第四十三話 桔梗ちゃん、鈴菜さんとガールズトークする
桔梗視点です。
しーちゃんのことを好きだと自覚して、昨日はあまり眠れませんでした。今朝も今朝でしーちゃんと一緒に登校すると思うと落ち着かず、何となく熱っぽさもあったので、鈴蘭お姉ちゃんが気を遣って別々の時間に登校して様子を見ようと提案してくださいました。
(そうしなかったら、きっと登校中にどきどきしすぎて、倒れちゃってました)
鈴蘭お姉ちゃんにも似たような経験があったからこその提案で、とても助かりました。そうして鈴蘭お姉ちゃんと一緒に登校し、教室に来るまではいつも通り過ごせていたのですが、しーちゃんのお顔を見た瞬間に動悸が激しくなり、もう駄目だと悟りました。正直に言いますと教室に入ってから今までの記憶がありません。
(何となく、鈴菜さんとお話しした記憶はあるのですけど)
何を話したのかはまったく思い出せません。そもそもどうして保健室で寝ていたのか、その理由すらわからないのですから。壁に掛けられた時計を見ると昼休みの時間になっていました。どうやら完全に熟睡していたみたいで、朝から感じていた眠気も、熱っぽさもすっかり無くなっていました。
(とりあえず教室に戻りませんと)
上半身を起こし、ベッドから出ようとしたのですが、ちょうど保健室のドアが開く音が聞こえたので、固まってしまいました。そんな私を見て、お見舞いに来た鈴菜さんが笑みを見せました。
「桔梗ちゃん、起きた?」
「鈴菜さん?」
「あー、やっぱり朝のことは覚えてないか。見るからにテンパってたもんね。それに熱もあったみたいだし」
「はぅぅ、ご迷惑とご心配をおかけしてすみません。熱は多分下がりました」
「別にそんなのいいって。体調が治ったならそれで充分だし」
例え私が覚えてなくても、こうして保健室に連れて来られたのなら、鈴菜さんやしーちゃんにご心配とご迷惑をおかけしたのは間違いありません。謝る私に、気にしていないと鈴菜さんは返しました。
「それよりも、落ち着いたならこうなった理由を話してくれるかな? 言えないなら伏せて貰ってもいいから」
「いえ、全部お話します」
昨日の夜から朝にかけてあったことを、私は包み隠さず鈴菜さんにお話しました。もちろん、しーちゃんに恋していると自覚したことも、出会ったときから男の子として好きなのだと気付いたことも含めて。すべてを聞いた鈴菜さんは、ゆっくりと頷きました。
「うん。話してくれてありがとう。それにしてもようやく自覚したんだね」
「あの、ようやくって」
「だって見ててバレバレだったんだよ。気付いてないのは本人達と一部の男子くらいで」
「はぅぅ!!」
まさかそこまでわかりやすかったのかと思うと、顔から火が出そうなくらい恥ずかしくなりました。
「でもさ、今どき珍しいくらいに恋してるって伝わってきて、見てて癒されたよ。ウチも桔梗ちゃんみたいな恋をしたいなって思ったから」
「あの、鈴菜さんはお綺麗ですし、いつでも出来ると思いますけど」
「まあ確かに可愛い自覚はあるし何度も告白された経験はあるけど、だからって素敵な恋が出来るかどうかは別問題なんだよ」
それはそうかもしれません。好きになった相手と素敵な恋が出来るかなんて、誰にもわかりませんし。
「その、参考までに鈴菜さんの好きなタイプっていたりするんですか?」
「堅実で誰かの支えになれる人かな? ウチって中学のとき生徒会長してたんだけど、副会長の子がそんな感じだったんだ。まあその子は女の子だけどね」
「そうなんですか」
とても意外なお話を聞けました。鈴菜さんが生徒会長だったことはらしいと思いますけど、縁の下の力持ちみたいな人が好みだなんて。
「うん。でもそういうタイプの男子って、女子には奥手だしウチとはあんまり縁がなくってさ」
鈴菜さんはそう仰いますけど、堅実で誰かを支えることが出来る男子とは、もう知り合っていると思います。
「あの、その条件なら冬木くんが当てはまると思うんですけど」
「うえぇ!? た、確かに冬木くんは条件に当てはまるというか、話せば話すほど好みって思うけど......って、ウチのことはどうでもいいから! 今は桔梗ちゃんの話だよね!?」
冬木くんの名前を出され、真っ赤になりながら満更でもなさそうな様子の鈴菜さん。もっとお話を聞いてみたいと思いましたけど、それはまたの機会になりそうです。
「まったくもう。とりあえず話戻すけど、そんな素敵な恋がどうなるか見ていたいから、ウチも含めて桔梗ちゃんと桜庭くんの関係には誰も手を出さないことにしたんだ」
「その、お気持ちはわかります」
「ただその、今朝みたいなことがまたあったらよくないから、一つだけアドバイスするよ。桜庭くんが恋を知るまでの間は、出来るだけこれまで通りの関係でいること」
鈴菜さんから出された助言は、今の私にとってはすごく難しいものでした。眠って大分落ち着きましたけど、それでもしーちゃんのことを考えるとどきどきしてお顔が赤くなるのは変わらないのですから。
「はぅぅ、難しいです」
「さすがに今すぐやれとは言わないけど、せめて今日中には普通に話が出来るように頑張らないと。今のままだと避けられちゃうよ?」
「......しーちゃんに、避けられる。そ、そんなのは嫌です!!」
しーちゃんに避けられると考えただけで、血の気が引いていくのがわかりました。しーちゃんを好きな気持ちと嫌われたくないという気持ち、同じものですけど心と体に与える影響はまったくの逆で、まるでアクセルとブレーキみたいでした。
「だから、難しいと思うけどどうにか自分の気持ちを隠しながら頑張って。桜庭くんの方も、これまで以上に桔梗ちゃんのこと気にかけてくれると思うから」
「そうでしょうか?」
「大丈夫、そこは保証するよ。休み時間の度保健室に来てたんだけど、教室に戻ったウチに桔梗ちゃんの様子をしつこいくらい聞いてきたから。だから、桔梗ちゃんはいつもの桔梗ちゃんに戻って、桜庭くんの傍にいてあげないと」
私のことを心配するしーちゃんを想像し、胸の中がぽわぽわと暖かくなりました。もしも私がいないとしーちゃんが不安に思うのでしたら、ずっと傍にいようと思います。
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