表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/156

第四十八話 詩恩くん、クラスメートに順位がバレる

 四月の最終週に入り、天野先生から来月の予定が伝えられた。五月といえばGWだけど、それ以外の大きな行事が二つある。一つが来月下旬にある林間学校であり、そこで舗装されているとはいえ山道を数㎞は歩くことになるため、途中でリタイアしないよう体力を付けないとならない。


(桔梗ちゃんに格好悪いところは見せられませんからね)


 不可抗力ではあるものの、この間の体育の授業で桔梗ちゃんとほぼ同時に気絶してしまうという大失態を犯してしまったのだから。今度の林間学校ではせめて桔梗ちゃんをサポート出来るくらいにはなりたい。ただそちらはひと月近く後なので、じっくり考えればいい。問題はもう一つの行事で、そちらはGW明けにある中間テストだ。


(別に勉強は嫌いじゃないし得意な方ですけど、それでも休み明けのテストはキツいです)


 一応何日かの猶予はあるけど、それでも期間が短いとみんな文句を言っていた。もちろん僕も言いたいことはあったけど、文句を言われる側に立たされた天野先生がとても困っていたので、桔梗ちゃんや御影さん達と一緒に先生の擁護に回り何とか収拾を付けた。


(そのあと天野先生が言った、『不安な人はお休みに入るまでに頼りになる人を探してくださいね?』というアドバイスが無かったら、もっと文句が出ていたでしょうね)


 そのアドバイスのおかげで、テストが不安な人は成績がいい人に頼りやすくなり、逆に成績はいい人は力を貸しやすくなった。うちのクラスの中で優秀な人の代表格は御影さんと明日太の二人になるので、男子は明日太の、女子は御影さんの席に集まっていた。


「よし、せっかくだし赤点ゼロを目指そっか。みんな中学の成績と入試の採点結果を教えてくれるかな?」

「教えるにも僕達だけじゃ手が足りない。だから全員の成績を把握したい」


 我らがクラス委員である二人の考え方は似通っていて、まずはクラスメート全員の能力を把握し、その後お互いに教え合うやり方を取るようだ。ちなみに中間もしくは期末で赤点を取ると追試になり、そこで合格しないと夏休みが補習になるため、クラスメート達も二人に協力的だ。


(さてと、そろそろ僕も動きましょうか。さっきから桔梗ちゃんが僕をじっと見てますし)


 考えごとを中断して隣に視線を向けると桔梗ちゃんと目が合う。その視線に何となくだけど、頼りにしてますというメッセージが込められているように感じた。


「桔梗ちゃん、もしかしてテストが心配ですか? あなたなら今のままでも大丈夫だと思うんですけど」

「その、鈴蘭お姉ちゃんの妹として恥ずかしくない点数を取れるかどうかが心配で」


 桔梗ちゃんの入試の点数は全教科七十から七十五点だったし、授業態度も真面目な方なので普通にやれば問題ない。そんな彼女の気がかりは、優秀すぎる鈴蘭さんの妹として誰かから失望されるような点数を取ってしまうことで、裏返せば今に満足せず上を目指したいという向上心から来るものだった。


「わかりました。微力ながらお手伝いします」

「微力だなんて、しーちゃんがいれば百人力です」

「いえいえ」


 百人力になるかはわからないけど、出来る限りは手伝おうと思う。そんな風に考えていると、すでに結果を御影さんに伝えた中宮さんが、まだ行ってない僕達を気遣って声をかけてくる。


「あれっ、二人は行かなくていいの?」

「もうちょっと人が捌けてから行きます」

「そっか。桔梗ちゃんは?」

「私もです。今行くと埋もれそうですし」

「じゃあ私が連れて行くよ。そういうわけだから、桔梗ちゃん借りてくね」

「はぅぅ~」


 そう言うと中宮さんは桔梗ちゃんを引きずり、御影さんの席まで連れて行ってしまった。仕方ないので僕も成績と点数を紙に書いて、明日太のところに行き提出した。


「......なあ詩恩」

「何でしょう明日太? 協力しろと言うのなら、桔梗ちゃんに教えるついでに引き受けますけど」

「ついでなのか......まあ力を貸してくれるのならありがたい。差し当たってはテスト勉強の教材代わりにお前のノートを貸して貰う」

「了解です」


 僕にとっては桔梗ちゃんに教える方が優先度が高いので、ノートを貸すだけで力になるなら喜んで貸すつもりだ。どの教科から貸すべきか考えていたら、すぐ近くにいた杉山くんが明日太へ質問していた。


「なあ、どうして桜庭のノートが教材代わりなんだ?」

「それは詩恩がクラスの誰よりもノートのまとめ方が上手いからだ。学年次席は伊達じゃないというやつだ」

「「「えっ!? 桜庭くんって次席なの!?」」」

「そうですよ」


 僕の成績を知り、クラスのほとんどの人が驚きの声を上げた。桔梗ちゃんと明日太、御影さんの三人にしか言ってないから当然なのだけど。


「というか桜庭くんのノートって、どんな感じなの?」

「現国はこんな感じです」

「「「おお~」」」


 適当に現国のノートのページを広げて見せると妙に感心された。御影さんが一目で内容が頭に入ってくると称していたけど、どうも他の人も同じ印象を抱いたようだった。


「うわっ、わかりやす!」

「確かにこれは次席のノートだわ。これだけでテスト対策出来そう」

「よくこんなまとめ方出来るよね」

「その辺は入院してた頃に自分で見やすいよう試行錯誤した結果です」


 何しろ入院中は勉強と字の練習しかすることが無かったから。だけどこうして誰かの役に立てるのなら、ベッドの上で孤独に学んでいた時間も無駄じゃ無かったのかもしれない。そう考えながら、他の教科のノートもみんなに見せたのだった。

お読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ