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第七十九話 詩恩くん、従兄と先輩の仲を取り持つ

詩恩の従兄で前作主人公の雪片にとって尊敬すべき先輩でも、駄目な部分はあるのです。

 昼休み、鈴蘭さんから屋上で一緒に弁当を食べようと誘われた。今日は天気がいいし、たまには家族で昼を食べるのもいいだろう。そう思って承諾し屋上に向かったのだけど、どういうわけか四人でベンチに座るよう指示された。


「鈴蘭お姉ちゃん、どうしてベンチなのでしょう?」

「僕も気になります」


 屋上はそれなりに広く、レジャーシートを広げたりして食べている生徒の姿もチラホラ見える。正直四人で食べるならその方が食べやすいと思う。


「屋上のルールで、恋人と一緒に食べる人はこっちを使って欲しいって言われてるんだよ」

「妙なルールですね」

「仕方ないだろう。恋人同士の空気は独り身には辛いものがあるんだ。俺も屋上でメシ食ってた頃に知らずにベンチに近付いて砂糖吐きそうになったからな」


 雪片先輩が苦虫をかみつぶしたような顔をしながら発言していたけど、割と彼と鈴蘭さんもバカップルだと思う。もちろん僕と桔梗ちゃんもだけど。


「なるほど、隔離措置ですか」

「そういうことだ。結構前からこの決まりはあるみたいでな、俺も先輩から聞いた。ほら、あそこにいる女の先輩だ」


 雪片先輩が指差した先にいた人は、憂いを帯びた表情をしながら、サンドイッチを摘まんでいる美少女だった。なんとなく見覚えがあるというか、今朝学校新聞で見た梅原一華先輩その人だった。


「えっと、あの人ですか?」

「そうだ。今後も屋上を使うなら一度くらい挨拶しておけ」

「ああ見えて気さくな人だから、礼儀とかは気にしなくていいよ」


 気さくで礼儀を気にしなくても、あの人からすれば僕の存在は地雷そのものなので、出来れば話しかけずに終わりたい。しかし二人が後押ししてくれているのを無下には出来ない。


「そうですね。しーちゃん、食べ終えたら挨拶に行きましょうか」

「そ、そうですね」


 その上桔梗ちゃんも乗り気なため行かない選択肢は無かった。食事を終えた梅原先輩は僕達に気付くと、体ごとこちらを向いて話しかけてきた。


「おや、新入りかな?」

「あの、佐藤鈴蘭の妹の桔梗です。去年文化祭に遊びに来ましたので、もしかしたらそこでお会いしたかもしれません」

「ああ、確かに去年いたね。そっちの人は?」

「僕は桜庭詩恩です」

「桜庭、詩恩?」


 僕の名を聞いて梅原先輩の眉がピクリと動き、「名前に共通点が」とか、「従弟がいるとか言ってたような」など、小声で呟いていた。嫌な汗が背中に流れるのを感じている中、彼女は僕に向けて一つの質問を突きつけてくる。


「ねえ、桜庭久遠って知ってる?」

「......従兄です」

「――っ!!」

「はぅぅ? あ、あの」


 僕と久遠兄さんの関係を聞いて、明らかに梅原先輩の表情が強ばった。どう見ても訳ありですと言っているような態度に、桔梗ちゃんはオロオロしていた。


「すみません桔梗ちゃん、ちょっと鈴蘭さん達とお話していてください」

「わ、わかりました!」


 申し訳ないけど、梅原先輩のプライバシーに関わるのでこの話は桔梗ちゃんに聞かせられない。会話が聞こえないところまで彼女が離れたのを確認し、改めて梅原先輩に話を切り出した。


「先程の反応、やはり久遠兄さんのことを」

「何の話かな......と言いたいところだけどご明察だよ。どこまで知ってるんだい?」

「あなたが兄さんの家に行くほど親しかったことや、卒業式の日に告白し受験を理由に振られたこと、あとは関係があるかどうかわかりませんけど、中間テストの結果が振るわなかったことくらいです」

「残念ながら関係大ありだよ。あんな振られ方して、勉強に集中出来るわけがない」


 それもそうか。やはり原因が久遠兄さんの方にあることがわかったので、従弟として何らかの責任は取らないとならない。しかし僕は一年で梅原先輩は三年だ。思い付くアフターケアなんて、一つしか無い。


「梅原先輩、久遠兄さんに言いたいことはありますか?」

「あるに決まってるじゃないか。だけど振られたのに連絡するのは違うと思うんだ」

「ですよね。ちょっと失礼しますね」


 たとえこの二人の関係に終止符を打つことになろうとも、梅原先輩をこのままにはしておけない。携帯を手に取って久遠兄さんに電話をかけた。向こうも昼時だから出るだろうという予想は的中し、無事に繋がった。


『詩恩? どうしたこんな時間に。緊急の連絡か?』

「ええ。お時間はありますか?」

『さっき講義が終わったところだが、今は食堂で人が多い。場所を移してかけ直す』

「わかりました」


 一旦通話を切ってから、携帯を梅原先輩に渡す。もちろん久遠兄さんへのサプライズのためだ。このあとどうなるにしろ、兄さんはこのくらいの罰を受けるべきだと思う。


「そういうわけですので、梅原先輩も出来るだけ誰もいない場所に行って、うちの従兄に不満ぶちまけてください」

「いいの?」

「ええ。僕はもちろん、他の誰にも聞く権利は無いですからね。というわけですので、屋上のルールに則り、撤収させていただきます」


 食事も終わり、これ以上ここに留まる理由が無いため、僕は桔梗ちゃん達に事情を話し、一斉に屋上から撤収した。僕達の他にもそれなりの人数がいたけれど、彼らも僕達と同じように階段を下りていった。


「梅原先輩と何かあったのか?」

「秘密です。とりあえずお悩みは解決すると思いますよ?」

「よくわからんが、先輩が元気になるならいいか」

「そうだね」


 その後、通話を終えた梅原先輩から携帯を返された。そのときの彼女の表情は晴れやかで、頬には涙が伝った跡があった。ちゃんとすべて打ち明けて別れられたのだと思っていたけれど、どうやら久遠兄さんと付き合うことにしたらしく、彼の住むアパートの住所がどこにあるのか問い詰められた。久遠兄さん、梅原先輩のことを弄んだ罰です。沢山困ってくださいね?

お読みいただき、ありがとうございます。


明日からは一日二話更新になりますので、ご了承ください。

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