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第八十九話 詩恩くん、親友達を祝福する

 六月になって梅雨入りした。ここ数日雨続きで、蒸し暑かったり洗濯物が乾かなかったりして気分が沈んでいたのだけど、それを吹き飛ばすようないいニュースが入ってきた。


「明日太、御影さん、お付き合いおめでとうございます」

「お二人がお付き合いを始めて、嬉しいです」

「ありがとう。二人が背中を押してくれたおかげだよ」

「そうだな。お前達には本当に感謝している」


 そう、明日太と御影さんが付き合い始めたのだ。それも意外なことに、明日太の方から告白したとのことで、恋愛のれの字も知らないような彼がよくも告白まで出来たと、昨日の夜当人から報告を受けときに思ったものだ。


「いえいえ。僕達としても親友同士が付き合うのは都合がいいんです。四人で遊ぶとき自然とダブルデートになりますからね」

「言われてみればそうなるよね。じゃあ今度行ってみようか」

「いいですね。早速次の日曜日に」

「構わないが、しばらく雨だぞ?」

「ですよね......」


 みんなで遊べると思った矢先に明日太から週間予報で雨続きだと指摘され、ガックリと肩を落とす。梅雨だからといってここまで降らなくてもいいのに。


「そういえば明日太、どうして昨日告白しようと思ったんですか?」

「あっ、私も気になります。一昨日ならお休みで、鈴菜さんからデートしていたと聞いてましたからまだわかるんですけど」


 デート終わりに告白したのならともかく、昨日は平日だ。個人の自由だと言われればそれまでだけど、何となく理由が気になった。


「実はなんだが、これまでのデートで、別れ際で身内に声をかけられて、告白する空気じゃ無くなるのがパターン化してきてな。ならいっそ学校で御影に」

「明日太くん、御影じゃなくて鈴菜だよ?」

「......鈴菜に告白しようと考え、クラス委員の仕事が済んだあとで屋上に呼び出したんだ」


 告白に至る経緯を話す明日太に、呼び名のことで注意する御影さん。どうやら主導権は彼女にあるみたいで、何となく彼ららしいと思った。それにしても、デートのクライマックスの度に水を差されているなんて、創作ではよくあるけど現実でも起きるものなんだ。


「なるほど。確かに告白を邪魔されたら仕方ないですよね」

「一度目は天野先生、二度目は母さん達だ。弟や先生はまだしも母さんがキツかった」

「ウチは好きだよ? 肝っ玉母さんって感じで」

「別に僕も嫌いじゃない。ただ鈴菜との関係性を根掘り葉掘り聞いてくるんだ」

「ああ......」

「その、お気の毒様です」


 どうも息子のいる母親というのは、どこも対して変わらないらしい。他人ごととは思えない明日太の発言に僕は遠い目をし、桔梗ちゃんは苦笑していた。


「それで、続きはどうなりました?」

「空を見て雨が降りそうだったから、降り出す前に話を切り出した。日曜日のデートは楽しかったが、一つだけ言い忘れたことがあったとな」

「それを聞いてウチは、期待と不安が半々で明日太くんの言葉を待ったんだ。もし告白じゃ無かったら、ウチの気持ちを伝えようって思いながら」

「もちろん僕は鈴菜がそう思ってるって知らないから、内心緊張しながら自分の想いを伝えた。鈴菜からの返事を聞いて、本気で驚いたくらいだ」


 うん、明日太はそうなると思ってた。僕が言えた義理じゃ無いけど、自分の気持ちに気付かないくらいだから、寝耳に水もいいところだっただろう。


「両想いだとわかって、よかったじゃないですか」

「まあな。ただその直後に降り出したから、告白しただけでそのまま屋上から立ち去った」

「それで昇降口まで一緒に帰ったら土砂降りで、しかも傘を持ってなから、明日太くんと相合い傘して帰ったんだよ」


 何というか、運がいいのか悪いのかわからない。昨日は朝は曇りで降水確率もそれほど高くなかったから、明日太に呼び出されなかったら御影さんは雨に降られずに帰れたかもしれない。だけど告白されたからこそ相合い傘出来たわけで、総合的にはよかったのかも。


「結果的に身内に見られて即バレたんだがな」

「校門にお姉ちゃんがいて、帰りに明日太くんのお母さんにあったからね」

「いいじゃないですか。隠すよりは」


 僕や桔梗ちゃんみたいに両親公認の仲になれとは言わないけど、身内が知っていた方がいいこともある。特に御影さんの家は母親も姉も先生なので、付き合っている彼氏の素行などが問題になってくる可能性だってあり得なくは無い。そういう意味では明日太は満点の彼氏だと思うけど。


「というわけで、クラスメート達にも伝えましょう」

「そうですね。皆さんきっと祝ってくださいます」

「だといいけど」

「僕はどうなるだろうか」


 クラスメート達の反応を想像し、肩をすくめる御影さんとため息をつく明日太。林間学校のときも彼を簀巻きにしていたので、間違いなく酷い目に遭うだろう。


「そのときはそのときですよ。彼らなりに祝いたいだけでしょうから」

「まあ、それはわかってるがな」

「男の子の歓迎って激しいんだね」

「はぅぅ、女の子でよかったです」


 個人的には女子からの追及もキツいと思うけど。際どい質問とか多いから、桔梗ちゃんが気絶しかけたこともあったし。きっと二人も似たようなことを経験することになるだろうけど、そういうのを越えてお似合いのカップルになって欲しいと、僕は願ったのだった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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