表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/156

第六十二話 詩恩くん、佐藤家の草むしりをする

 五月五日、今日は彩芽さんの誕生日ではあるのだけど、彼と妻の楓さんはデートのため丸一日外出している。そのため、家のことは桔梗ちゃんと鈴蘭さんの二人に任されている。僕と雪片先輩はその手伝いだ。と言ってもGW中で祝日だからすることはせいぜい掃除くらいなのだけど。


「それで、掃除するのはいいがどこをすればいい?」

「分担も大事ですよね? 僕や雪片先輩だけで手を出すわけにはいかない場所もありますし」

「その辺は桔梗ちゃんと打ち合わせ済みだから大丈夫だよ」

「はい。その、まずしーちゃんと雪片お兄ちゃんにはお外の掃除を担当して貰います。その間に私と鈴蘭お姉ちゃんが二階のお部屋のお掃除をします」

「妥当だな」


 桔梗ちゃんの口から説明された組み合わせは真っ当なものだった。佐藤家の二階はそれぞれ個人の部屋になっているため、たとえ家族同伴でも僕や雪片先輩が掃除していい理由が無いからだ。


「だが、俺達が外の掃除をしてる間に、お前らが二部屋ずつ受け持つのはキツくないか?」

「わたし達のお部屋は、昨日歌音さんが帰ったあとに掃除したよ」

「パパ達のデートの前日に、自分達のお部屋は終わらせるようにしてるんです」


 確かに楓さんの代わりに家事をする日なのに、自分達の部屋の掃除に使っては本末転倒だ。なので最低限必要なところだけ済ませ、両親の部屋に取り掛かるらしい。


「なら俺達がすべきは庭と車庫、あと玄関の掃除だな。詩恩はどっちがいい?」

「お任せします、と言いたいところですが庭掃除で。車庫や玄関掃除は必要なものが多そうですから、ここに来て日が浅い僕がすると時間かかりそうですから」


 その点、庭掃除は最悪身一つでも出来ないこともない。雪片先輩も納得してくれたため、僕は庭の掃除をすることになった。主な仕事はそこらに生えている雑草を抜くことで、僕は軍手を嵌め作業に没頭していた。


(気をつけていても、こういう草って生えてくるんですよね)


 しっかりと抜いたようでも、根っこさえ残っていればまた生えてくる。病気しがちな僕としては、この生命力は羨ましいと思えるがそれはそれ、これはこれだ。


(放置すると害虫の住処になりかねませんからね)


 バッタ辺りならまだ育てている花や野菜への被害だけで済むけど、もしもムカデや毒蛾なんかが住み着いたら一大事だ。


(小さな虫だからと甘く見たら、本当に痛い目に遭いますからね)


 僕自身は経験無いけど昔、僕と同じ病室に虫の毒にやられ、全身に湿疹が出来て入院した患者さんがいた。三日ほどで退院していったけど、入院初日の夜、寝ながら苦しんでいた彼の姿が忘れられない。


(あそこまで酷いのは滅多にないでしょうけど、万が一というのもあり得ます)


 大好きな桔梗ちゃんやその家族達が、彼みたいに苦しむ姿は見たくない。だから彼女達に危害が及ぶ前にその芽は摘んでおきたい。そう思いながら慣れない作業を一時間ほど続け、目に付いた雑草をすべて抜き終えた。


(これでいいですかね? あとは物置の掃除もしましょう)


 庭の端に設置された物置を開け、中に置かれたものを一旦外に出してから、再び元の場所にしまい込む。脚立やら梯子やらが多いのは、この家の平均身長が低いからだろう。


(何しろ女子の平均ほどの僕でさえ、雪片先輩の次に背が高いですからね)


 小柄な家族には小柄なりの苦労があるのだと思いつつ掃除を終え、同じく片付けをしていた雪片先輩に声をかける。


「外の掃除、終わりました」

「そうか。ご苦労だったな。鈴蘭達は部屋の掃除を済ませて、今は和室をしてるそうだ」

「でしたら、お手伝いに行きましょうか」

「その前にお前、髪や頬に泥が付いてるぞ?」

「雪片先輩だって、ちょっと汚れてますよ?」


 僕も雪片先輩も慣れない作業だったからか、少々体が汚れていた。このまま掃除の手伝いに行っても逆効果なので、部屋で軽くシャワーを浴びたのだけど、半乾きの髪のまま戻ったら桔梗ちゃんに赤面された。


「はぅぅ///」

「どうして照れるんです?」

「その、お風呂上がりの濡れた髪がセクシーで///」


 前にも思ったけど、どうも桔梗ちゃんは髪フェチの気があるみたいだ。男の髪なんて見ても楽しくないだろうに。雪片先輩は短髪なのですぐに乾いたため、鈴蘭さんは少々残念そうだ。姉妹揃って髪フェチなのだろうか。


「雪片くんはもうちょっと髪を伸ばすべきだよ」

「邪魔になるからいい」

「だったら詩恩さんくらいの長さにしてから、オールバックにしたらどうかな?」

「あの、僕もそろそろ切ろうと思ってるくらいなんですけど」

「「それはダメ(ダメです)!」」


 どうやら姉妹とも髪フェチは確定のようで、僕が髪を切りたいと希望を言っても止められてしまった。桔梗ちゃんはわかりやすいけど、鈴蘭さんは雪片先輩に散髪して欲しくないからだろう。


「いや、髪切りに行くくらい自由にさせてくれ」

「そうですよ」

「だったら、雪片くんの髪はわたしが切るよ。今は短いからまた今度だけど」

「しーちゃんは私がします。そうすれば散髪代も浮きますし」


 二人とも目が本気だった。とはいえ僕も雪片先輩も髪型にこだわりは無いので、たとえ失敗しても怪我さえしなければいいだろうと考え、彼女達の提案に乗ったのだった。後日、彩芽さん達監督の下、桔梗ちゃんによる僕の散髪が執り行われた。どうも姉妹で彩芽さんと楓さんの髪を整えたりしているそうで、意外といい出来映えだったことを付け加えておく。

お読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ