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第三話 詩恩くん、桔梗ちゃんの姉に会う

前作のヒロイン、佐藤鈴蘭の登場です。

 桔梗ちゃんの家は二階建ての一軒家で、洗濯物を干す庭や物置もある。彼女曰く築三十年以上経っているとのことだが、掃除が行き届いているためか外観ではあまり古いとは感じなかった。


「何と言いますか、人の暖かみを感じる家ですね」

「そうですか?」

「はい。長い間、家族の生活を見守ってきた家って印象です。さてと、ここまで来れば、あとは一人で持てますよね?」

「あの、ありがとうございます」


 桔梗ちゃんの親の世代からある家に思いをはせながら、僕は桔梗ちゃんにお米が入った買い物袋を差し出した。空が茜に染まり始めているので、そろそろお別れの時間だ。


「それでは――」

「しーちゃん、もし晩ご飯まだでしたらご馳走したいんですけど」


 この場を離れ、繁華街に夕食を食べに行くつもりで別れを告げようとしたところ、桔梗ちゃんからタイミングよく、夕食についての提案をされた。


「まだ食べてませんけど、そこまでして貰うのは悪いですよ」

「いえいえ、せっかく再会出来たわけですし。それにしーちゃんなら、迷惑じゃないですよ」


 迷惑だと思い一度は遠慮したものの、桔梗ちゃんが意外と頑固で結局押し切られてしまい、彼女の家で夕飯を食べることとなった。案内されるま敷居をまたぎ、客間である和室に通される。


「それでは、お茶を淹れますのでちょっと待っててくださ――きゃぁぁっ!」

「桔梗ちゃん!?」


 お茶を淹れに和室から出ていこうとした桔梗ちゃんだったけど、まさかの何もない場所で躓いて転んでしまった。ひとまず助け起こすため傍まで駆け寄ると、恥ずかしそうに俯く桔梗ちゃん。


「大丈夫ですか?」

「はぅぅ、大丈夫ですけど......」

「けど? どこか痛いですか?」

「恥ずかしくて心が痛いです」


 それは僕にはどうしようもなかった。実は転んだときにスカートが思い切りめくれ、桔梗ちゃんが履いてるのが白ニーソじゃなくて白いタイツだとわかったのだけど、名誉のために黙っていようと思う。


「そういう冗談が言えるなら大丈夫ですね。立てますか?」

「はい......」


 僕に手を貸されて立つ桔梗ちゃん。立ち上がったときも特に足を痛がっている様子でもなさそうで安心した。


「気をつけてくださいね。転んで捻挫でもしたら大変ですし、そこで無理したら悪化するんですよ?」

「しーちゃん、なんだか実感こもってますね?」

「まあ、つい最近――」

「あれ、桔梗ちゃん帰ってたんだ。それにお客さんかな?」


 つい最近捻挫したと言おうとしたところ、廊下から少女の声が聞こえてきた。僕の記憶では桔梗ちゃんには一つ上のお姉さんがいたはず。現にその人の姿を見つけて桔梗ちゃんは顔をほころばせたので間違いないだろう。


「あっ、鈴蘭お姉ちゃん。ただいまです」

「お帰り、桔梗ちゃん。思ったより早かったね」

「その、お手伝いして貰いましたので」

「そうなんだ。ところでこの人はどなたさまかな? どこかで見た覚えがあるけど」


 鈴蘭と呼ばれた少女は桔梗ちゃんと二、三言会話したあとで興味深そうに僕の正面に立った。鈴蘭さんは桔梗ちゃんよりは身長は高いものの背が低く、さらに顔立ちも非常に整っているがどこか幼い印象を受け、一見すると同級生か年下に思えるような可愛らしい人だった。とはいえ桔梗ちゃんの姉には変わりないので、僕は鈴蘭さんに一礼して自己紹介した。


「桜庭詩恩と申します。桔梗ちゃんとはこちらにいた頃病院で知り合いました」

「ああっ、あなたがあのしーちゃんなんだね。桔梗ちゃんに手紙をいつも送ってくれてる。いつもありがとうね」


 鈴蘭さんは記憶力がいいのか、僕の名前と病院での話を少し聞いただけで即座に手紙の件と結びつけていた。内心驚きながら僕は首肯する。


「ええ。そのしーちゃんで間違いないですよ。桔梗ちゃんからの手紙はとても励みになりました」

「それはこっちの台詞だよ。桔梗ちゃんったら、詩恩さんからの手紙が来るのをすっごく楽しみにしててね」

「はぅぅ、鈴蘭お姉ちゃん!!」


 手紙を受け取ったときの反応を僕に知られるのが恥ずかしかったからか、桔梗ちゃんは真っ赤な顔で鈴蘭さんに抗議していた。もっとも抗議された鈴蘭さん本人は、楽しそうに笑っていたけど。


「まあ、桔梗ちゃんにお友達が出来てホッとしたよ。しかもこんなに綺麗で格好いい人だったなんて」

「私も久し振りにしーちゃんと会って驚きました。昔から綺麗な子でしたけど。しかもしーちゃん、雪片お兄ちゃんの隣のお部屋に住んでるんですよ」

「わっ、すごい偶然だね」

「それだけじゃなくて、高校もわたしと同じところに通うそうですよ?」

「本当!? だったら歓迎会開かないとだね! これからもよろしくって意味で」

「いいですね」

「あの、別にそこまで」


 目の前で繰り広げられる姉妹の微笑ましいやりとりにほっこりしていたのだけど、いつの間にやら話が大ごとになっていた。止めようと思い声をかけたものの、


「雪片くん達にはわたしから伝えておくから、桔梗ちゃんはとと様とかか様に電話しておいてね」

「わかりました。しーちゃん、ちょっとの間ここで寛いでいてくださいね」

「えっ? えぇっ!?」


 制止する間を挟ませること無く姉妹の間で話は進み、気付けば一人和室に取り残されてしまった。再会した幼馴染の家に招かれたかと思ったら、いきなり一人取り残されるという展開に着いていけず、僕はただ混乱していたのだった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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