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第八十話 桔梗ちゃん、詩恩くんと検査入院する

桔梗視点です。

 火曜日、私は病院に二日間入院することになりました。ですが別に体調不良というわけでもなくて、むしろ体に異常がないか確かめるための検査入院ですし、同じ日程でしーちゃんも入院します。


「しーちゃんも検査入院ですよね?」

「はい。とっくに完治しているので、再発しないよう念のためというやつです。何せ僕が入院していた原因が原因ですし」

「そうでしたね」


 幼い頃のしーちゃんは肺の病気で入院されていたのですが、小学校に上がる前くらいに肝臓にも異常が見つかり、手術が必要だと言われこちらの病院では対応が不可能であったため、専門のお医者様がいる病院に転院することになったのです。


(しーちゃんとのお別れのとき、すごく泣いちゃったんですよね)


 元気になるために遠くへ行くのだと説明されても、こみ上げてくる悲しさは消えなくて、しーちゃんから『元気になったら必ず戻るから、そのときは一緒に遊ぼう』と言われて、ようやく私は泣き止みました。


(私、昔からしーちゃんを困らせてばかりですね)


 子供の頃から変わっていない自分に苦笑しながら、しーちゃんのお話を聞きます。


「手術の方も成功し肝臓の問題は無くなったんですけど、今後は肺の病気が再発してしまい、リハビリや何やかんやで小学六年生までほとんど病院で過ごすことになりました」

「しーちゃん、大変だったんですね」


 かくいう私も、肺炎になったり喘息が悪化したりで入退院を繰り返していましたので、まともに学校に通えていないですけど。


「ええ。ですから初めての林間学校を桔梗ちゃんと楽しもうと思ってます」

「私も、しーちゃんと一緒に行くの楽しみです」


 そのためにも、今回の検査入院を乗り切らないといけません。ここでもし引っかかったらよくて経過観察、悪くてそのまま入院ということになりかねませんから。


(私もしーちゃんも普段から規則正しい生活やバランスの良い食事を心掛けてきましたし、大丈夫だと思いたいです)


 それでも引っかかるものがあるとすれば、壊滅的な自覚のある運動能力と、持病の気絶癖でしょう。お医者様に詳しくお話するのは恥ずかしいですけど、それでも黙っているのはよくない結果しか生み出しません。病院の待合室で彼と一度別れ、検査に臨みます。視力や聴力、心電図に血圧などを測定したのち、精神的に辛い検査が待っていました。


(はぅぅ、バリウムです......)


 普通に生活していたら人間ドックを行う三十五歳になるまで飲むことのないバリウムを、私はこれまでに何度か飲んだことがありました。何でもこの検査で見つかる菌が十代でも所持していることがあるらしく、うちの家族は全員この検査を受けています。


(つ、辛いです)


 バリウム検査のあとも辛いものが続いて、やっとひと息つけたのはお医者様による問診でした。体調は良好で学校に通えだしたこと、好きな人が出来て気絶癖が発症しやすくなったこと、その治療のため二人で頑張っていることなど、包み隠さず話しました。


「いいと思うよ。彼氏さんも事情をわかって協力してくれているなら、そのまま続けなさい」

「わ、わかりました」


 気絶回数が増えていることを理由に、しーちゃんと一緒にしている治療を止められるかもと思っていましたが、問診を担当した三十代前後の女性のお医者様から、続けて構わないと許可をいただけました。


「気絶癖は精神的なものが原因だと考えられるから、気の持ちようが一番大事みたいだね。でもだからって焦ったら駄目だよ?」

「はい」

「君のお姉さんの病状もこの間見たけど安定しているみたいだし、やっぱり恋人を作るのが一番なのかもね。これで問診は終わりだからあとは割り当てられた病室で、彼氏と電話なりなんなりしなさいな」


 そう告げられて一日目の検査は終了し、指定された個室で休むことになり、お夕飯として病院食を食べましたが、口の中にバリウムの感覚が残っていたのがちょっと悲しかったです。夕食のあと、シャワーを浴びようかなと考えていたところ、部屋のドアがノックされました。


「来ちゃいました」

「しーちゃん? 検査終わったのですか?」

「ええ」


 訪ねてきたのはしーちゃんで、検査がやっと終わったのでお話ししたいとのことでした。それにしても、どうしてしーちゃんの方が一時間近く時間がかかったのでしょうか。その疑問に彼は愚痴を零しながら答えました。


「何度も僕は男だと話しているのに、骨格や筋肉の付き方を見て女性のものだと驚かれて、そのせいで無駄に検査に時間がかかりましたよ」

「その、お疲れさまです」

「まあ、こうして桔梗ちゃんと話す時間を確保出来ただけでもよしとしますけど。あなたと出会った病院で、久し振りに一緒に過ごすわけですからね」

「そうですね。あのとき入院していた病室じゃないのは残念ですけど、それでも、私達の始まりの場所ですからね」


 私達は幼い頃病院で出会い、同じときを過ごし、さらに別れた場所も病院でした。ですので私達の思い出はすべてこの病院に詰まっていると言っても過言ではありません。


「こうして泊まるのも久し振りですし、思い出探しに興じたいところですが、あまりうろつくなと釘を刺されているんですよね」

「それは仕方ないと思いますよ? 検査のための入院で、体を壊してはいけませんし」


 実のところ病院で病気を貰ってしまうことはあり得ることです。たとえばインフルエンザの検査のため病院を訪れ、その数日後に感染が発覚したという例もありますから。


「わかってますよ。ですからこうしてお話するだけに留めているんです。そういえば桔梗ちゃん、ご飯は食べました?」

「はい。その、バリウム風味でしたけど」

「バリウムの感覚って中々消えませんからね。僕も覚悟しておきます。とりあえず部屋で夕飯とシャワー浴びてきますから、終わったらまたお話ししましょう」

「わかりました」


 一度しーちゃんがお部屋から出て行ったので、その間私はシャワーを浴び、体を奇麗にしました。お着替えも済ませましたし、あとは彼が来るのを待つだけです。

お読みいただき、ありがとうございます。

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