第四十九話 詩恩くん、友達に勉強を教える
中間テストの範囲が発表され二日が経過した。間もなくGWに入るためか、休み時間はほとんどの生徒がテスト対策のため勉強していた。成績別にグループ分けしたからか、うちのクラスでは個人で自習するよりも複数人で教え合うのが主流となっている。
「あの、しーちゃん。これで大丈夫ですか?」
「ええ。桔梗ちゃんは基本がしっかり出来ていますから、問題ありません」
「はぅぅ、ありがとうございます」
「詩恩、練習問題解いたぞ」
「ウチも終わったよ」
僕達も例外ではなく僕に桔梗ちゃん、それと明日太と御影さんという四人でグループを組んでいる。僕含め成績優秀者が三人いて、桔梗ちゃんも平均以上という歪な組み合わせだけど、ある理由から誰も文句を言って来ない。
(明日太と御影さんを自由にさせると、取り合いが起こるんですよね)
僕と違ってあの二人は教え方が上手なので、グループ分けのときに引っ張りだこになって割と揉めた。そのため、余っていた僕と桔梗ちゃんの組に誘って、基本的には僕達と勉強し必要ならその都度派遣するという方針を取ることで、全員を説得した。
(これなら明日太達の勉強時間も確保出来ますし、我ながらいいアイデアでしたね)
説得の決め手になったのは明日太達にも自分の勉強があるというひと言で、それを聞いたほぼ全員がばつが悪そうにしていた。頼りにしたいのはわかるけど、それで彼らが成績を落とすのはよくない。だからこうして二人に練習問題を解かせている。
「はい。二人とも全問正解です」
「このくらいなら、全然楽勝だよ。もっと難しくしてもいいよ」
「そうだな。次に用意する問題は、応用をもっと入れてくれると助かる」
「了解です」
解いてもらっている練習問題だけど、雪片先輩から借りた参考書に記載されている問題から出題している。応用問題もあったはずなので明日太達の要望にも応えられるはずだ。
「じゃあ僕達は他の連中に勉強教えてくる」
「ええ」
「桔梗ちゃん、わからないところがあったら桜庭くんに聞いてね?」
「その、わかりました」
明日太達がクラスメート達に教えている間、僕は参考書の問題を書き写し、彼ら用の練習問題を作った。問題文から書き写すことで、自分の中で問題に対しての理解が深まり、結果的に僕自身のためになるからだ。
「あの、どうしてもここがわからないんですけど」
「そこはこっちの数式で――」
ただし、桔梗ちゃんから質問が飛んで来たら問題を写す手を止め、出来るだけ丁寧に教えていた。桔梗ちゃんと一緒に勉強するのは元々約束していたし、彼女から来る質問は応用問題の解き方がほとんどなので、これもまた最終的には自分のためになる。
(桔梗ちゃんに教えるのはいいとして、鈴蘭さんの妹として最低限文句を言わせない点数って、大体どのくらいでしょうか?)
こういうのは大体鈴蘭さんと同じか越える点数でない限り、多かれ少なかれ言われるものだ。それでも最低限言われない数字となると、点数よりも順位で考えた方がいいかもしれない。そうなると、テストの結果が廊下に貼り出される上位三十位以内を目指すのが妥当か。
(桔梗ちゃんの入試の順位はその少し下でしたから、もうちょっと頑張ればいけそうですね)
確か桔梗ちゃんの入試の順位は三十五位だったので、努力次第でどうにでも出来る。さらに彼女は全体的に点数の開きが少ないので、満遍なくやっていけば大丈夫だ。その証拠に、練習問題の正答率が二日前よりも確実に上がっている。
「しーちゃんのおかげで、大分わかるようになってきました。やっぱりしーちゃんはすごいです」
「いえいえ、桔梗ちゃんが頑張ったからです。この調子でやっていきましょう」
「はい!」
「頑張ったご褒美に、撫でてあげますね」
「はぅぅ///」
ひとまず彼女の努力を労うつもりで、頭を撫でてあげる。撫でられた桔梗ちゃんは頬を染めつつ、嬉しそうな鳴き声を上げていた。そんな彼女が可愛くて、僕の口元も緩む。そうして撫で続けること三十秒、さすがに恥ずかしくなったのか、桔梗ちゃんはプルプルと首を振っていた。
「もういいんですか?」
「はぅぅ、教室では恥ずかしいです///」
顔は真っ赤だけど、目を見るともっと触れて欲しそうにしている。個人的にはもっと堪能したいけど、桔梗ちゃんの可愛い顔は誰彼構わず見せたくないので、泣く泣く手を下ろした。
「なら、続きは帰ってから、僕の部屋でもっとナデナデしてあげます」
「お、お願いします///」
どうせ放課後は鈴蘭さんの誕生日会の準備を一緒にするのだから、ついでに桔梗ちゃんを思う存分撫でようと考えている。
「いちゃついてるところ悪いが、早く練習問題の続きを渡してくれ」
「何だか二人を見てると、すっごく羨ましくなるね」
「わわっ!!」
「きゃぁぁっ!!」
勉強そっちのけでそんなことを考えていたため、いつの間にか戻ってきた明日太達が声をかけられ、僕と桔梗ちゃんは驚いてしまった。ちなみにこのやり取りは他のクラスメートにも聞かれていて、この日一日中新婚さんと言われる羽目になった。
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