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第八十四話 詩恩くん、ライバルから心配される

 キャンプファイヤーのあと、割り当てられた部屋へと移動した。すでに蒲団が敷かれているので、みんなが戻ってきたあとで枕投げが行われると思われる。ちなみに僕は不参加だ。


(個人的には参加したかったですけど、熱中症になりかけてたから仕方ないですよね)


 あれから水分はしっかり取っているし、多少動いても大丈夫だと思うけど過信は禁物だ。しかし他の人が楽しそうにしていると参加したくなってくる。そのため彼らが部屋で楽しんでいる間、僕はお風呂に入って時間を潰すつもりだ。


(幸か不幸か、僕だけお風呂の時間が違いますからね)


 僕の体は限りなく女子に近い男子なのでどっちの風呂にも入れず、特別に施設の管理人さん達が入るお風呂を使っていいと言われている。万が一脱水症状になったら嫌なので飲み物を持ち込んでから、じっくり体を洗おうと思う。


(それはいいですけど、待つのも退屈ですから、ロビーにでも行きましょうか)


 僕達男子が泊まる部屋は東棟、女子は西棟にそれぞれ配置され、互いの棟への行き来は原則禁止になっている。しかしガス抜きのためロビーでの会話は許可されている。ちなみに風呂に向かうためには一度ロビーを通らないと行けない構造になっているため、それなりに人の目がある。


(桔梗ちゃん達はお風呂ですから、他のクラスの人でもいればいいですけど)


 ほとんど知り合いはいないけど、一人でボンヤリするよりはいいと思い足を運ぶと、紫宮さんと近衛くんが携帯を持って電話していた。普通通話するなら人と距離を取るはずだけど、二人は何故か会話が聞こえるほど近くにいたため気になった。


「明後日、ですわね。わかりましたわ」

「それなら私もお嬢様と歓迎の準備を致します」


 珍しいことに近衛くんが標準語、それも敬語で話しているので、紫宮さんの実家の人が相手なのだろうと何となく察し離れようとしたのだけど、通話をちょうど終えた紫宮さんに引き留められた。


「お待ちなさいな桜庭詩恩。確か四組は入浴している時間ではありませんか?」

「僕はちょっと特殊な事情で別の時間なんです」

「なるほど。ところであなたと桔梗が熱中症になりかけていたと聞き及びましたが」

「本格的になる前に休まされたので大丈夫ですよ」


 僕の方は中症だったのだけど、桔梗ちゃんは倒れる一歩手前で、あと数分日に当たっていたら危なかったそうだ。明日太達へのお礼は近いうちに必ずしようと思っている。僕達の症状が大したことなかったと知った紫宮さんが、ホッと胸を撫で下ろす。


「でしたらよいのですが」

「ご心配おかけしたみたいですね」

「あなたも桔梗も大事な友人ですから、当然ですわよ」

「何せ別のクラスのワイのところに来てまで、不安そうにしとったから。桔梗に何かあったらとか、ライバルをこんなことで失いたくないとか言うてな」

「うるさいですわ!」


 心配のあまり動揺していたことを近衛くんにバラされ、頬を膨らませる紫宮さん。ひとまず彼女の名誉のため話題を変えることにした。


「お二人は熱中症大丈夫でしたか?」

「ワイは平気やったぞ? 伊達に執事やっとらんわ」

「わたくしは正直危なかったですわ。出発前に柊から冷えピタ渡されてなかったらどうなっていたか......ありがとうございますわ」

「別にええ。執事として当然のことや」


 適当なようでいて紫宮さんへの心遣いを忘れない辺り、近衛くんはやはり彼女のことを一人の女の子としても大切に思っているのだなと感じた。


「冷えピタですか。用意してたら僕や桔梗ちゃんもああならなかったかもしれませんね」

「その辺は経験やから、次の機会に対策したらええわ」

「そうですね」


 次の機会がいつ訪れるかわからないけど、普段からもう少し準備を整え、何かあったときのため備えようと思った。


「せや、経験で思い出したんやけど、あんさんら付き合とるんやし、キスの一つでもしたんかいな?」

「残念ながら、キスはまだしてないんですよ」


 個人的には桔梗ちゃんとキスしたいけど、気絶癖がよくならない限り難しそうだし、それを抜いても彼女はシャイなのでまだ出来ないだろう。幼馴染かつ恋人という関係性でキスすらしていないことを意外に思ったのか、近衛くんはとても驚いていた。


「嘘やろ? ワイとお嬢でも昔したことあるんやで!?」

「柊、まさかあのときのキス、覚えてますの!?」

「はっ!? しもた!!」

「あのときわたくしのこと、お嫁さんにしてあげるって言いましたわよね!?」

「そんなん忘れたわ! 桜庭、あんさんも聞かんかったことにしといてや!」

「こらっ、待ちなさい柊!!」


 自滅した近衛くんは逃げるように東棟の廊下へと消えていった。紫宮さんは追いかけようとしたけれど、どうしても決まりを破ることが出来なかった様子で、悔しそうにしていた。


「もう! 逃げるなんて反則ですわよ!!」

「お望みなら捕まえて来ましょうか?」

「そう言いたいところですが、病み上がりに無理はさせられませんわ。それに捕まえたところではぐらかされるだけですわ」

「そうですか」

「わたくしも帰りますわ。桜庭詩恩、このことはどうか内密に」

「ええ」


 心情的には紫宮さんの味方なので何とかしてあげたいところだけど、これに関しては近衛くんが素直になるしかないので難しいところだ。そして彼らを見ていると、無性に桔梗ちゃんと話したくなってきたので、そのままロビーでしばらく時間を潰した。

お読みいただき、ありがとうございます。

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