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第三十四話 詩恩くん、女子に遊ばれる

 僕のクラスの身体測定だけど、途中から僕一人だけ隔離された状態で行われた。内科検診など服を脱がなければならなかったから無理もないけど。


(結果は今年も変わらず、経過観察なのでしょうね)


 術後数年が経っていて日常生活を送れるくらいには健康だが、それでも数ヶ月に一度は病院で検査を受けなければならない。ただ今年は桔梗ちゃんもいるので、一人で行くことにはならないはずだ。


(まあそこはいいでしょう。それより問題は今のこの状況ですね)


 今は身体測定が終わった休み時間で、僕と桔梗ちゃんはそれぞれ別の女子グループに囲まれ、話も出来ない状態だ。どうも僕達の体重や腰回りの数字に興味があるからだそうだけど、桔梗ちゃんはともかく僕のサイズを知ってどうするのだろうか。


「ねえねえ桜庭くん。スリーサイズいくつ?」

「男子は測ってないのでわかりません。胸囲と腹囲はこんな感じでしたけど」


 質問してきた中宮さんに結果を紙に書き出して見せたところ、彼女はその数字を見て目を点にしていた。若干引いているようにも見えるのは気のせいじゃないと思う。


「えっ、これ細すぎない?」

「そうですか? まあ僕の体格が女子に近いのは事実ですけど」

「近いって言うか、そのものだよこれ」


 スレンダー系女子の中宮さんに僕の体型が女子そのものと断言されちょっとだけヘコんだ。そんな僕のことはお構いなしに、取り囲んでいた女子達が紙に書かれた数字を見て盛り上がっている。


「ちょっと見せて――うわ、ほんとに女子の数字じゃん」

「うっそ、あたしとあんまり変わらないわよ」

「桜庭くん、これで男子の服合うの?」

「トップスはいいんですけど、ボトムスがちょっと」


 ちょっとクールな長身女子、山野さんからの質問に回答した。服選びのときにいつも悩むのだけど、ウエストに合わせるとお尻がキツいし、逆にお尻に合わせるとウエストがブカブカになるのだ。


「ボトムスね。ちょっと見てもいい?」

「いいですよ。こんな感じです」

「「おお~」」


 制服の裾をたくし上げ、腰回りを中宮さん達に見せた。大きめのサイズを無理矢理ベルトで締め付けて穿いているため、彼女達はベルト周りのシワに着目していた。


「これ、絶対残るシワだよ。ちゃんと脱いだあとにアイロンかけないと」

「明らかにベルト抜いたらずり落ちそうよね。他の服でもそうなの?」

「ええ」

「思ったんだけど、桜庭くんはサイズ的にメンズよりレディースの方が合うんじゃない?」

「うっ!!」


 山野さんのひと言が、グサリと胸に突き刺さった。自分でも薄々そうじゃないかとは思ってたけど、改めて指摘されると辛いものがある。とはいえ女子の服を着てしまうと、自分の中の一線を越え元に戻れない気がしてならないため、やんわりと否定しておく。


「お気遣いはありがたいですが、遠慮しておきます」

「えっー、似合うと思うのに」

「別にスカート穿いてって言ってるわけじゃないんだけど、それでも駄目?」

「ええ。少なくとも今のところは」

「そっか」


 彩芽さんみたいに、自分が何を着ても男であるという確固たる信念を持てないうちは、たとえ不自由であっても女性ものの服を着るわけにはいかない。逆に自分は男だという確固たる信念を持てたのなら、普通に女物だろうが着るようになると思うけど。


「さっきから気になってた」


 話題が途切れてもう解散になりそうな流れだったが、ふとこれまで黙っていた小柄で表情少ない女子、岡添さんが僕の顔や腕を見ながらボソリと呟いた。


「岡添ちゃん、何かな?」

「桜庭くん、肌綺麗で手にも無駄毛無い。ズルい」

「「確かに!」」


 元々そういう体質だからズルいと言われても困る。中宮さんや山野さんが同意しているところをみると、無駄毛と肌は女子共通の悩みのようだ。その割には桔梗ちゃんをはじめ佐藤家の女子から一度も言及されなかったけど。


「体質だとしたら、もしかしてすね毛も生えてないんじゃないかな?」

「いくらなんでも、男子でそれは無いんじゃない?」

「......」


 話し合う中宮さん達に、僕は無言を貫いた。正直に言うとそっちも生えてないからだ。だからなのか、体操服に着替えて教室に戻ったら、男子一同からハーフパンツから覗く生足がヤバいと言われ、ジャージを穿くように懇願されてしまう珍事が起きた。


(クラスメートに性癖を歪ませられそうだから穿いてくれと頼まれたら、そうするしかないですよね)


 いくらなんでもクラスメートを変な道に導きたくない。ちなみに桔梗ちゃんに送った体操服姿の写真ではジャージを穿いておらず、それを見た彼女から送られてきた感想が『すごくお綺麗でした』だった。何だかすごく複雑だ。


「だんまりってことは、生えてないんだね?」

「ノーコメントです」

「じゃあズボン捲るけどいいかな?」

「勘弁してください」


 ジリジリと詰め寄る彼女達に、言葉で抵抗を試みるも効果は無い。この様子を見た一部の男子から怨みがましい視線を向けられたり、モテモテだと揶揄される。


(代われるものなら代わって欲しいですよ、もう)


 心の中で彼らに文句を付けるが、その隙をつかれ中宮さん達に僕のズボンを捲られてしまい、強制的にすね毛の有無を確かめられた。


「ほんとに生えてないし」

「脚綺麗よね」

「触ってあやかりたい」

「ちょっ、く、くすぐったいです!!」


 結局この休み時間の間、僕はずっと女子数名から弄ばれることとなったのだった。なお、中宮さん達はあとで御影さんにお説教されたそうだ。

お読みいただき、ありがとうございます。

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