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第五十三話 詩恩くん、友達にからかわれる

 明日太と勉強会を開いた翌日、僕と桔梗ちゃんは日直の仕事のため、早い時間に登校していた。最初の一週間ですでに一通りの仕事をしていたためか、クラス委員の二人が来る頃には完全に終わっていた。


「ハッキリ言って、これまでで最短記録だな」

「一人暮らししてる男の子と、家事万能な女の子の組み合わせで、しかも息ピッタリな幼馴染だから、不思議は無いけどね」


 僕達の朝の仕事ぶりを、明日太達が絶賛する。褒められたのは嬉しいけど、この口振りだと日直に引き継いでからも早く来ていることが伺える。


「どうも。と言いますか二人とも早いですね?」

「僕の場合、家にいても勉強出来ないからな」

「ウチはその、何となくかな? この時間でも日直以外に誰かいるのはわかってるし」


 僕の質問に明確な理由で答える明日太と、曖昧に濁す御影さん。別に早く来るのは悪いことじゃないので、何となくでも特に問題ないけど。


「明日太も大変ですね」

「まあな。だから昨日は本気で助かった。詩恩のおかげでかなり勉強が捗ったからな」

「どういたしまして」


 本人の意思で勉強しないのはどうしようもないけど、家庭環境が原因で勉学に集中出来ないのなら、場所を貸すくらいどうってことは無い。ましてや友達なのだから。


「ねえ、昨日桜庭くんと冬木くん何かしてたの?」

「鈴菜さん、実はお二人とも、しーちゃんのお家で勉強会していたそうですよ?」

「えっ? そんな近くでしてたなら、ウチらの勉強会に参加すればよかったのに」


 僕達二人で勉強会していたことを聞いた御影さんの感想は、桔梗ちゃんと同じで至極真っ当なものだった。なので桔梗ちゃんに話したのと同じ理由を語った。


「なるほどね。ラン先輩の誕生日会の企画も同時に動いてたなら、仕方ないね」

「わかってくださってよかったです」

「だけど、今度二人で勉強会するときはちゃんとウチにも声かけてね? 今回だって知ってたら、千島先輩から連絡があったあと、ちょっとの時間でも四人で勉強出来たと思うし」

「以後気をつけます」


 雪片先輩から連絡があったのは一時半過ぎで、明日太がいられる時間を考え、声をかけるべきじゃないと判断したけど、御影さんは僕とは違う意見だったようだ。


「ならいいけど。それで、二人での勉強会で変わったこととか無かったのかな?」

「変わったことですか?」

「昨日、物欲しそうな目で詩恩に見られた」

「「ええっ!?」」

「明日太、悪ノリしないでください。あれは唐揚げ弁当につられただけです」


 人聞きの悪い言い方をする明日太に注意しつつ弁解する。我ながら情けない理由だと思うけど、誤解されるよりは全然いい。


(それにしても、何だか明日太の遠慮が無くなってる気がします)


 もしかしたら昨日いろいろ話したことが影響しているのかもしれない。いい変化だと思うけど。誤解は解けたが、食べ物の話は続いていた。


「桜庭くん、意外と食いしんぼうなのかな?」

「しーちゃん、唐揚げ大好物ですから。いつもすっごく可愛い顔で食べてくださるので、見ていてキュンとします///」

「佐藤のその感覚はわからないが、見ていて美味しそうなのは伝わってきた」

「そんな顔してたんだ。桜庭くんの幸せ顔、ウチも見たかったな」


 そう言われても困る。大体好物を食べたときの自分がどんな顔してるかなんて見たことないからわからない。何となく締まりのない顔してるのは想像つくけど。残念そうにしている御影さんを見て、桔梗ちゃんがこんな提案をした。


「あの、でしたら六日の日にこの四人でお勉強会しませんか?」

「「えっ?」」

「桔梗ちゃん、いいアイデアですね。僕達二人とも五日まで忙しくて勉強時間あまり取れませんし」


 僕も桔梗ちゃんのアイデアに乗っかる。今年のGWは日程の関係上、六日も休みになっている。そのため、三日から五日に予定が入っていても六日は丸一日勉強に使えるのだ。GWの最終日かつ、テスト前最後の休日の勉強会だからか、二人とも即座に返事した。


「僕も構わない」

「ならウチも参加するよ。でも、ラン先輩とかどうするの?」

「さすがに鈴蘭お姉ちゃんも、昨日と違って二年生の勉強をすると思います。あとでお話ししてみないとわかりませんけど」


 確かに言われてみればその通りで、雪片先輩達も友達と勉強会をする可能性は大いにあり得る。場所や人数がどうなるかはわからないけど、もし被った場合、後輩の僕達が譲るべきだろう。僕の部屋に四人は手狭だけど、勉強するだけなら何とかなる。


「どこでするとしても、お昼は私が作りますから、しーちゃんの幸せそうなお顔、いつでも見られますよ?」

「桔梗ちゃん、ウチも手伝うよ。それとせっかくだから冬木くんの好物も教えてよ」

「僕の好物なら、豆腐の味噌汁だ」

「「「渋っ!!!」」」


 十代の若者としては意外すぎるチョイスに、僕達は声を揃える。毎日食べても飽きない食べ物と言い換えれば、的外れでは無いと思うけど。


「ま、まあ健康的でいいと思うよ。作るのはいいけど、とりあえず冬木くんの家で使ってる味噌と豆腐の種類教えて」

「ああ」

「桔梗ちゃん、お味噌汁って味噌や豆腐で味変わるんですか?」

「全然違います。たまたま私の家が、しーちゃんの家と同じお味噌使ってたのでしーちゃんが疑問に思わなかっただけです」


 興味本位で聞いたところ、桔梗ちゃんに力説されてしまった。確かに桔梗ちゃんが最初に作った味噌汁飲んだとき、うちのと似てるって思ったけど。


「なるほど、冬木くんの家はそうなんだね。当日まで時間あるし、ちょっと練習しようかな?」

「無理そうならあわせなくていいぞ」

「ううん、こういうのはプライドの問題だから」


 御影さんの宣言に隣で桔梗ちゃんもコクコクと頷いていた。女の子って大変なんだなと思いながら、僕と明日太は換気のため開けていた窓を閉めたのだった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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