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第三十二話 詩恩くん、四人で登校する

 翌日、僕は朝起きて身支度をして部屋を出て、隣の部屋のインターホンを押した。ドア越しに雪片先輩から「すぐ出るから下で待っていろ」と言われたため、階段を下りていく。一階の駐車場に下りると土橋さんが掃き掃除していたので挨拶する。


「おはようございます、土橋さん。朝から大変ですね」

「桜庭さん、おはよう。このくらい慣れてるから平気よ。今日も桔梗ちゃんを誘うの?」

「ええ。ただ今日は雪片先輩達と四人で登校するつもりです」

「そうなの。仲良くしてるようで安心したわ」


 土橋さんとしばらく世間話をして、下りてきた雪片先輩と合流しアパートを出る。雪片先輩は僕の歩くペースに合わせて歩いていて、彼女である鈴蘭さんへの自然な気遣いが垣間見えた。


「着いたぞ。それで、どっちがアイツらを呼ぶ?」

「誘ったのは僕達ですし、僕が呼びます」


 佐藤家の呼び鈴を鳴らし、二人に時間だからと声をかける。三十秒ほどで姉妹が手を繋いでドアを開けて出て来たので、四人で出発した。


「こうして姉妹で登校するのって、一年ぶりだよね」

「そうですね。中学校は全然別の方向でしたから、寂しかったです」

「わたしも寂しかったよ。雪片くんと知り合ったのは十月だから、半年間一人で登校してたし」

「えっ? お二人とも知り合って半年でお付き合いしてるんですか?」

「そうだよ。もっとも、付き合い始めたのは十二月の頭だから、会ってから二ヶ月くらいだけど」

「ついでに言うならクラスも別だ」

「そうだったんですね」


 意外だった。二人の仲の良さから考えて、もっと前に知り合っていると勝手に思っていた。だとしたらどうやって知り合ったのだろうか。


「お二人の出会いってどうだったんですか?」

「ああ、それはその、コイツが繁華街でナンパされてたのを助けたのがきっかけだ」

「ドラマチックですね!」

「そのあとお礼にご飯をご馳走したんだけど、近所に住んでることがわかって、それから話すようになったんだよ」

「そうなんですか。そうすると桔梗ちゃんと知り合ったのも?」

「鈴蘭と会った初日だ。俺はボッチだったし、桔梗も怯えてたしで会話にならなかったが」


 話を聞いていて、何となくだがその光景が思い浮かんだ。そんな二人の仲を鈴蘭さんが取り持つところまで含め。


「正直今でも桔梗とは二人きりだと会話が続かない。だから詩恩が来てくれて俺も助かってる」

「当初の予定では三人で登校することになってたからね。わたしも雪片くんと桔梗ちゃんの、どっちとお話しするか悩んでたから助かるよ」

「お二人の役に立ててよかったです。その、桔梗ちゃんは四人で登校するの、どうですか?」


 昨日一日、桔梗ちゃんとどうして一緒にいたいのかという問題を悩み続け、答えが出ないまま今に至るため、少々話しかけるのを躊躇ってしまった。


「はぅぅ!? あの、その、いいと思います!」

「そ、そうですか! よかったです!」

「二人とも初々しいね」

「だな。まあ大いに悩め」


 僕に話しかけられた桔梗ちゃんはとても驚いた様子で、真っ赤になりつつ返事をする。そんな彼女に僕もついつられてしまい、頬が熱くなるのを感じた。そしてその一連の流れを傍で見ていた鈴蘭さん達から、何だか生温かい視線を向けられ、ますます恥ずかしくなった。


 それからしばらくの間、照れてしまった僕と桔梗ちゃんはひと言も話さず歩いていたが、見かねた鈴蘭さんが話題を振ってきた。


「それはそうと、二人の友達ってどんな人かな?」

「どんな人って言われましても、冬木くんは真面目すぎるくらい真面目な男の子って感じでしたね」

「はぅぅ、鈴菜さんは、明るくてみんなのまとめ役です」

「そっか。会うのが楽しみになってきたよ」

「俺としては、後輩が俺を見て萎縮しないか心配なんだが」


 確かに雪片先輩は大柄で筋肉質なので、見た人に威圧感を与えてしまう可能性はある。僕も初対面がああでなければ、気軽に話しかけられていない。


「最初は多分そうなるでしょうけど、きっとすぐに慣れますよ。鈴蘭さんの彼氏だと言えば、優しい人だとわかりますし」

「ねえ詩恩さん、どうしてわたしの彼氏だと優しい人ってわかるのかな?」

「失礼を承知で言いますと、鈴蘭さんや桔梗ちゃんみたいな子供みたいな見た目の子に懐かれている人は、悪い人に見えませんから」


 なるべく失礼にならないよう言葉を選ぼうと考えたが、そもそも理由自体が失礼にしかならないので、遠慮せずストレートに伝えた。当然それを聞いた鈴蘭さんも桔梗ちゃんも頬を膨らませて抗議してくる。


「うん、言いたいことはわかるけど本当に失礼だね」

「はぅぅ、しーちゃんひどいです」

「すみません。どう伝えても失礼だったのでつい」

「まあいいけど。雪片くんのイメージアップに繋がるなら」


 鈴蘭さんはあっさり許してくれた。問題は理不尽に流れ弾が当たった桔梗ちゃんで、涙目になっていた。完全に僕が悪いので登校中ずっと謝り続けたところ、体操服を着た写真を自撮りして送ってくれたら許すと言ってくれた。幸い今日は身体測定なので普通に着るつもりだけど、どうしてそんなものを欲しがったのだろうか。

お読みいただき、ありがとうございます。

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