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第七十話 桔梗ちゃん、詩恩くんに告白する

桔梗視点です。

 今日の私は、いつもより長い時間お風呂に入っていました。理由はもちろん、しーちゃんとお部屋で眠るまでずっとお話ししようと考えているから、その際に少しでも綺麗になった自分を彼に見せたいからです。


(そのお話の時に、私はしーちゃんに告白します)


 本当なら今日一日のデートで、少しでもいいところをしーちゃんに見せてから告白したかったのですけど、ずっと彼に頼り切りでダメダメでした。


(楽しかったってしーちゃんは仰ってましたけど、頼ってばかりじゃ駄目ですよね)


 彼のことが好きだからこそ、一方的に依存する関係になりたくない。少しでいいから、彼のことを支えられるような女の子になりたいです。離れていた頃はお手紙でしていたことを、今度は私自身の手でしたいです。


(だから、私からしーちゃんに告白するんです。それがきっと、甘えてばかりの私が出来る、しーちゃんへの恩返しですから)


 そう決意して、お風呂から上がりお着替えしました。大事なお話のときに履くルーズソックスですが、今日しーちゃんに買っていただいたものを開封し足を通しました。


(何だかちょっと、勇気が湧いてきました)


 しーちゃんに告白するのに、彼にいただいたもので勇気を貰うのは本末転倒な気もしますけど、それでも、出来ることはしておきたいです。お着替えを終えた私はお部屋に戻ってから、彼の携帯にメッセージを送りました。


(これで、もうすぐしーちゃんが来ます)


 いつもの私なら、ここで二の足を踏んで彼を呼ぶまで時間がかかっていたと思います。なけなしの勇気でも一歩進めたのは大きく、メッセージを送って三十秒もしないうちにお部屋のドアがノックされました。


(もしかしてしーちゃん、私からの連絡を待ってたのでしょうか?)


 いくら家の中とはいえ、しーちゃんの反応が早過ぎて、連絡待ちしていたのかと思ったくらいでした。そう考えると二の足を踏んでいたら、ずっと待たせていたかもしれません。


(勇気出して、よかったです)


 一歩踏み出したことが間違いで無かったことに安堵しながら、ドアを開けてしーちゃんをお部屋に招きます。お風呂上がりだからかもしれませんけどしーちゃんはお顔が赤くて、そんな彼が可愛くて私の頬も熱くなりました。


「はぅぅ///」

「き、桔梗ちゃん。その、その格好も可愛いですよ!」

「はぅぅ、あ、ありがとうございます! し、しーちゃんもお奇麗です!!」

「あ、ありがとうございます......」


 お互いに褒め合い、さらにお顔が真っ赤になったりして、会話が途切れました。私自身いつもと違い落ち着いてない自覚はありますけど、しーちゃんの様子もおかしいです。しばらく無言が続いたのですが、先に切り出したのはしーちゃんでした。


「その、桔梗ちゃん。実は大事な話があるんです。聞いていただけますか?」

「わ、私もしーちゃんに大事なお話があります。先にお話ししてもいいですか!?」

「えっ!?」

「どうしても先にお話ししないと駄目なんです! お願いします!!」

「......わかりました。先は譲るからとりあえず落ち着いてください」


 しーちゃんのお話の内容も気になりますけど、先に告白しないと彼のお話の内容によっては言えなくなる恐れがあります。それに下手に遠慮するせっかくの決意が鈍ってしまいますから。


(断られると思うと怖いですけど、それでも私はしーちゃんに想いを伝えたいです)


 しーちゃんに言われたとおりに私は息を整え、胸のドキドキを抑えながら、しっかりと彼の目を見据え、自身の想いを伝えます。


「あっ、あのっ! 私、しーちゃんのことが好きです!」

「えっ!? き、桔梗ちゃん!?」


 突然の私の告白に、しーちゃんは目を丸くしました。ですけどここで告白を止め彼の様子を気にする余裕はありませんでした。心臓の鼓動の早さが、まるで私を急かしているようでした。


「出会ってから再会するまで、しーちゃんのことをずっと女の子だと勘違いしていました。けど、しーちゃんが男の子だと理解してからも私のあなたへの気持ちは変わらず、大好きなままでした。それどころか、しーちゃんの男の子の部分を知って、もっと好きになりました」


 女の子だと思ってたのは失礼極まりないと自分でも思います。ですけど、そう思っていたからこそ、しーちゃんが男の方でも昔と変わらない気持ちを抱いていたのだと思います。


「そうして、しーちゃんへの好きと家族への好きが違うことに気付いて、あなたに恋をしているのだと自覚しました」


 思えば鈴蘭お姉ちゃん達から、幼馴染のままではずっといられないと言われていなければ、今でも好きの気持ちの違いに気付かなかったかもしれません。そして、気付いたからこそ幼馴染のままではいられない。


「私は持病を抱えていて、ご迷惑をおかけすると思いますけど、しーちゃん、もしよろしければ私とお付き合いしていただけませんか?」

「......桔梗ちゃん、返事の前に僕の話を聞いてください」

「えっ!?」


 自分の動悸が激しくなり、胸が苦しくなるのを我慢しながら想いを伝えた私に、しーちゃんはイエスでもノーでもない答えを返しました。戸惑う私をよそにしーちゃんは話を続けます。


「桔梗ちゃん、僕がこうして故郷に戻ってきたのは、あなたへの恩返しのためで、再会してからも幼馴染だからという理由であなたと一緒にいました。でも、そうやって理由を付けていたからこそ、僕は自分の気持ちに気付かなかったんです」

「自分の気持ち、ですか?」

「はい。桔梗ちゃん、僕もあなたが好きです。幼馴染としても、一人の女の子としても。ですから、桔梗ちゃんと、結婚を前提としたお付き合いを申し込みます」

「――っ!!」


 しーちゃんの返事を聞いて、胸の高鳴りが限界へと達し、意識が遠のきかけ、体の力が一気に抜けてしまいました。これが私達の一家の抱える持病、気絶癖です。激しい運動や緊張などで心拍数が一定の数値を超えると、意識を失ってしまう病気です。特に私の場合体が弱いので頻繁に起きてしまいます。


(はぅぅ、気絶する前に、お返事だけでも)


 もやのかかる意識の中、せめてしーちゃんにお返事をお伝えしようと思い、必死に口を動かしました。


「わた、こそ、よ.....願い、ます」


 ですけど、ほとんど意味を成さない言葉になってしまい、言い終えた直後に私の意識は完全に途切れてしまい、最後に見えたのはしーちゃんの困ったような、喜んでいるようなお顔でした。


 目が覚めると、私はしーちゃんに膝枕されていました。意識を失ってからあまり時間は経っていないみたいで、彼は起きた私を見るなりお顔を真っ赤にしながら、私の髪を撫でていました。


「桔梗ちゃん、体に異常はありませんか?」

「はぅぅ、大丈夫ですけど、すみませんしーちゃん」

「謝らなくていいですよ。僕はあなたの恋人ですし、いずれ夫婦になる身ですから」

「はぅぅ!?」

「どうして驚いてるんですか。さっき桔梗ちゃん、告白に返事しましたよね?」

「しましたけど!!」


 躊躇わずに夫婦と発言したしーちゃんに、私はどきどきさせられました。どうやら彼とお付き合いしていくためには、気絶癖を克服しないとならないみたいです。はぅぅ、私の心臓、保つのでしょうか?

お読みいただき、ありがとうございます。これでやっと二人が恋人同士になりました。ここからの話も考えているのですが、ほとんど書けていないため一旦ここで中断し、またある程度書けたら再開することにします。

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