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第六話 詩恩くん、アパートの住人に自己紹介する

詩恩が暮らし始めた部屋ですけど、前作の主人公である雪片の隣の部屋です。

 桔梗ちゃんと仲直りしたあとで、僕の歓迎会が開かれることとなった。準備が出来たからと桔梗ちゃんに呼ばれ、ダイニングを訪れると、桔梗ちゃんと鈴蘭さんの他に、長身で強面の青年、すらりとした美人なお姉さん、細身で理知的なお兄さんの三人の男女が席に着いていた。そのうちの一人である、強面の青年の顔を見て僕は驚愕した。


「あっ、貴方は!!」

「んっ? ああ、お前は受験のときの」

「ええ、あのときはありがとうございました」

「気にするな」


 青年の方も僕のことを覚えていたようなので、深々と頭を下げお礼を述べる。僕は彼のおかげで、高校受験に間に合ったのだ。あの日助けて貰わなければ、僕はきっとこの場にいなかっただろう。


(まさか引っ越し当日に、恩人二人と再会を果たすことになるとは思いませんでした)


 意外な再会を感慨深く感じている僕と、お礼を言われてぶっきらぼうに答える青年以外の人は状況が飲み込めていないようだ。そのため代表して鈴蘭さんが青年に説明を求めた。


「雪片くん、詩恩さんと知り合いだったの?」

「ああ。受験の日に助けたのがコイツって言えば、お前と桔梗はわかるだろうが」

「そっか。一瞬だったから顔がわからなかったけど、あの子って詩恩さんだったんだ」

「すっごい偶然です」


 どうもあの場に鈴蘭さんもいたらしく、断片的な説明を聞いて納得していた。また受験当日その話が受験生の間で噂になっていたので、僕より先に受験会場入りした桔梗ちゃんも知ってるみたいだった。


「ねえ、私達にもわかるように教えて」

「出来たら、そっちの新入りの口から説明してくれ。もちろん自己紹介のあとでだが」


 ただ、大学生であるお姉さんとお兄さんは全く知らないようだった。一から話すつもりだけどひとまず彼の言うとおり、先に自己紹介を済ませた方がよさそうだ。


「申し遅れました。僕は桜庭詩恩と申します。この春こちらの高校に入学するため、引っ越してきました。先輩方、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」

「ご丁寧にどうも。知ってると思うけど私は土橋椿よ。大家さんが腰を悪くしているから、代理で色々してるわ」

「はい。その節はお世話になりました」


 僕の自己紹介のあと、最初に応じたのはすらりとした美人なお姉さんの土橋さんだ。引っ越しの際彼女はとても親身になってくれて、初めての一人暮らしに向けてのアドバイスもしてくれた。


(まあ、初見で僕のことを女子だと思ってたみたいですけど)


 それに気付いたのはアドバイスの中に女の子の日のものが混じっていたからで、僕は赤面しながら土橋さんへ自分が男だと打ち明ける羽目になった。とはいえ他のアドバイスは非常に役に立っているので、悪感情は抱いていない。


「時水繰夫だ。椿とは恋人で同じ大学に通っている。椿から聞いているが、お前が男であってもストーカーや痴漢の被害に遭ったら相談しろ。いつでも力になってやるぞ」

「えっと、よろしくお願いします」


 次いで、細身で理知的なお兄さんの時水さんが握手を求めてきた。椿さんの恋人だから悪い人ではないと思うけど、この人だけは完全に初対面ということを差し引いても距離感が掴めない。一応被害を受けたら相談するつもりではあるけれど。


「俺が最後か。俺は千島雪片、そこの鈴蘭の恋人でお前にとって先輩にあたる」

「ええ、桔梗ちゃんや鈴蘭さんから伺ってます。千島先輩、あのときはありがとうございました。遅刻しそうになり、坂道を走っていたところ不注意で転んでしまい足を痛めた僕を、貴方が教室まで負ぶってくださったおかげで、何とか受験に間に合いました」

「礼はいい」


 最後に挨拶してきた強面の男性が、千島先輩だった。彼へのお礼を再度告げる際、事情を知らない土橋さん達にもわかるようにそのときのことを付け加えた。それにより受験の日に何があったのかを土橋さん達は知り、千島先輩を賞賛する。


「なるほどね。そんなことがあったの」

「受験は遅刻したら受けられないからな。よくやったぞ千島」

「褒められることじゃないっす。時間に間に合わせることだけしか考えてなくて、重要な応急処置を怠っていたっすから」

「千島先輩、自分を責めないでください。送っていただいた僕からしてみれば、遅刻しなかっただけでも充分ですから」


 そもそも転んで怪我したのは、遅刻しそうになり足元を気にせずに坂道を駆け上がった僕のせいなのだから、そのことで千島先輩が責任を感じるのは間違っている。


「そう言われてもな」

「その辺にしておけ、千島。それはそれとして、何故桜庭は遅刻しそうになったんだ?」

「えっ?」


 いきなり時水さんから投げかけられた疑問に、僕は不意を突かれて困惑する。まさかそこを聞かれるとは思ってなかったからだ。


「少し話してみただけだが、桜庭が真面目な性格なのはわかった。そんな真面目な桜庭が、受験会場にギリギリで入るのはちょっと不自然じゃないか?」

「それもそうね。むしろ早めに入って始まるまでの間勉強してそうなタイプよね」

「土橋さんの言葉で思い出したっすけど、桜庭久遠先輩からかなり早くに桜庭が家を出たって話を聞いてたっす。しかも迷ったら電話するとまで言ってたらしいっすよ?」

「えっ? 雪片くんそれ本当? じゃあどうして詩恩さんは遅刻しそうになったのかな?」

「あの、しーちゃん。本当は何があったんですか?」


 時水さんの発言を皮切りに、各々僕が時間に遅れそうになるのは不自然だと口にする。その流れで千島先輩が久遠兄さんと知り合いだという事実も発覚したけど、今そこに食いついても仕方ない。


「......わかりました。かなり作り話っぽい話ですけど、お話しします。信じるか信じないかは、皆さんにお任せします」


 そう前置きした上で、僕は受験当日家を出てから千島先輩に助けられるまでに起きた出来事を包み隠さず語ることにした。

お読みいただき、ありがとうございます。

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