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第八十二話 詩恩くん、林間学校へ出発する

 金曜日。今日から林間学校が始まるため、一年生は朝から全員校庭に集まっていた。点呼と出発式が終わって、クラスごとに割り当てられたバスに乗り込み、桔梗ちゃんを窓際の一番前の席に座らせ、僕はその隣を選んだ。


「桔梗ちゃん、酔い止めは飲みましたか?」

「飲みました。しーちゃんはどうですか?」

「僕も飲んでますよ」


 一応眠くなりにくいタイプの酔い止めなので、行きの間に寝てしまうことはないだろう。せっかく桔梗ちゃんや友達と遠出するのだから、眠ってしまってはもったいない。バスが発車し、天野先生からの説明も終わったので、早速座席を回転させ、後ろの席の明日太達と向き合った。


「二人とも、体調大丈夫かな?」

「ええ。お二人にはご心配をおかけしました」

「別に構わない。だが無理はするなよ?」

「わ、わかりました」


 林間学校では班ごとに行動することになっていて、僕達と明日太に御影さんの四人で一つの班なのだけど、もしも僕や桔梗ちゃんが一昨日の検査で引っかかっていた場合、それぞれ別の班に振り分けられていたのだ。なので家族や天野先生、保健の先生以外にこの二人にも診断書を見せている。


「わかってるならいい。僕達も学校行事でクラスの誰かが欠けるのは寂しいからな」

「冬木くんの言うとおり、みんなで楽しみたいからね。と、堅い話はこのくらいにして、到着するまで遊ぼっか」

「いいですけど、罰ゲームはありですか?」

「はぅぅ、出来たら無しで」

「なら、多数決取ろっか」


 多数決の結果、罰ゲームありが三人、無しが桔梗ちゃん一人となった。桔梗ちゃんには申し訳ないけど、無ければ勝負が盛り上がらないし、この二人ならそれほど厳しい罰を言わないだろう。


「お二人はどうして賛成したんですか?」

「やっぱりその方が盛り上がるからかな? ただ、罰ゲームを受けたら次は免除ってことにしないと不公平かも」

「御影の案、よさそうだな。なら罰ゲームは人に話せる程度の、ちょっとした秘密を話す辺りでどうだ?」

「それなら......」


 渋々ながら罰ゲーム付きに桔梗ちゃんが同意したので、改めて何をするか話し合い、ひとまず定番の大富豪を行ったのだけど、配られたカードがどっちつかずの数字しか無く、思わず顔が引きつってしまった。


「やった♪ 大富豪だ♪」

「富豪だな」

「はぅぅ、貧民です」

「大貧民ですね」


 最初の勝負は妙に引きが強かった御影さんが一抜け、引きはよくなかったものの彼女が抜けた直後に革命を行い、流れを変えた明日太が次に抜け、僕と桔梗ちゃんの一騎打ちになった。完全に泥仕合だったけど、最終的に引きの悪さがたたって僕が敗れることとなった。


「それじゃあ、結果も出たし一旦目を休めようか。カードゲームって、乗り物酔いになりやすいらしいし」

「そうだな。詩恩に佐藤、どんな感じだ?」

「僕は平気です」

「わ、私も何とか」

「なら続行だな。その前に詩恩、わかってるな?」

「ええ、罰ゲームですよね?」


 もちろん自分で言い出したことなので話すつもりだけど、何がいいだろうか。外の風景を見ながら考えている間に、ちょうどいいものがあったことを思い出した。


「実はなんですけど、僕の実家って女子向けの手作り小物を売ってて、それなりに評判の店なんですよ」


 父さんは別の仕事をしているので母さんが営んでる店なんだけど、それで家賃が稼げるくらいには繁盛している。もちろん僕の入院費用等には全然足りないので、そっちは父さんが出したり、母さんの実家が出してくれたのだけど。


「へぇ、そうなんだ。遠くの県だけど検索したら出て来るかな?」

「出てきますよ。私や鈴蘭お姉ちゃんも注文していますから」

「いつもごひいきにしてくださり、ありがとうございます」

「それで、恥ずかしい秘密にはどう繋がるんだ?」

「女子向けの小物ということで宣伝のためどうしても広告塔が必要になりまして、僕が女装する羽目になったんです」


 そのためウェブサイトにアクセスすれば、宣材写真としてうちの商品を身に着けた女子が載っているのだけど、その正体は女装した僕だ。知り合いにバレないために化粧やらウィッグなどで誤魔化しているがあれは間違いなく僕だ。


「ねえ、桔梗ちゃんは知ってたの?」

「歌音さんから聞いていました。ですけど、聞いててもわからないくらいでした」

「ずっと一緒にいる桔梗ちゃんがそう言うなら、誰にもバレてないんじゃないかな?」

「ええ。来店した人限定で、ウェブに乗る少女が誰かわかれば三割引というキャンペーンをしたんですけど、誰も正解しませんでした」


 僕としては正体がバレなくてホッとしているけど、誰一人女装だと見破る人がいないのも悲しくなってくる。ちなみに毎年写真は更新していて、今掲載されているのはこっちに来る直前に撮ったものだ。


「確かに恥ずかしい秘密だが、それを僕達に話して大丈夫なのか?」

「問題ありませんよ。母さんとしても、桔梗ちゃんと鈴蘭さん以外の客は欲しいでしょうし」

「なら今度注文させて貰おうかな? 出来れば現物を見たいけど」

「その辺は相談しておきます」


 衣替え用の夏服とセットで売れ筋商品をいくつか送って貰うのも悪くない。後日実家から段ボール箱が複数送られてきて、小物を売りさばくため奔走することになるのだけど、それは別の話だ。


「さてと、第二試合といきましょうか。必ず一度は皆さんに罰ゲームをさせますからね?」


 こうして大富豪が続行され、途中の休憩所までで全員一度ずつ負けた。なお罰ゲームについてだけど、桔梗ちゃんはルーズソックスを集めるのが趣味だと語り、明日太は絵が下手で、昔彼が描いた絵を見た弟達にガチ泣きされヘコんだ過去があることが、御影さんは枕が変わると寝られず、マイ枕を持参していることがわかった。林間学校で木彫りの皿を作る予定があるので、明日太の絵がどれくらい下手なのか見てみたいと思う。

お読みいただき、ありがとうございます。

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