第五十九話 詩恩くん、鈴蘭さんの馴れ初めを聞く
桔梗ちゃんの家族と出会い、その特殊性に母さんは面食らっていたのだけど、話しているうちにどうにか受け入れたようだった。お互い打ち解けたあと、母さんは彩芽さん達より少し年上ということもあって、僕や桔梗ちゃんと変わらない接し方をしている。
(だからって、彩芽さん達を呼び捨てにしてるのはどうかと思いますね)
当人達が許しているのに、僕が口出しするのもおかしいので黙っておくけど。
「ふぅん、じゃあ彩芽も詩恩みたいに男からナンパされてたのね」
「今もたまにされてるよ。断り方がすっかり板についた」
「見ててちょっとだけ、あやくんが羨ましくなります。わたし、そういうことされたことほとんど無いですから」
「まあ、楓や桔梗ちゃんみたいな子はされなくても仕方ないわよ。犯罪臭いもの。鈴蘭ちゃんみたいな、大人になり始めた子供の外見ならともかく」
「「「はぅぅ......」」」
母さんの発言に落ち込む三人。的確な表現だけど歯に衣着せなさ過ぎると思う。本来なら文句を言うべき彩芽さんや雪片先輩ですら、その通りだと思ったのか何も言えなくなっていた。
「まあ子供っぽくてもいいじゃない。母娘で白いルーズソックスを履いても、違和感が全然無いんだから。それこそあたしが履いたらギャグにしかならないわよ」
母さんの発言に同意する。楓さんは普通に可愛いと思うけど、母さんが同じ格好するのは無理があった。まだ黒とかならファッションや防寒着として無いこともないけど。
「そうでしょうか? 似合うと思いますけど」
「ないない。現役時代ならともかく、若さが足りないわよ」
「わたし、歌音さんよりちょっと年下なだけなんですけど」
「楓は可愛いからいいのよ」
そう言いながら楓さんを膝の上に乗せ、髪を撫でる母さん。もう片方の手は鈴蘭さんの頬をぷにぷにしている。桔梗ちゃんを可愛がっていただけあって、楓さんや鈴蘭さんのことも気に入った様子だ。
「彩芽さん、楓さん取られてますけどいいんですか?」
「同性だし多少はね。それに自分の伴侶を初対面の相手に可愛いって言って貰えたことの方が嬉しいかな」
「そういうものですか」
彩芽さんの言い分もわからなくも無いけど、僕が同じ立場だったら母さんに苦言を呈すると思う。
「雪片はどう思う? 鈴蘭ちゃん、歌音さんにほっぺ触られてるけど」
「俺は彩芽さんほど余裕を持てないっすね。もっとも、鈴蘭本人も嫌がってないし、すぐに引き離すほど大人げないことはしないっすけど」
「大人ですね、雪片先輩も」
「アイツとは婚約してるし、ちょっとやそっとじゃ関係揺るがないってわかってるからな」
一つしか違わないのに、そう言い切る雪片先輩は立派としか言いようが無い。ただ、こんな話を目の前でされたためか、楓さんと鈴蘭さんの顔が真っ赤になり、母さんがニヤニヤ笑っていた。
「あらあら、二人とも愛されてるわね。詩恩も見習いなさいよ?」
「そんなこと言われましても」
「そうですよ。私としーちゃんはまだお付き合いしていませんから」
「えっ!?」
「「「「「まだ?」」」」」
「は、はぅぅぅぅ!! 今のは言葉の綾です!!」
何気にすごいことを言われた気がするけど、当人が言葉の綾だと言うのならスルーしよう。僕自身も桔梗ちゃんのことをどう思っているのか、完全な結論が出てないのだから。
「あら残念ね。個人的には詩恩と桔梗ちゃん、お似合いだと思うけど」
「はぅぅ///」
「僕達は僕達のペースでやっていきたいんです。仮にそうだとしても、この場ではい付き合いましょうとかするのは、違うでしょうから」
「それもそうね。ならこの話は終わりにしましょうか」
母さんの発言を聞いて、僕と桔梗ちゃんはホッと胸を撫で下ろした。黙って聞いていた他の四人が、全員同じ顔をしていたのは気になるけど。
「その代わり、楓や鈴蘭ちゃんの恋愛話を聞きたいわね」
「「はぅぅ!?」」
「驚くことないじゃない。まあ楓の話は夜のお楽しみとして、鈴蘭ちゃんの話を聞かせてちょうだい?」
「わ、わかりました」
母さんから頼まれ、雪片先輩との馴れ初めを語る鈴蘭さん。その話は鈴蘭さんの優しさと雪片先輩の不器用さ、そして彩芽さん達家族の温かさに溢れたものだった。概要は何度か聞いたことはあったけど、こうしてじっくり聞いたのは僕も初めてで、今知った事実もあった。
「ありがとう。一つ質問いいかしら?」
「何でしょう?」
「千島くん、虐待を受けてたって言ってたけど、その体なら普通に抵抗出来たんじゃないの?」
そう、雪片先輩が一人暮らしをする前に虐待を受けていたことだ。今の雪片先輩は肉体的にも精神的にも強い人なので、虐待される側に立っていたとは考えにくかった。
「抵抗しなかったのは俺が居候で、迷惑かけてる側だと考えていたからで、今考えればそうしておけばよかったと思ってるっす。両親とは死別してる上に、親父がロクデナシだったから」
「なるほど、親の負い目ってやつね。だとしてもそんなことした奴らは最低ね。仕返ししても罰は当たらないと思うわ」
「大丈夫っす。とっくに連中裁きを受けたっすから。去年の十二月に発覚した、親族ぐるみで虐待を行ってたっていう事件、知ってるっすか?」
その事件なら聞いたことがある。僕は受験生だったから詳しいことは知らないけど、かなり昔に死んだ有名ジャーナリストの親族内で行われていたことだと、連日報道されていた。まさか雪片先輩達がその件に関わっていたなんて。
「千島って名字でまさかって思ったけど、あの一件の被害者なわけね」
「そうっす」
「大変だったんですね」
「事件のことはほぼ任せきりだったが、本当にそう思う」
当時のことを思い出したのか、雪片先輩は疲れた顔で同意した。彩芽さん達も苦笑しているので、彼らも巻き添えになったのだろう。母さんも事件の詳細には興味が無いのか、話をここで打ち切った。
「とりあえず聞きたいことは聞けたわ。鈴蘭ちゃん、それに千島くんもありがとう」
「どういたしまして」
「どうもっす」
「さてと、そろそろいい時間だし一旦アパートに戻るわ。詩恩、久し振りに料理作ってあげるから、スーパーまで案内しなさい」
「わかりました。それではみなさん、またあとで」
僕は一度帰宅し、しばらく母さんと家族水入らずの時間を過ごし、家庭の味を堪能したのだった。
お読みいただき、ありがとうございます。




