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第五十一話 詩恩くん、友達からツッコまれる

 今日は四月二十九日、祝日であり四月最後の休みでもある。朝の準備を済ませ、駐車場の掃除を終わらせると、雪片先輩が外階段を下りてきた。バッグを肩に掛けていたので、どこかへ外出するのだろう。


「雪片先輩、おはようございます。どこかへお出かけですか?」

「おはよう詩恩。繁華街の喫茶店で、桐矢達と待ち合わせだ」

「そうですか。鈴蘭さんと一緒に行くのですか?」

「いや、アイツには内緒だ」

「えっ?」


 挨拶がてら行き先を聞くと、少し意外な答えが返ってきた。桐矢さん達と待ち合わせしていて、鈴蘭さんを連れて行かないなんて珍しい。ただ、雪片先輩がそうする理由に心当たりがあった。


「もしかして、鈴蘭さんのお誕生日会の件ですか?」

「正解だ。当日も前日も平日だから、細かい内容の打ち合わせは今日中に済ませておかないとな」

「やはりそうでしたか。その話し合いですけど、僕も参加した方がいいですか?」

「いや。お前には留守番を頼みたい。それでアイツらとの話し合いで決まったことを、桔梗や楓さんに伝えてくれないか? もちろん鈴蘭には気付かれないようにな」

「わかりました。それでは、行ってらっしゃい」

「ああ、行ってくる」


 雪片先輩を見送り部屋に戻ると、桔梗ちゃんから携帯にメッセージが届いていた。内容は『鈴菜さんが遊びに来ましたので、鈴蘭お姉ちゃんを加えた三人で勉強会をしようと思います。よかったらしーちゃんも一緒にどうですか?』という、勉強会へのお誘いだった。


(御影さんが遊びに来るのって、初めてですよね? それに鈴蘭さんと勉強会ですか)


 正直どうしようか迷う。元々今日は勉強するつもりだったけど、一人でしていると病院で過ごしていた頃を思い出すので、あまり長時間はしたくない。いつも桔梗ちゃんを勉強に誘っているのはそのためだ。そして今回は御影さんも一緒で、さらに二年生主席の鈴蘭さんも同席している。


(テスト対策としては最高の環境だと思いますけど、どうしましょう?)


 普通に考えれば即決するほどの条件だけど、二の足を踏む理由が二つある。女子だけの勉強会に参加することに心理的な抵抗があることと、鈴蘭さんが同席してるときに雪片先輩から連絡があった場合、絶対面倒くさいことになることだ。


(仕方ないことですけど、雪片先輩は外出先を鈴蘭さんに教えていませんからね)


 サプライズパーティーのため、鈴蘭さんには内緒で友達と企画しているのだけど、当人からしてみれば彼氏と友達がこっそり会って何かしている風にしか思えないわけだ。つまり僕が勉強会に参加する場合、雪片先輩のことを隠し通さなければならない。


(悩みますけど、お断りしましょうか)


 考えること五分、結局断ることに決めた。誘ってくれた桔梗ちゃんには申し訳ないけど、ここで鈴蘭さんにバレるリスクを背負いたくないからだ。桔梗ちゃんから残念そうなメッセージが届いたので、断った理由を説明するとともに、今度があるなら是非参加すると約束しておいた。


(さてと、断ったのはいいですけど、一人で自習するのもどうかと思いますし、明日太を誘ってみますか)


 勉強会自体はいいアイデアだと思ったので、友人を誘ってみようと思う。駄目で元々、承諾が得られれば儲けものだ。明日太の番号を呼び出し、電話をかける。


「もしもし、私は冬木くんのクラスメートの桜庭詩恩というものなのですが、明日太様でしょうか?」

『......詩恩、そもそも携帯なんだから別のやつが取るわけ無いだろう。それで、こんな朝からどうしたんだ?』

「明日太さえよろしければ、今から僕と勉強会をしませんか?」

『構わないが、うちでは無理だぞ?』


 こうして明日太と通話している間も、電話の向こう側で男の子が騒いでいる声がする。大家族だと話していたので、彼の家で勉強会が無理なのは理解した。


「わかりました。でしたら僕の家か別の場所でしましょう」

『なら詩恩の家がいい。お前と二人で勉強しているところを誰かに見られたら誤解される』

「否定は出来ませんけど、そこまで警戒することですか?」

『前の休みに御影と図書館でテスト勉強してたのを他のクラスのやつに見られて噂になった、と言えば納得してくれるか?』


 僕からの質問に、明日太は大きなため息をついてから答えた。いつも普通に接しているから忘れがちだけど、御影さんはうちの学年でもトップクラスの美少女で、男女どちらからも人気のアイドル的存在なのだ。そんな彼女と二人きりで勉強していたとなると、噂になるのも当然だ。さらにその状況で、僕みたいな女子にしか見えない男子と二人きりで勉強していたら、最悪二股かけていると思われかねない。


「それは、お気の毒様です」

『わかったならいい。そういうわけだから、お前の家が一番安全なんだ。その辺には佐藤くらいしか住んでないしな』

「了解です。それはそれとして、どうして御影さんと二人きりで勉強することになったんですか?」


 御影さんは誰にでもフレンドリーだけど、自身の容姿を自覚しているため、誤解されるような迂闊な行動を取る方じゃない。にもかかわらず明日太と二人で勉強していた理由に興味があった。


『ああ。御影との雑談で、僕がいつも購買を利用する理由を聞かれたんだ。それで僕の家庭環境についての話に繋がって、外の方が集中出来るだろうと御影に誘われたんだ。説明に時間かかるから、図書館でたまたま一緒になったと他のやつには話したが』

「なるほど。彼女らしいですね」


 それなら図書館で勉強したらいいとアドバイスするだけでいいと思うけど、一緒になって勉強するあたり責任感の強さが伺える。もっともらしい釈明の理由も、恐らく御影さんが考えたものだろう。


『しかし、思っていた以上に噂が広まるのが早かったから、連休中は別行動すべきだという結論になった』

「御影さんの家では駄目だったんですか?」

『あのな、普通の男子は女子の家に行くことにそれなりに抵抗あるものなんだが?』

「あっ......そうですよね」


 明日太から呆れた声で指摘され、僕や僕の周囲の人物が少数派なのだと気付いた。


『まったく......話を戻すが、それで僕のことは気にするなと御影に伝えて、一人で図書館に行こうかと考えてたら、お前から電話がかかって来た』

「そうですか。グッドタイミングだったんですね」

『ああ。それで、持っていく物はノートと筆記用具だけでいいのか?』

「こちらで教科書などは準備するので大丈夫ですよ」


 誘ったのは僕の方だし、結構距離のあるところから来るのだから、必要なものはこっちで用意するべきだ。


『わかった。なら今から行く。場所がわからなかったらその都度電話するから、ナビを頼む』

「了解です」


 明日太との通話を終え、そういえば桔梗ちゃんの関係者以外の友人が来るのは初めてだと気付き、彼を迎えるための準備を進めたのだった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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