第五十五話 桔梗ちゃん、父親を出迎える
桔梗視点です。
鈴蘭お姉ちゃんのお誕生日会が終わり、雛菊お姉さんと桐矢お兄さんが帰られました。お二人ともパパのお誕生日を直接お祝いしたかったそうですけど、桐矢お兄さんのアルバイトの時間が迫っていたので、私達によろしく伝えて欲しいと言伝を残されました。
「アルバイトなら仕方ないですよね。雪片先輩は大丈夫なんですか?」
「うちの学校、テスト期間中のバイトは原則禁止なんだ。家庭環境次第での例外はあるがな」
「そうだったんですね。知りませんでした」
「私もです」
アルバイトの経験が無い私達は、当然そういった校則に縁がなかったので知りませんでした。ちなみに、雪片お兄ちゃんは去年までは例外だったそうですが、今はパパが後見人になり外れたそうです。
「まあ、入学してすぐのお前らが知らなくても無理ないか。バイトにも縁なさそうだしな」
「わたしは知ってたよ? だからテスト期間中は雪片くんと一緒にいられると思ってたんだけど」
「すまんな。お前に出来るだけ秘密にしたかったんだ。だがそれも今日までだ。明日からは普通に過ごすぞ」
「うん♪」
鈴蘭お姉ちゃんはしばらく雪片お兄ちゃんが構ってくれなかったのが寂しかったみたいです。私もしーちゃんが素っ気なかったら落ち込みますので、お気持ちはすごくよくわかりました。
「鈴蘭ちゃん、よかったですね♪」
「ありがとう、かか様♪」
「あのっ、テストで思い出しましたけど、鈴蘭お姉ちゃんと雪片お兄ちゃんに聞いておきたいことがあるんです」
「「なんだ?(何かな?)」」
「その、六日の日にお友達とお勉強会をするつもりなんですけど」
「鈴蘭さんや雪片先輩は、友達と勉強会を行う予定あったりしますか?」
私の発言から繋げるように、しーちゃんがお二人に質問しました。鈴蘭お姉ちゃん達の回答次第で、勉強会の場所をどこにするか変わってくるからです。
「一応あるかな? そっちは何人?」
「四人ですね。そちらは?」
「今のところ俺達二人だけだ。だからこっちは俺の部屋や鈴蘭の部屋でも問題ない」
「そうですか。でしたら遠慮なく和室を使わせていただきますね」
ですが、どうやら私達の考えすぎだったみたいです。六日の予定が決まりホッと一息ついた私の肩を、ママがポンと軽く叩きました。
「あの、桔梗ちゃんのお友達って、一昨日来た鈴菜ちゃんですよね?」
「そうですよ」
「なら安心ですね」
一昨日鈴菜さんが来て一緒にお勉強しましたけど、その際ママとも顔合わせしました。やはりと言いますか、ママを一目見て私のもう一人のお姉ちゃんだと誤解され、母親だと話すと二度驚かれました。その後鈴菜さんはママから質問攻めにされ、結果意外な事実が判明しました。
(まさか、鈴菜さんのお母さんとママが知り合いだなんて思いませんでした)
鈴菜さんのお母さんですが、ママが学生だった頃から教師をしていたらしく、何度か進路の相談をしたことがあったそうです。親世代からの繋がりがあったと知り、ママは鈴菜さんをかなり信頼したみたいでした。
「四人と言ってましたけど、残りの方はどんな方ですか?」
「あともう一人は男ですけど、彼すごく真面目ですから、問題は起きないと思いますよ」
「そうですか。ではその方とも当日お会いするのを楽しみにしてますね」
「ええ。彩芽さんや楓さんを見て、驚く明日太の顔が目に浮かびます」
そう言ってイタズラっぽく笑うしーちゃん。同性のお友達だからでしょうか、しーちゃんからこんな風に遠慮無しに扱われる冬木くんが、ちょっとだけ羨ましいと思えました。
「ほどほどにしてやれよ」
「詩恩くんって、そういうお友達に容赦ないところもあやくんと似てますね」
「多分ですけど、彩芽さんも僕と同じで男友達少なかったんでしょう。だから友達になってくれた人には遠慮しないようにしてるのだと思います」
「「「あ~」」」
しーちゃんの推測を聞いて、私達は全員納得しました。恐らくですけど、しーちゃんとパパはお互いが理解者なのでしょう。続いてママが口にした言葉が、なによりの証拠でした。
「そういえば、あやくんが昔同じことを言ってました」
「やはりですか」
「何だか妬けちゃいます。妻のわたしよりあやくんのことを理解してるみたいで」
「それはたまたま僕も彩芽さんも、男に見えない男という似たような境遇だったからに過ぎませんよ。楓さんは彩芽さんの最愛の女性なのですから、こればかりは理解出来なくても仕方ないです」
少女のように頬を膨らませるママに、微笑みながら語りかけるしーちゃん。そのお顔はとても大人っぽくて、どことなく歌音さんを思い起こしました。
「はぅぅ、詩恩くん、ありがとうございます」
「どういたしまして。それと楓さん、彩芽さんっていつお帰りになりますか?」
「多分もう五分もしないうちに帰ると思います」
そう断言するママ。これまでパパの帰りの時間をママに聞いて、外れたことはありません。特に携帯電話を見ているわけでも無いので、完全に感覚で答えているのでしょう。実際今回も三分後にパパが帰って来ましたので、少し早いですけどお誕生日をお祝いしました。
「ただいま」
「「「「「お帰りなさい。それと、お誕生日おめでとうございます!!!」」」」」
「あはは、ちょっと気が早いけどみんなありがとう」
「お祝いのお料理もちゃんと用意してるよ」
「プレゼントはママとの一日デートです。お家のことは私達がしますから、五日は安心してお出かけしてください」
パパのお誕生日の五月五日と、ママのお誕生日の十月三日の二日は、お二人がお家のことを考えなくていいよう、私と鈴蘭お姉ちゃんの二人ですべての家事を行う日になっています。本音を言うともっとお二人には休んでいただきたいのですけど、私達はまだ子供なのだから家のことより優先することがあるだろうと逆に諭され、現状お二人のデートはお誕生日だけになっています。
「二人ともありがとう。かえちゃんとのデート、楽しんでくるからね。それと雪片達もわざわざ待っててくれたんだね」
「まあ、俺は家族っすから残るのは当然っす。そうそう、桐矢達もおめでとうって言ってたっすよ」
「そう。今度彼らにもお礼を言わないといけないね。それで、詩恩が残ってる理由は何かな?」
「......ご近所さんですし、お世話になっているわけですから直接お祝いの言葉を伝えたかったんです」
雛菊お姉さん達と一緒に誰かに言伝して帰っていてもよかったはずなのに、自分の部屋に戻らず今もここにいる理由をパパから尋ねられ、しーちゃんは目をそらしながら答えました。
「そうかい。なら用事はこれで済んだわけだけど、もうアパートに帰るのかな?」
「えっ?」
「だってそうだろう? 僕が戻って、誕生日祝いも直接伝えられたのだから、詩恩に残る理由はもう無いはずだ。これ以上は遅くなるから、帰った方がいいと思うよ? それとも、他に理由があるのかい?」
「それは――そう、ですね。それでは皆さん、お先に――」
「しーちゃん、待ってください!!」
パパに問い詰められ残る理由が無いと悟り、アパートに帰ろうとするしーちゃん。そんな彼を引き留めるように、私は叫んでいました。
「えっ......桔梗ちゃん?」
「桔梗ちゃん、何か言いたいことでもあるのかな?」
「あのっ、はぅぅ、えっと、そ、そうです! アパートは今誰もいないんです! ですからしーちゃんお一人だと危ないですから、私のお家に、その」
しかし、どうして引き留めたのか自分でもよくわからなかったため、しーちゃんとパパに対する説得がしどろもどろになってしまいました。ただ、要領を得ない私の説得を聞いて、しーちゃんは優しく微笑みました。
「わかりました。僕一人でいるのは寂しいですし、今日くらいは泊まっていきます」
「はぅぅ!? ほ、本当ですか!?」
「ええ。そういうことなので彩芽さん、残る理由出来ちゃいました」
「わかった。ここで君を追い返したら僕が悪者になるから、泊まっていっていいよ。どうせだし雪片も一緒に」
「「はぅぅ♪」」
しーちゃんと雪片お兄ちゃんのお泊まりが決まり、私と鈴蘭お姉ちゃんは姉妹で抱き合って喜びを分かち合いました。
「いいっすけど、彩芽さんさてはわざとああいう言い方を」
「何のことかな? せっかく男三人いるわけだし、あとで話でもしようか。もちろん、鈴蘭ちゃんや桔梗ちゃんと話す時間も大事だから、彼女達がお風呂に行っている間にでも」
そういうわけで、私達が入浴している間に、男性陣三人での座談会が行われるみたいです。
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