第七十七話 明日太くん、勝負を持ちかけられる
明日太視点です。
放課後、僕は詩恩達に声をかけ四人で帰宅しようとしていたのだが、偶然紫宮達と出くわし一緒に帰ることとなった。紫宮と近衛に軽く自己紹介をしたあとで女子は女子、男子は男子で固まった。
「桜庭に冬木、坂の下までよろしゅう頼むわ」
「ええ。せっかくですし桔梗ちゃん達を見習って何か話でもしませんか?」
前を行く女子三人は、まるで昔から友達だったかのように親しげに談笑している。引っ込み思案の佐藤が普通に会話出来ているのは、紫宮が自身と同じ小柄な少女であることと、御影が主導しているからだろう。詩恩の言うように彼女達を見習い親睦を深めるのも悪くない。
「そうだな。しかし何を話す?」
「普通に前のテストのことでええんやないか? あんさんも七位と優秀やったんやろ?」
一応上位三十位以内に入っているので優秀だと他人から称されることはあるが、僕より順位が上の人間に言われても嫌味にしか聞こえない。
「僕が優秀なら、三位の近衛や同率一位の詩恩は更に優秀だと思うが?」
「嫌味に聞こえたんならすまんのう。あとで謝るんで、本題先に話させてくれへん?」
「別にいいぞ」
「なら話すけど、次の期末で勝負せえへんって話や」
「「勝負?」」
「せや。勝負の方法はあとで話すんやけど、ルールはお嬢と桜庭の勝負と同じ、妨害等は禁止の真っ向勝負や」
話の内容は僕と詩恩に、一ヶ月半後の期末テストで勝負をしないかという提案だった。正々堂々を掲げているあたり、紫宮の従者なのだと感心したが、勝負の方法を後回しにしている点は気になった。
「僕はただ競う相手が増えるだけなので、構いませんよ」
「面白そうだが、まずは勝負の方法を聞かせてくれ」
「テストやから点数で勝負するんやけど、普通にやったら桜庭の一人勝ちや。それでも普通に合計点で勝負するか、もしくは最高点で勝負するか、はたまた中間と期末の点の伸び幅で勝負するかの三択、どれにするんや?」
近衛から勝負方法として提示された三つの案だが、合計点勝負は僕はもちろん近衛も詩恩に勝つのは厳しく、最高点勝負も合計点ほどではないが難しい。消去法で伸び幅で勝負するしかないが、これは逆に詩恩が勝つ確率が低いだろう。
「伸び幅がいいと思うが、詩恩は厳しくないか?」
「別にいいですよ。その方が面白いですから」
「決まりやな。お嬢らにも話持っていくさかい、ちょい待っとけ」
そう言って、近衛は前を行く女子三人に追いついて話しかけていた。しばらく話し込んだあとで、僕達に向かって手招きしてきたため詩恩と共に合流した。
「どうなった?」
「お嬢らも参加するそうや。ただ、どうせならチーム戦にしようやと提案されたわ」
「チーム戦?」
要するに二人一組でチーム作って、伸び幅の合計で勝敗を決めるという話だ。紫宮と近衛のところが不利になるが、ちゃんと了承を得たので問題ないらしい。
「本当に大丈夫なのか?」
「ええ。始めから結果の見えている戦いよりも、逆境の方が燃えますわ。それにわたくし、友人と競い合いたいと思ってましたの」
「そうか」
「お嬢と勝負が成立したん、ワイくらいやったからな」
それはそうだろう。小学校の頃ならいざ知らず、中学校に上がってからもこの二人のように全教科で満点近い点数を取ることの出来る人間なんて、そうそういるわけがない。もちろん、詩恩も同様だ。
「わかります。僕も似たようなものでしたから。むしろ僕の方が深刻でしたね。親しい相手はほとんどいなくて、テストの時だけ頼られる感じで」
「しーちゃん......」
「ですから大事な友達や、かけがえのない恋人がいる今はとても幸せです」
はにかみながらそう語る詩恩の言葉に、少々照れくささを感じた。いつもは穏やかな口調で黒いことを言うからくせに、たまにクサイことを言い放つのは狡いと思う。それを聞いた佐藤が返事して、二人だけの空気を作るのがいつもの流れだった。
「わ、私もしーちゃんや皆さんのこと、とても大切に思ってます!!」
「あら桔梗、わたくしのこともそう思ってますの?」
「その、理良さんはお友達ですから」
「言っておくけど、ウチも理良ちゃんのこと友達だと思ってるからね?」
しかし、良くも悪くもいつもを知らない紫宮が口を挟み、さらに御影も乗っかったことで、会話の流れが普段と違う方へと変わった。二人から友達と明言された紫宮は見てわかるほどはしゃいでいた。
「柊、聞きましたわね? わたくしにだって友達は作れますわよ!!」
「わかったからここで騒ぐなや。せめて帰ってからにせえや」
一年生で一番有名な生徒と、二番目に有名な生徒が同じ場にいる時点で注目を集めていたようだが、さらに紫宮が大声を上げたことでますます人目を引いてしまった。
「も、申し訳ございませんわ!!」
「ええから、早よ帰るで」
「そ、それでは皆様、失礼いたしましたわ~!!」
近衛に引きずられるようにして連れて行かれた紫宮。とりあえず残っていてもしかたないので僕達も急いで坂の下まで駆け下りた。走ったせいで佐藤が息を切らしていたが、その辺は詩恩が何とかするだろう。彼らと別れてから僕は御影と帰路についたのだが、その道中御影がポツリと呟いた。
「そういえばさっき冬木くんだけ何も言わなかったけど、ウチらのこと友達だと思ってくれてるのかな?」
「もちろん思っている。言い出すタイミングが無かったのと、詩恩にからかわれたくなかったんだ」
「桜庭くんが?」
「ああ。詩恩はあれでいて同性というか、僕には遠慮がないんだ。あれが詩恩なりの甘え方なんだろう」
詩恩の生い立ちを考えれば仕方ないのかもしれないが、少々子供っぽいように感じる。そういった部分も含め、佐藤とお似合いなのだろうが。
「そうなんだ。なら冬木くんは桜庭くんのお兄ちゃんみたいなものなんだね」
「やめてくれ。これ以上兄弟は欲しくない」
「じゃあ妹なら欲しいかな?」
「御影みたいなしっかり者で美人な妹ならな」
「あ、ありがとう///」
明らかにからかってきているのがわかったのでやり返してやったのだが、まさか照れるとは思わなかった。頬を赤く染めた御影はものすごく可愛くて、見とれて何も言えなくなってしまった。その後変な空気のまま彼女を家の近くまで送って、僕は帰宅したのだった。顔が赤かったことを弟や母さんに追及されたのは言うまでもない。
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