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第三十六話 詩恩くん、鈴蘭さんの幼馴染と出会う

 友達作りに奔走した一週間が終わり、高校に入学してから最初の休日を迎えた。いつも通りの時間に起きた僕は朝食を食べている途中、あることを思い出す。


(外階段と駐車場の掃除をしないとですね)


 本来ならこういった仕事は大家さんや大家さん代理の土橋さんの役割なのだけど、大家さんは高齢で、土橋さんは資格試験の勉強で忙しい。なので男三人で話し合った結果、しばらくは三人の当番制で掃除をすることになった。そして今日の当番は僕だった。


(さてと、早いとこ終わらせるとしますか)


 食事と自分の部屋の掃除を終えた僕は、外に出て箒とちり取り、それと雑巾を準備した。あまりもたもたしていると桔梗ちゃんが来たときや雪片先輩達が外出したりするときに邪魔になる。


 まずは外階段だけど、手すりの拭き掃除と階段の掃き掃除とやることも少なかったのですぐに終わった。次に駐車場だけど、昨日の帰りに見たときには無かったはずの葉っぱや紙くずなどが散乱していて、とてもじゃないけど見るに堪えない状況だった。


(これは酷いですね。恐らくは昨夜吹いてた強風で飛んできたのでしょうけど)


 昨日の夜はかなり強い風が吹いていたことから推測し、自然現象だから仕方ないと結論付ける。何にしても放置は出来ないのでまず比較的大きな紙くずを拾い集め、次に落ち葉などの小さなものを掃き集め、最後にゴミ袋に纏め駐車場の端に寄せておいた。


「ねえ、もしかしてこのアパートの新入り?」


 ひと仕事終えて部屋に戻ろうとしたところ、背後から声をかけられる。声の感じから若い女の人で、振り返ると気の強そうな少女とミステリアスな雰囲気の少年が立っていた。どちらも非常に顔立ちが整っていて、少年の方は大きな鞄を抱えていた。


「そうですけど、何かご用ですか?」

「ちょっとね。雪片に用事があって来たんだけど、今いるかわかる?」

「外に出た様子も無いので、いると思いますよ」

「そう。教えてくれてありがとう。無駄足にならないで済んだわね、桐矢」

「よかった。それじゃあ行こうか、ヒナ」


 二人は僕にお礼を告げると、アパートの外階段を上っていった。見た感じ雪片先輩の知り合いでかなり親しそうだったけど、タイプが違いすぎて彼と二人が親しくしているイメージが湧かなかった。


(どちらかというと、鈴蘭さんの友達っぽい気がします)


 何となくだけど、そっちの方がしっくりくる。どちらにしても二人の知り合いならそのうち話す機会も来るだろう。そう考えながら掃除用具を片付け、部屋に戻ろうとして先ほどの少女とすれ違う。


「もうお帰りですか?」

「ええ。アタシは鈴蘭の家に遊びに行くついでに、桐矢の用事に付き合っただけだから」

「鈴蘭さんともお知り合いなんですね」

「そういうアンタも、鈴蘭を名前で呼ぶくらい親しいじゃない。名前聞かせてくれない?」

「桜庭詩恩です」

「いい名前ね。アタシは有磯雛菊。さっきのが従弟の有磯桐矢よ。名字で呼ばれると紛らわしいから出来れば名前でお願いね」


 二人の名前を聞いて、僕と同じ名字を持つ従兄の久遠兄さんのことを思い出し、少し親近感が湧いてきた。そうして話しているうちに、場所を移そうということになり、僕と雛菊さんは佐藤家に移動した。


「邪魔するわよ」

「お邪魔します」

「雛菊さんと、詩恩さん? 二人ともどこで知り合ったの?」


 玄関で出迎えたのは鈴蘭さんで、初めて見る組み合わせに目を白黒させていた。


「たまたま雪片のアパートに行ったときにね。可愛い後輩が出来たじゃないの」

「うん」

「はぅぅ、しーちゃんと雛菊さんが一緒にいます」

「おはようございます、桔梗ちゃん」

「んっ? しーちゃん?」


 鈴蘭さんに遅れること十数秒、玄関にやって来た桔梗ちゃんは姉とまったく同じリアクションをした。ただ違う点があるとすれば、雛菊さんの反応だ。


「珍しいわね。桔梗が誰かをあだ名で呼ぶなんて。しかも『しーちゃん』なんて......ねえ鈴蘭、詩恩ってもしかして『あの』しーちゃんなの?」


 しみじみと呟いたあとで、何かに気付いたように目を見開いて、鈴蘭さんへと尋ねる雛菊さん。


「そうだよ。わたしも初めて会ったときは驚いたよ」

「ふーん。よかったわね桔梗」

「はぅぅ」

「あの、ちょっと待ってください」

「何よ?」

「どうして雛菊さんがしーちゃんってあだ名を知ってるんですか?」

「それは、アタシと桐矢が鈴蘭と桔梗の幼馴染だからよ。もっとも、桔梗と知り合ったのは鈴蘭よりもずっと後だけど」


 鈴蘭さんの幼馴染と聞いて、真っ先に思い出したのは親睦会で語られた内容だ。確か親しくしていたのにあらぬ噂を流され、結果疎遠になってしまったらしいけど。


「えっと、疎遠になったって聞きましたけど」

「なったわよ。昔に比べたら。それに別々の高校に進学して、半年以上お互いに連絡取らなかったんだから、関係が切れてた可能性もあったわ」

「......それでよく仲直りしましたね?」

「雪片と桔梗のおかげよ」

「雪片先輩と、桔梗ちゃんの?」


 共通の知り合いなのだから名前が出てもおかしくなかったが、人付き合いが苦手な二人が誰かの仲を取り持つのが意外に思えた。


「ええ。雪片がいたから鈴蘭は一歩を踏み出せて、桔梗がいたからアタシ達の関係は完全には切れなかったのよ」

「そうだったんですか。お手柄ですね、桔梗ちゃん」

「はぅぅ、ありがとうございます///」


 頭を撫でられた桔梗ちゃんは真っ赤になって照れていた。そんな彼女を見て僕も幸せな気持ちになってくる。


「桔梗から何度か話を聞いたことがあったけど、本当に美少女よね」

「あの、僕は男ですよ?」

「はっ? 男?」

「はい。しーちゃんは男の方です」


 僕が男だと知り、雛菊さんは鳩が豆鉄砲食らったような顔をしていた。ただクラスメートと比べ驚きが少ないのは、前例となる人物を知っているからだろう。


「......彩芽さんみたいな子がもう一人いるなんて思わなかったわ。というか桔梗、アンタ詩恩が男でも普通に接してるわよね?」

「それはその、最初は戸惑いましたけど、しーちゃんですから」

「そのひと言で片付けるのもどうなのよ」

「ところで雛菊さん、遊びに来たんだよね?」

「ええ。せっかくだし詩恩も入れて四人で遊びましょう?」


 そうして僕は佐藤家で女子三人に囲まれ、昼まで過ごすこととなった。なお遊びの間に雪片先輩の誕生日についての話もされ、僕は大事な役目を担うこととなったのだった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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