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第六十九話 詩恩くん、桔梗ちゃんとデートする。その二

 桔梗ちゃんに靴下をプレゼントしたあと、本屋で参考書や漫画を買ったり、ファミレスでお昼を食べたり、画材店で書道用の道具を買ったりして過ごし、気付けば午後二時を回っていた。


「桔梗ちゃん、さっきから歩き通しですけど、そろそろ疲れてきてないですか?」

「その、少し」

「正直でよろしい。もっとも、ここで嘘ついたら怒りますけどね」

「はぅぅ」


 食事の時以外朝から歩き詰めだったため、桔梗ちゃんはちょっと息切れしていた。自分でもその自覚があったのか、僕の問いに正直に答える。今のところは会話も出来てるから大丈夫だと思うけど、あまり無理はさせられない。


「では、休憩出来そうな場所を探しますね」

「は、はい......すみません」

「いいですよ。僕も顔に出てないだけで疲れてますから、ちょっとここで待っててください」


 桔梗ちゃんを信号の傍に立たせ、手近に休めそうな場所がないか探す。辺りには小さな公園やネットカフェ、カラオケ店があるようだが、どこで休みたいか桔梗ちゃんにも意見を聞こうと思い、一旦彼女の元に戻って尋ねた。


「桔梗ちゃん、公園とネットカフェとカラオケ店、どれがいいですか?」

「その、なるべくなら室内で」


 室内という希望なので、まず公園は除外される。あとは二択だけど、ネットカフェを利用したことないため、まだ経験のあるカラオケ店に決めた。


「わかりました。とりあえず今回はカラオケ店にしましょう。それなりに広い室内ですし靴も脱げますからね」

「あ、ありがとうございます、しーちゃん」


 受付で利用時間を聞かれたが、休憩が主な目的のため一時間にしておいた。個室に通され、まずは二人揃ってソファに腰掛けた。


「本当、疲れましたね」

「はい......足もちょっと痛いです」

「大丈夫ですか? ちょっと見てもいいですか?」

「はぅぅ、お願いします」


 桔梗ちゃんから許可を貰ったので、彼女の靴下を脱がし靴擦れやむくみが無いかどうかを確認した。見て触れるだけの素人診断だけど、ひとまずは大丈夫そうだった。


「今のところ異常は無さそうですね。ですけど痛みがあるなら休めておきましょう」

「あ、ありがとうございます」

「では、僕は歌の練習でもしますね」

「その、頑張ってください」


 休憩だけなら別に歌う必要は無かったけど、音痴のまま放置していたら今後明日太達が誘いづらいと思い、練習することにした。


(せめて笑われないくらいには、歌えるようになりたいです)


 とりあえず童謡や学校で歌う歌を中心に選曲した。自分では上手く歌えているかわからないけど、ちょうど五曲目を歌い終わったところで桔梗ちゃんもマイクを手にした。


「しーちゃん、次は私が歌いますから、しーちゃんはお休みです」

「いえ、これは僕の練習ですから」

「しーちゃんの歌、来たときより上達してますよ。ですから一度喉を休めてください」


 そこまで言われたら休むしかない。注文したジンジャーエールを飲みながら桔梗ちゃんの歌を聞く。彼女の歌声はまるで子守歌のようで、聞いていると心が安らいでくる。きっちり三曲歌ってから、僕に歌の感想を聞いてきた。


「しーちゃん、どうでした?」

「僕よりもずっと上手です。聞いてて何だか落ち着きます。ですけど桔梗ちゃん、もうちょっと別の歌を歌いませんか?」

「その、流行の歌とかわからないですから」

「なら、次来るまでに色々聞いてみて二人で気に入る曲を探しましょう」

「ですね」


 このあと、二人で満足するまで歌い、時間になったため退出した。座っていたから足は休められたけど、ちょっと調子に乗りすぎたみたいで余計な体力を使い疲れてしまった。


「はぅぅ、疲れちゃいました」

「ですね」


 予定では映画館に行って恋愛映画を観ようかなと考えていたけど、今の感じだと上映中に熟睡してしまいそうだ。それならいっそのこと外でのデートを切り上げ、帰宅し家デートに切り替えた方がいいのではと思い、桔梗ちゃんにも意見を聞く。


「桔梗ちゃん、これから映画館デートに行くのと、家に帰ってお家デートをするの、どっちがいいですか?」

「その、お家デートがいいです。理由はその」

「映画を見たらきっと眠ってしまうから、ですよね? 僕も同じです」

「しーちゃんも、ですか?」

「ええ。なのでちょっと早いですけど、帰ってお昼寝しましょうか」


 わざわざお金を出してまで、映画館で寝る趣味は無いため、映画はまた今度桔梗ちゃんとデートする機会があったら行こうと思う。そのときは真っ先に映画館に行くよう心掛けたい。


「そうですね。あの、しーちゃん、荷物半分持ちます」

「デートなんですから、このくらい格好付けさせてください。では改めて帰りましょう」

「そうですね。しーちゃん、空いてる方の手、繋ぎますね」


 桔梗ちゃんはそう断りを入れ、僕の手を握ってきた。彼女の方から言い出してくれたのを嬉しく思いながら、彼女の手を握り返しつつ僕達はゆっくりと歩いて帰宅した。出迎えた楓さんが早くに帰った僕達を心配していたので、ちょっと疲れただけと説明したのち、彼女の部屋に上がり、置かれてあるクッションの上に座った。


「桔梗ちゃん、ひとまずデート、お疲れ様です」

「しーちゃんこそお疲れ様です。あの、すごく楽しかったです」

「そう言っていただいたなら、誘ったかいがありました」


 立てた予定通りに行かなかったり、あまりデートっぽい雰囲気にならなかったけど、桔梗ちゃんが楽しんでくれたのなら上々だ。元々このデートはテストで頑張った桔梗ちゃんへのご褒美なのだから。


「その、しーちゃんの方は楽しかったですか?」

「もちろん僕も楽しかったですよ。それこそ、また行きたいなと思いましたから」

「はぅぅ、そ、そのときはお願いします///」


 自然と口から出た次のデートの誘いに、照れながら応じる桔梗ちゃん。次の機会があることに僕は内心ガッツポーズしつつ、彼女の疲れ具合について尋ねた。


「ありがとうございます。ところで桔梗ちゃん、帰ってきてから疲れはどうですか?」

「その、お部屋に戻ったからか、何だか眠くなってきました」

「そうですか。では毛布を借りてきますので、桔梗ちゃんは先にベッドで休んでいてください」

「あの、しーちゃんがベッドを」

「僕が毛布です。いいですね?」

「わ、わかりました」


 念押しされベッドに横たわる桔梗ちゃん。我ながらちょっと強引だったと思うけど、いくら僕でも好きな女の子を床で寝かせて、彼女の香りが残るベッドで寝られるほど神経太くない。


(ましてや、今日告白しようと考えているのだから尚のことですよね)


 楓さんに許可を取って和室から毛布を部屋に運ぶと、桔梗ちゃんがベッドの上で蒲団も被らないまま、寝息を立てていた。風邪を引かないよう蒲団をかけてあげ、小声で呟く。


「おやすみなさい。僕の大好きな桔梗ちゃん」


 気障だったかなと思いながら、僕も横になった。かなり疲れていたためか、睡魔はすぐに訪れ、僕の意識は深くへと沈んでいった。その後目を覚ました僕は、夕食に桔梗ちゃん特製の天ぷらを食べたり、お風呂に入ったりして過ごし、桔梗ちゃんの入浴が終わったあとでもう一度彼女の部屋へと向かった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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