第七十五話 桔梗ちゃん、詩恩くんといちゃつく
桔梗視点です。一応彼女もそれなりには成長しています。
放課後、私はお着替えしたあとで、しーちゃんのお家に遊びに行きました。彼は誰かとお電話していたみたいで、私がお部屋に入ったあとで携帯を置きました。
「あの、お電話されてたんですか?」
「ええ、母さんですよ。今朝桔梗ちゃんとのお付き合いを報告した際、あとで詳しく教えろと言われまして。こういうことは息子の僕が言うべきですからね」
「はぅぅ///」
面識があるとはいえ、大好きなしーちゃんの親御さんに私とのお付き合いを知られ、とても照れくさかったです。今朝のしーちゃんもこんな気持ちだったのかなと思いつつ、大事なことを聞きました。
「それでその、反対とかされなかったですか?」
「安心してください、母さんはちゃんとおめでとうって言ってくれましたから」
「......母さんは、ですか? あの、お父さんは違うんですか?」
もしもしーちゃんのお父さんから反対されてると思うと、不安で仕方ありません。しーちゃんと一緒にいられないなんて嫌ですから。
「いえ、そもそも仕事中ですし、多分知らないだけだと思います。たとえ知ってても、何も言わないでしょうし言ったとしても、誰と付き合っても構わないが、責任が取れないようなことはするなという忠告くらいです」
「そういうものでしょうか?」
「彩芽さんが例外なだけで、男親なんて大体そんなものですよ」
そう答えるしーちゃんはどことなく寂しそうで、少しだけ不機嫌そうでした。思い起こせば彼からお父さんのお話は聞いたことがありませんでした。
「あの、しーちゃんのお父さんってどんな方ですか?」
「どんなって、仕事熱心で世間体を気にするくらいで普通の人ですよ。いずれ顔を合わせると思いますので、そのときのお楽しみにしてください」
「......はい」
何だかはぐらかされた気がしますけど、しーちゃんと一緒にいる以上いつか会うのは確実ですから、彼の言うとおりお会いする機会まで待つことにしました。
「父さんの話はこのくらいにして、本題に入りましょうか」
「本題、ですか?」
「ええ。桔梗ちゃんの気絶癖の改善です。昼休みのあれで気絶されては、仲を深められませんからね」
「あっ!?」
お昼休み、私はしーちゃんからの結婚は卒業と同時にしたいという衝撃の告白で気絶しそのまま掃除の時間まで眠り続けてしまい、彼に平謝りし続けたことを思い出し、申し訳ない気持ちになりまた謝りました。
「はぅぅ、すみません」
「いいですよ。こういうのは本人によくしようという意思があることが一番大事ですからね」
「その、が、頑張ります!」
私だけ意識を失うならまだしも、しーちゃんや鈴菜さん達にご迷惑をおかけしたため、気絶癖は早急に改善しなければなりません。本格的な治療法はママや鈴蘭お姉ちゃんに聞くとして、今出来ることからやっていくことになりました。
「とはいえ何から始めましょうか? やはり気絶したときと同じことをするのが一番でしょうか?」
「はぅぅ、そ、それはちょっと......また気絶しそうです」
しーちゃんに耳元で卒業後に結婚したいと囁かれたことで気絶したわけですけど、多分もう一度同じことをしても気絶するという予感がします。それを聞いたしーちゃんは少し考えごとをして、
「でしたら、どちらかだけで試してみましょう。それに桔梗ちゃんからのお返事は聞いていませんし」
「そ、そうでした」
お昼休みの件はもちろんですけど、昨日の告白のお返事も遠ざかる意識の中で行ったものですから、現状しーちゃんからの告白に私はちゃんとした返答をしていません。
「では、桔梗ちゃん、卒業後に僕と結婚してくれますよね?」
「......はい。あなたの傍に、一生います」
しーちゃんからの三度目のプロポーズにかなりどきどきしながら、私は意識をしっかり保ち、彼の目を見て返事をしました。お昼休みと違って二人きりですけど、気絶することなく答えることが出来たことに、しーちゃんは満足げに微笑みました。
「桔梗ちゃん、よく出来ました。これでクラスメートに夫婦といじられても大丈夫ですね」
「そうですね」
「では、次は耳元で愛を囁いてあげます。準備はいいですか?」
「は、はい......」
身構える私を、しーちゃんはそっと抱きしめます。抱かれるとは思っていなかったためまたもや心臓が早鐘を打つ中、私の耳元に彼が囁きかけました。
「桔梗ちゃん、あなたが思っているよりも僕は桔梗ちゃんのことが好きなんですよ? 入院中はずっとあなたとまた巡り会い、絆を結び直すことだけを考え、それを生きる支えにしてきました。なので僕にとって、あなたのことを考えるのは文字通りのライフワークなんです。こうして再会して改めて実感しました。ですからこれからも、あなたのことを考えさせてください」
「あっ、えっと、はぅぅ///」
彼の赤裸々な告白に、私の胸の高鳴りは頂点に達し、これ以上どきどきしたら気絶してしまう寸前になりました。何かお返事をしようと口を開きますが、上手く言葉が出てきません。混乱している私を、しーちゃんはゆっくりと離しました。
「今日のところはこのくらいにしましょう。気絶するギリギリの状態がどんな感じかわかりましたから、今後の参考に出来ます」
「その、ありがとうございます」
「いえいえ、僕もあなたともっといちゃつきたいだけですから。抱きしめ合ったり、添い寝したり、キスしたり」
「き、キス!? はぅぅ......」
せっかく落ち着き始めた心臓が、キスと聞いて鼓動が加速し限界を超えてしまい、結局私は気絶したのでした。はぅぅ、いつになったら恋人らしいことが出来るのでしょうか。
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