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第五十七話 詩恩くん、桔梗ちゃんと一緒に眠る

 座談会のあとで入浴を済ませた。アパートでは水道代などの関係でシャワーで済ませることもあるけど、基本的に風呂好きなので実家と同じくらい寛げる広さのお風呂に入れてよかった。女性陣のあとだからちょっと心理的に入り辛かったけど。


(雪片先輩も彩芽さんもあとで入ると言ってたので、行くしかなかったですけど)


 ボヤボヤしてたら桔梗ちゃんが眠る時間になってしまう。今の時刻は八時半、桔梗ちゃんが眠るのは九時なので三十分くらいしかない。


(急がないとですね)


 手早く着替え、和室に置いてある荷物から携帯だけ持って桔梗ちゃんの部屋に向かう。ちなみに携帯を持ってきたのは、久遠兄さんや悠馬さん辺りから電話がかかってきたときのためだ。


(もしかかってきたら一度僕の部屋に戻らないといけないですからね)


 とはいえ、今日は定時連絡する日ではないのであくまでも念のためだ。とりあえず着信履歴には二人の名前は無かったので安心し、桔梗ちゃんの部屋の前に立ち、ドアを叩いた。


『はい』

「詩恩です。桔梗ちゃん、短い間ですけどお話しましょう」

『しーちゃん、今開けますね』


 内側からノブが回され、桔梗ちゃんがドアを開けて僕を出迎えた。桔梗ちゃんの寝間着は白と青色のセーラー風のミニワンピースで、清楚な雰囲気の彼女にとても似合っていた。


「桔梗ちゃん、似合ってて可愛いですよ」

「はぅぅ///」


 可愛いと言われ恥じらいながら下を向く桔梗ちゃん。彼女に合わせて下を向くと、とてもボリュームのある真っ白なルーズソックスと、うさぎ柄のスリッパが見えた。


「靴下も暖かそうですね」

「はい。可愛いですしお気に入りなんです。汚れやすいので、お家の中と大切なお話のときだけしか履かないですけど」

「そうですか」


 桔梗ちゃんはかなりのきれい好きで、いつも履いている白いタイツの足裏でさえ汚れてるのを見たことない。足フェチの人からは賛否両輪あるだろうけど、少なくとも僕は好感が持てた。彼女に部屋の中へ通され、適当な場所に腰掛けた。


「はぅぅ、お風呂上がりのしーちゃん、お綺麗です」

「まだ髪が乾ききってないだけですよ。パジャマだって普通ですし」


 お風呂を借りる前に、一度雪片先輩と一緒に着替えを取りに戻ったため、僕が今着ているのは普段愛用しているパジャマだ。体型の都合上女物なのはどうしようもないけど、せめて目立たない緑色で無地のものを選んだ。


「同じのを私が着ても、しーちゃんみたいにならないと思います」

「桔梗ちゃんと僕ではタイプが違いますから。と言いますか、どうして携帯を構えてるんです?」

「しーちゃんのお風呂上がりの写真撮りたくて、駄目ですか?」

「いいですけど、代わりに僕も桔梗ちゃんを撮りますよ?」

「はぅぅ、いいですよ?」


 許可が出たのでお互いに今の姿を撮影し合った。母さんに送るため、しばしば桔梗ちゃんの写真を撮っているのだけど、今回のはさすがに場所と時間の都合で送れない。


「これでいいですね。撮影も終わりましたし桔梗ちゃん、お話ししましょうか」

「はい♪」

「まずなんですけど、三日に母さんが来て、この家に泊まることになってるじゃないですか?」

「そうでしたね」


 母さんはよほど桔梗ちゃんの家に泊まりたいらしく、何度か確認のメッセージが送られてきている。GW中の息子に会いに来るのが目的じゃ無いのかと問いただしたくなるほどだ。


「そのときも今回みたいに彩芽さんの部屋か和室のどちらかを使うのかなと思いまして」

「多分ですけど和室か、ママのお部屋になるかと。その、パパのお部屋に他の女性が入るとママが悲しむので」

「それもそうですね」


 桔梗ちゃんの家庭に不和を招きたくないので、とりあえず母さんには釘を刺しておこうと思う。あの人もあれで父さん一筋だから大丈夫だと思うけど。


「そもそも泊まることについて、反対されてる方はいるんですか?」

「いえ。逆に全員楽しみにしてるくらいですよ」

「そうですか」


 彩芽さんや楓さん、鈴蘭さんも母さんと会うのを楽しみにしていると聞いて、一つ思いついたことがあった。


「桔梗ちゃん、明後日母さんが来たときのことなんですが、僕が母さんをこっちの家に連れて来ますので、桔梗ちゃんも皆さんと待っていてください」

「わかりました」


 桔梗ちゃんが一緒だと佐藤家を訪れるまでの間で、皆さんが母さんにいい印象を抱いているのがバレてしまいそうだから、待って貰うことにした。久し振りだしいつも振り回されているので、たまには僕の方からやり返したい。


「ふふっ、母さんの驚く顔が目に浮かびます」

「はぅぅ、しーちゃんが悪い顔してます!」

「このくらい、母と子のコミュニケーションですよ。母さんが来るのが今から楽しみです」


 とはいえ母さんを困らせたり驚かせたいだけで、悲しませたり傷付けるつもりはこれっぽっちも無い。それを桔梗ちゃんもわかっているのか、本気で止めようとはしてない。


「はぅぅ、あまり、酷いことは、しないで......ください」

「桔梗ちゃん?」

「優しい、しーちゃんが......一番、です」


 桔梗ちゃんの発言が途切れ途切れになったので、覗き込むと明らかに眠そうにしていた。時計を見ればもう九時前だった。


「桔梗ちゃん、もう寝ましょう。ベッドまで運びますね」

「はぅぅ、しーちゃんも、一緒に」

「はい。傍にいます」


 船を漕ぐ桔梗ちゃんを抱えてベッドまで運んだ。小柄な桔梗ちゃんは見た目以上に軽く、僕の腕力でもお姫様抱っこ出来るほどだった。途中寂しそうに呟いた彼女に声をかけ、ベッドに下ろそうとしたのだけど、思い切りしがみつかれていた。


「......あの、桔梗ちゃん? 離れてくださらないと下ろせないんですけど」

「すぅ......すぅ......」

「ちょっ!! こんな状態で熟睡しないでください!!」

「くぅ......くぅ......」

「駄目です、起きる気配すら無いですね」


 あれだけ事前に忠告されていたのだから、眠そうにしていた時点で寝かせておけばよかった。そう後悔してももう遅く、携帯で彩芽さんや雪片先輩に助けを求めてみたけど、二人からは諦めて一緒に寝るのが丸く収まるというアドバイスをいただいた。


(仕方ないですね。桔梗ちゃん、起きても驚かないでくださいね?)


 どうあっても離れてくれそうに無いので、一緒のベッドに入り桔梗ちゃんを抱き枕代わりにして寝ることに決めた。一人で寝ていると入院していた頃の寂しさを思い出してうなされるのだけど、温もりを感じながら眠ったため、この日はとてもよく眠れたのだった。余談だけど、次の日起きた桔梗ちゃんは僕が隣で寝ているとわかった瞬間、恥ずかしさのあまり真っ赤になって気絶してしまい、再び目を覚ましたときに土下座で謝られたのだった。

お読みいただき、ありがとうございます。


部屋で一夜を共にしても、健全さしかない二人です。

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