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第六十三話 桔梗ちゃん、友達と料理を作る

桔梗視点です。

 連休最終日、私の家で勉強会が行われます。冬木くん一人だと同級生女子の家を訪ねづらいということですので、一度鈴菜さんと冬木くんはしーちゃんの家に集まりそれからこちらに来るそうです。


「そうですか、でしたら桔梗ちゃん、ちょっと」

「えっと、わかりました」


 その話を聞いたママが、ちょっとしたイタズラを思い付き、私もそれに乗っかることにしました。仕込みを終えてちょうど三人が来られたようですので、ママと一緒に玄関でお出迎えします。


「「「お邪魔します」」」

「「ようこそ♪」」


 イタズラの内容は、私とママがまったく同じ服を着て出迎えるというもので、初めてママを見る冬木くんは姉妹かと勘違いし、一度会っている鈴菜さんはどちらが私なのか迷っている様子でした。しかし、しーちゃんだけは違っていました。


「桔梗ちゃん、その格好も似合ってて可愛いですよ」

「はぅぅ///」

「楓さんも似合っています。一度その服で彩芽さんに迫ってみてはどうですか?」

「はぅ、わかられてます!」


 しーちゃんは先に私に声をかけてから、ママへと話しかけました。彼が私とママを見間違えるとは思っていなかったですけど、それでも少しは迷うと思っていました。


「いやいや、桜庭くんどうやって二人の見分け付けてるの?」

「桔梗ちゃんのことは毎日見てるんですから、一目見ればわかりますよ」

「はぅぅ」

「お見それしました。さすが桔梗ちゃんの幼馴染ですね。それでは着替えてから出かけてきます。お昼過ぎに戻りますので、皆さん自分の家だと思って寛いでください」


 そう言い残してママは奥へと去って行きました。お洋服姿のママを見るのは久し振りでしたから、イタズラとは関係無しにまた着て欲しいと思いました。


「なあ、一体何だったんだ?」

「あの人は桔梗ちゃんのお母さんの楓さんです。あの通り桔梗ちゃんと見た目が瓜二つですから、ちょっとした余興でしょう」

「母親って、若すぎないか!? 佐藤の双子の姉だと言っても違和感無いぞ!?」

「ウチも最初見たとき驚いたんだよね。ラン先輩も可愛いし」

「それより今日の目的は勉強会ですから、早く始めましょう。明日太、御影さん、こっちですよ」


 いつまでも玄関で雑談するのもよくないため、しーちゃんが先導してダイニングに向かいました。和室や私のお部屋でもよかったのですけど、しーちゃんと冬木くんにお昼をご馳走するためです。テーブルに各教科の参考書を並べ、準備万端です。


「さて、これから勉強会を始めますけど、最初にする教科に希望はありますか?」

「普通に中間テストの日程通りでしたらいいと思うよ」

「そうだな」

「ならそうします」


 こうして勉強会が始まりましたが、私以外の三人共が優秀なため、軽い確認だけしてすぐに参考書の問題を解くことへと移りました。私も何とかついて行こうとしましたけど、数日分のブランクは思っていたより大きかったみたいです。


「はぅぅ......」

「桔梗ちゃんは基本は出来てるんですから、落ち着いてやっていけばいいんです。大丈夫、深呼吸しながら僕が教えたこと、思い出してください」

「わ、わかりました」


 しーちゃんから励まされ、じっくりと問題に取り掛かります。彼と一緒に勉強していたことを思い出していくうちに、解き方が頭に浮かんできました。


「はい、正解です。よく頑張りましたね」

「本当だよ。この問題結構難しいよ」

「僕達でも詰まった問題だったからな。やはり佐藤の地頭はいいと思うぞ」

「はぅぅ、ありがとうございます///」

「この調子で他の教科もやっちゃいましょう」


 休憩を挟みながら次の教科に移り、教科書とノートの流し見から参考書の問題を解く流れを繰り返していき、お昼になりました。


「とりあえず全教科終わりましたね。お昼ご飯は桔梗ちゃんと御影さんが作るんですよね?」

「そうだよ。楽しみにしてて」

「だったらその間、僕と詩恩で参考書の応用問題を集めて、テストを作っておく」

「はぅぅ、が、頑張ります」


 しーちゃんと冬木くんの二人が作るテストに、かなりの不安を感じながら鈴菜さんとキッチンに向かいます。予告通りお二人の好物の唐揚げと豆腐のおみそ汁を作ることになりますが、鈴菜さんが用意したおみそが意外なものでした。


「麦味噌、ですか?」

「うん。冬木くんの実家って南の方らしくて、これが家庭の味らしいよ。試しに作ってみたけど、これはこれでよかったよ」

「鈴菜さんがそう仰るなら、楽しみにしてます」


 二人でお話しながら調理していきます。鈴菜さんは普段学食でお昼を食べているのですが、本人曰くレパートリーを増やすためだそうで、その発言に違わず料理上手でした。


「冬木くん、驚いてくれるかな?」

「大丈夫です、絶対に良さをわかってくれます」

「ありがとう。二人とも、お昼出来たよ」

「こっちもテスト出来たぞ。そんなに難しくないから安心しろ」

「会心の出来ですね」

「だったらいいけど、とりあえず食べようよ」


 テーブルの参考書等を片付けて、四人分のお料理を置きます。白米とおみそ汁と唐揚げという、シンプルな昼食です。いただきますの挨拶をしましたが、食卓を囲む四人中三人の視線が一人に集まりました。


「どうした? 全員でそんなに僕を見て?」

「それはもちろん、今回の目的が目的ですからね。僕はともかく、明日太の反応が気になるのは当然でしょう。ささ、みそ汁を飲んでください」

「ああ......んっ、こ、これは!」

「冬木くん、もしかして口に合わなかった?」


 おみそ汁を飲んで固まる冬木くんに、不安そうに尋ねる鈴菜さん。私としーちゃんも固唾をのんで冬木くんの次の言葉を待ちます。


「逆だ。うちの味噌汁と味付けが似てて驚いたんだ。これなら毎日飲んでもいいくらいだ」

「えっ!?」


 冬木くんは安心させるような口調で、定番の口説き文句を言い放ち、それを聞いた鈴菜さんは耳まで顔を赤くしました。本人は無自覚だったみたいで、鈴菜さんの反応に困惑していました。


「どうした? 僕、変なことでも言ったか?」

「もう、明......冬木くんのばか」

「???」


 そうやって拗ねる鈴菜さんはとても可愛くて、正に恋する乙女でした。好意を向けられた冬木くんはわかってなさそうですけど。そんな中、これまで動きの無かったしーちゃんが、唐揚げに箸を伸ばし口に入れました。


「桔梗ちゃんの作った唐揚げは――うん、やっぱり美味しいですね。前に食べたコンビニ弁当よりも、何倍も」

「あ、ありがとうございます」

「唐揚げを毎日食べるのは難しいですけど、桔梗ちゃんの料理はこれからもずっと食べていきたいです」

「は、はぅぅぅぅ!!」

「「「桔梗ちゃん(佐藤)!!」」」


 冬木くんの発言よりも直接的な、愛の告白としか思えない言葉をしーちゃんから言われ、私はどきどきしすぎてしまい、意識を失ってしまいました。次に目が覚めたときに見たのはしーちゃんの困り顔で、私が起きてからはずっと何かを真剣に悩んでいるみたいでした。


(何を悩んでいたのでしょう?)


 しーちゃんに聞いても教えてくださいませんでした。しーちゃん、私はそんなに頼りないですか?

お読みいただき、ありがとうございます。

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