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第三十九話 詩恩くん、雪片くんの誕生日を祝う

 佐藤家を訪れた僕は同行していた雪片先輩に、先に中に入るよう促しつつドアを開けた。雪片先輩が玄関に足を踏み入れた瞬間クラッカーが鳴らされ、


「「「「雪片くん(雪片お兄ちゃん)(雪片)(ユキ)、お誕生日おめでとうございます!!」」」」


 鈴蘭さんをはじめとした数名の男女が、雪片先輩に向け祝福の言葉を発した。祝われた雪片先輩は目頭を押さえ天を仰いでいて、そんな彼を僕も祝った。


「おめでとうございます、雪片先輩」

「......ああ」

「雪片くん、感動するのはまだ早いよ。まだお誕生日会はこれからなんだから。ほら、こっちだよ」


 鈴蘭さんに手を引かれ、廊下を歩く雪片先輩。僕達もそのあとをついて行く。誕生会の会場はダイニングで、部屋中が飾り付けられていた。壁には横断幕が掲げられていて、千島雪片生誕記念とデカデカと毛筆体で書かれてある。


「すごいな......これ、お前らが準備したのか?」

「うん。飾り付けはとと様達も協力してくれたんだ。それと横断幕の字は詩恩さんが書いてくれたんだよ」

「これ印刷じゃなかったのか。まるで習字の手本みたいだ」

「お褒めにあずかり光栄です」


 この間買った筆を使い久し振りにやってみて、どうにか満足のいくものが仕上がった。その出来映えを雪片先輩本人から絶賛され、僕はホッと胸を撫で下ろす。


「本当に上手いよな。そういや部活の勧誘期間が始まってるが、詩恩は書道部には入る気はないのか?」

「無いですね。一人暮らしですから、部活で帰りが遅くなるのは嫌ですし」


 何らかの事情により、今後雪片先輩や桐矢さんみたいにバイトする可能性もあり得るので、なるべく放課後は時間を空けておきたい。それに部活に所属すると、部内の人間関係に気を遣わないとならないのでそんなことで悩みたくないから、入りたくないという理由もあったりする。


「そうか。お前がそれでいいなら構わないが」

「雪片先輩、僕のことはどうでもいいですから、お誕生日を楽しんでください。そうそう、僕の友達の明日太もおめでとうって言ってましたよ?」

「鈴菜さんも、お祝いしてました」

「ああ。アイツらか。一度会っただけの先輩の誕生日を祝うなんて、義理堅いやつらだな」


 そう口にした雪片先輩は、かなり嬉しそうだった。誰のことか聞き返さずすぐに思い当たる辺り、雪片先輩も人のことは言えないと思う。


「ほらほら、話してたらいつまでも進まないわよ?」

「話はあとでも出来る」

「そうだな。お前らも席に着け」

「「わかりました」」

「じゃあ、改めて雪片くんのお誕生日会を始めようか」


 全員が席に着いてから、鈴蘭さんがそう宣言する。テーブルには軽食が並び、中心にはケーキが鎮座し雪片先輩の年齢と同じ十七本の蝋燭が刺さっていた。


「今から火を付けるから、歌が終わったら吹き消してね」

「「歌?」」


 誕生会に疎い僕と雪片先輩の声が重なった。どうやらケーキに刺さった蝋燭に火を付けると共に、バースデーソングをみんなで歌い、歌が終わったら誕生日の人が蝋燭の火を吹き消すのが基本的な流れらしい。歌うバースデーソングについても、何となくだが聞き覚えのある歌だった。


「わかってるなら話が早いわ」

「じゃあ、おれが火を付ける。ランやキキちゃんにさせるのは危ないから」

「「はぅぅ......」」


 揃って呻く佐藤姉妹。桔梗ちゃんはもちろんだけど、鈴蘭さんも割とドジっ娘だから仕方ない。桐矢さんがすべての蝋燭に火を付けたのを確認し、僕と雛菊さんはカーテンを閉めた。薄暗い部屋の中で、鈴蘭さんと桔梗ちゃんが息を合わせて手拍子を打ち、それに合わせてみんなで歌った。


「ハッピーバースデートゥーユー、ハッピーバースデートゥーユー、ハッピーバースデーディア雪片くん(雪片先輩)(雪片お兄ちゃん)(雪片)(ユキ)、ハッピーバースデートゥーユー」


 歌が終わると同時に、雪片先輩は蝋燭の火をひと息で吹き消した。火が消えたので明かりをつけ、カーテンを開いた。


「じゃあケーキを切り分けるから、テーブルから離れてね」

「わかったわ。その間、雪片にアタシ達からのプレゼントを渡すわね」

「ちなみにランはあとで渡すから、楽しみにしてて」

「ああ」

「僕はもう渡してますので、皆さんどうぞ」

「でしたら私から。雪片お兄ちゃん、私からはお鍋です」

「奇遇ね。アタシは丈夫なまな板よ」

「おれからはダンベル。ユキの将来の目標を考えれば、絶対役立つ」


 次々に雪片先輩へとプレゼントを渡していくが、僕から見ても誕生日プレゼントらしくない、実用的な贈り物ばかりだった。


「お前ら、ありがたいが実用的過ぎないか?」

「だって、ねえ?」

「そういうのはランが渡す」

「しーちゃんは何をお渡しになったんですか?」

「携帯用の担架です」

「「うわぁ......」」


 何故だか雛菊さんと桐矢さんから引かれてしまった。確かに実用的ではあるけれど、あからさまに浮いている気がする。


「まあ気持ちは嬉しいし、しっかりと役立てるつもりだ」

「ならいいけど」

「ケーキ切り分けられたけど、みんなどうしたの?」

「何でもない。それよりこのケーキってもしかして」

「うん。わたしが丹精込めて、雪片くんの好みに合わせて作ったんだ。みんなも食べてよ」


 鈴蘭さんから勧められ、まずは雪片先輩がケーキを一口食べた。


「美味い」

「甘さ控えめですね」

「前より腕上げてるわね」

「これなら、バイト先で出ててもおかしくない」

「さすが鈴蘭お姉ちゃんです」

「みんな、ありがとう」


 そうして雪片先輩の誕生会は進んでいった。ちなみに鈴蘭さんから雪片先輩に贈られたのは、季節外れとなる手編みのセーターだった。バイト先の防寒用として用意したそうで、鈴蘭さんからの贈り物も実用的なもので雪片先輩は苦笑いを浮かべていた。

お読みいただき、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言]  読ませていただきました。 誕生会かあ〜。 懐かしいですね···こちとら小学生以来やったことがない(笑)。 好きな人、気のあう友人、後輩に祝ってくれることは、なによりだと思います。 硬派…
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