第三十一話 詩恩くん、桔梗ちゃんのことで悩む
連載再開です。
桔梗ちゃんに友達が出来た祝いと、親睦会を兼ねた集まりに参加し、そこで改めて桔梗ちゃんの家族と会話することとなった。雪片先輩や鈴蘭さんはともかく、桔梗ちゃんのご両親とじっくり話したのは、こちらに来た初日に開かれた歓迎会以来だった。
(彩芽さんには元々親近感を覚えてましたけど、思った以上に話が合いましたね)
桔梗ちゃんの父親の彩芽さんは、僕と同じで女性にしか思えない見た目を持っている。そのため体格の関係で着られる服が少ないことや外出先でトイレに行けないことなど、日常の苦労話をして二人で盛り上がった。聞いていた人達はみんなポカンとした顔をしていたけど、こればかりは共感出来る方が少数なので仕方ない。
(これからはちょくちょく話を聞きに行きたいですね)
男に見えない男という立ち位置でありながらまともに社会に出て働いているのだから、将来についてなどいくらでも役に立つ話は聞けるだろう。彩芽さんの方もキャラ被りしている僕には愚痴も言いやすいと思うし。
(キャラ被りといえば、楓さんは見た目以外も桔梗ちゃんと似てましたね)
正確には娘の桔梗ちゃんが、母親である楓さんに似ていると表すべきなのだけど。ともあれ彼女と似通っている楓さんとは、彩芽さんと別な意味で話しやすかった。あちらも彩芽さんと僕が同じタイプだからか、積極的に話題を振ってきた。
(話題のほとんどが桔梗ちゃんのことなのはご愛敬ですけど、おかげで面白い話が聞けました)
僕がこっちに来るまでの桔梗ちゃんはほとんど外出しなかったとか、実は同い年の頃の楓さんより桔梗ちゃんの方が積極的とか、本人から聞けない内容を聞けた。そのため僕と楓さんが話している間、桔梗ちゃんはいたたまれない様子だった。しかしそのくらいは受け入れて欲しいと思う。
(桔梗ちゃん、母さんから僕の写真とかいろいろ受け取ってますからね)
母さんが言うには、黒歴史的な写真は送ってないとのことだけど、それでも過去の写真を見られるのは気恥ずかしい。なので楓さんに桔梗ちゃんのアルバムを所望し、彼女の目の前で解説して貰った。桔梗ちゃんも恥じらってはいたものの、文句は言わなかった。
(写真を見られて恥じらう桔梗ちゃん、可愛かったですね)
もちろん、写真に収められていた頃の桔梗ちゃんも思い出の何倍も可愛かったのだけど、目の前で感情豊かに反応する彼女には及ばない。それと同時に、もしも僕が転院せずこちらに留まっていたら成長していく桔梗ちゃんを傍で見られたのにと、少し残念に思う。
(......もしもの話をしても仕方ありませんけどね)
それを言い出したら、昔の僕が住んでいた家にそのまま住み続けることになるわけで、しかもここからは遠い場所に建っていて、こうして桔梗ちゃんと毎日のように会ったり、手料理をご馳走になったりするなんてあり得ないという結論になる。
(そんな絵空事を考えるより、鈴蘭さん達から言われたことを気にしませんと)
お祝いの前に鈴蘭さん達から言われた言葉が頭の中に残っている。付き合っても無い男女が一緒にいるのは不自然なことも、ずっと今の関係のままではいられないことも、全面的に正しいとわかっている。
(今のところ僕も桔梗ちゃんも、子供の頃のままの関係でいたいだけなんですけどね)
離れ離れになった期間が何年もあった分、再会してからはそれを取り戻すくらい一緒にいたいというのが僕と桔梗ちゃんの共通認識だ。だからこそ僕は子供の頃の距離感のままで桔梗ちゃんに接し、桔梗ちゃんも同じようにしてこれまで過ごしてきた。
(これまでは僕と桔梗ちゃんだけの問題だったから、お二人とも何も言わなかったんでしょうね)
もしも交際していない二人が一緒にいることが不自然だと言うのなら、とっくの昔に止めていただろう。雪片先輩は僕の隣の部屋に住んでいるし、鈴蘭さんは桔梗ちゃんと一つ屋根の下で暮らしているのだから、止めようと思えばいつでも出来た。ということはこれまではずっと僕達のことを黙認してきたことになる。
(つまりこれからも桔梗ちゃんと一緒にいるつもりなら、いつまでも子供の頃のままでは、幼馴染のままではいられないってことですよね)
幼馴染という言葉の持つ意味合いは知り合い以上恋人未満という、とても広い範囲をカバーしている。とても便利な言葉で、僕達の関係を説明するのにも大体これだけで済む。だけどこの言葉は、大人になってからは旧友という使われ方へと変化してしまう。
(本当に、今の僕達に似つかわしい言葉ですよね)
いつまでも子供のままでいたい僕達の甘えを、幼馴染という言葉の意味の広大さで包み込んでいるように思えてくる。ならば、幼馴染という言葉の意味が変化する前に、その甘えを断ち切らなければならない。
(だとするなら遠くないうちに、どうして僕が桔梗ちゃんと一緒にいたいのか、ハッキリしないといけませんね)
ここに来て桔梗ちゃんと会うまでは、会って恩返しをしたいと考えていた。再会してからは離れていた時間を取り戻したいと思っていた。ならこれからはどういった理由で傍にいたいのか、今のところ悩んでも答えが出ず、一日を終えたのだった。
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