掃除をしたいと提案し、彼から許可を得られました。


(簡単なお掃除は済ませているみたいなので、普段しーちゃんが出来ないところをしましょうか)


 六月中に起きた水道トラブルの影響でずれ込んでいた冬服のお片付けや、長雨で干せなかったお蒲団を干したりなど、思い付いたことをしていきます。一人分でもお蒲団は重くて悪戦苦闘しましたが、どうにか掃除を終わらせお買い物に行き、昼食を作ろうと考えていたところ突然インターホンが鳴りました。


(しーちゃんが帰ってきたのなら普通にドアを開けるでしょうから、お客様でしょうか? それとも何か頼んでいたお荷物が届いたのでしょうか?)


 どちらにしても本人不在なので私が対応するしかありません。ひとまず来客がどなたか確かめるため、私はドアを開けました。


「はい、どちら様でしょう?」

「むっ......お嬢さん、どうやら部屋を間違えたようだ。失礼する」

「えっと、はい」


 訪ねてきたのは四十代前半の男性で、スーツを着こなしているビジネスマンみたいに思えました。しかしどうも別のお部屋に用事があったみたいで、軽く頭を下げて去って行きました。しかし、数分もしないうちにまたインターホンが鳴って、同じ男性が訪ねてきました。


「あの、どうなさいました?」

「お嬢さん、すまないが一つ確認させて欲しい。ここは桜庭詩恩が住む部屋で間違いないな?」

「はい。しーちゃんのお部屋ですけど」

「そうか。では失礼する」


 この部屋にしーちゃんが住んでいることを確認すると、再び男性は扉を閉めました。しーちゃんにご用があったのかなと思っていると、扉の向こうから男性の怒号が漏れ聞こえてきました。


『どうい.....詩恩!! お前......暮らしを.....が、年端も......ぞ!!』

「はぅぅ!!」


 ごく一部しか聞こえてきませんが、それでも男性が激怒している様子が伺え、私は身をすくめます。しかし、漏れ聞こえた中にしーちゃんの名前があったため、私は微かにドアを開いて、男性の様子を確かめました。


『同い年だと!? そのような見え透いた嘘、私が信じると思っているのか詩恩!!』


 どうも男性は電話をかけているみたいで、通話している相手――しーちゃんにかなりご立腹でした。とはいえしーちゃんが絡んでいるのでしたら、私も無関係ではありません。


「ともかく、こっちに戻って説明しろ! いいな!!」


 男性が一方的に捲し立てて電話を切った直後、私はなけなしの勇気を振り絞りドアを開けました。とても怖かったですけど、しーちゃんに関わることです。ドアが開く音に気付いた男性に、私は話しかけました。


「あのっ! しーちゃんと何を話されていたのですか?」

「お嬢さん、盗み聞きとは感心しないな。それにこれは私と詩恩の問題だ。お嬢さんには関係が」

「関係あります。おじ様がしーちゃんのお知り合いなら、佐藤桔梗って名前に聞き覚えありませんか?」


 関係ないと男性が言い終わる前に、私は自分の名前を彼に告げます。しーちゃんのことを知っている人なら、この名前を無視出来ないと思ったのですが、効果は想像以上でした。名前を聞いた瞬間、男性の表情が驚愕に染まり、恐る恐る確認してきました


「佐藤、桔梗......まさか、お嬢さんが詩恩の恩人の娘、なのか?」

「恩人と言っていいかはわかりませんけど、ずっとしーちゃんとお手紙をやり取りしていたのは、私です」

「そうか。それは大変失礼なことをした。お嬢さん、愚息のことを支え続けたこと、父親として非常に感謝している」


 男性が深々と頭を下げて謝罪と感謝を告げましたが、今度は私が驚かされる番でした。しーちゃんのことを愚息と表したということは、つまりこの男性は――。


「申し遅れたが、私は桜庭詩恩の父、桜庭遥馬だ」

「えっ、あっ、はぅぅ!!」


 遥馬さんの正体がしーちゃんのお父さんだとわかり、私は酷く動揺してしまいました。突然彼氏のお父さんとの初顔合わせになってしまったのと、知らなかったとはいえとても失礼な態度を取ってしまったからです。


「桔梗さん、まずは落ち着きたまえ。先ほどまでの毅然とした態度はどうしたのだ?」

「その、しーちゃんのお父さんだと聞いて、もっと緊張してしまって」

「それで何故緊張する?」

「はぅぅ、あの、えっと、わ、私がしーちゃんの、彼女だからです」


 しーちゃんとお付き合いしていると、蚊の鳴くような声で遥馬さんに話しました。本当ならもっと準備してから挨拶したかったですし、しーちゃんのお父さんに悪印象は与えたくなかったですから。しかし、遥馬さんは私が彼女だとを聞くと僅かに口角を上げました。


「詩恩に彼女が出来たのは妻から聞いていたが、まさかあやつの恩人だとは思わなかった」

「えっと?」

「まったく、詩恩は果報者だな。怯えながらも、彼氏のために勇気を出せるような優しい子に巡り会えたのだからな。桔梗さん、これからも詩恩を頼む」

「はぅぅ!?」


 遥馬さんは再度頭を下げ、今度はしーちゃんのことを私に頼んできました。突然のことで驚きましたけど、少なくとも嫌われたわけではないのでしょう。


「すまんが、上がらせてくれないか? この暑い中外は厳しい」

「す、すみません!! 今すぐお茶をお出ししますから、ごゆっくりどうぞ!!」


 ずっと立ち話をさせていたことに今更気付き、私は遥馬さんをお部屋に招き入れました。久し振りに休暇が取れたのでしーちゃんの様子を見に来たらしいですけど、それなら来る前に言って欲しかったです。ちなみに歌音さんもいらしていたみたいで、平謝りされました。

お読みいただき、ありがとうございます。

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