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第二十九話 詩恩くん、友達と下校する

 本日の授業が終わり放課後となった。初日から六限まであったためか、授業が終わった直後のクラスメートのほとんどが疲れている様子だった。もちろん僕や桔梗ちゃんも例外ではなく、揃って机に突っ伏していた。行儀が悪いと思いつつ、顔だけを隣の席に向けながら僕は桔梗ちゃんに話しかける。


「桔梗ちゃん、やっと授業終わりましたね。お疲れ様です」

「はぅぅ、しーちゃん、お疲れ様です」


 桔梗ちゃんは僕とは違い、ちゃんと頭を起こしてから返事をした。さすがにこの状況で話を続けるのはどうかと思ったので僕も頭を起こした。ここまで僕達が疲れているのには理由があった。それも結構理不尽な理由だったりする。


「さっきの授業の先生、僕達のことを当てすぎですよね」

「しーちゃんもそう思いました?」


 六限目の英語の時間、席が教壇の目の前だったからか、僕達は先生と目が合う度に問題を解かされたり教科書を音読させられた。その回数、僕が四回で桔梗ちゃんが三回と、一度の授業で一人を指名する回数としては明らかに多すぎて、何らかの意図を感じざるを得なかった。


(普通こういうのは出席番号順じゃないんですかね? ハッキリ言ってパワハラじゃないですか)


 僕は心の中で毒づいた。少なくとも天野先生を筆頭に、五限目までの先生方は全員出席番号順で答える人を指名していたので、あの先生がこの学校では少数派なのだろう。というか、僕達が目を付けられているとしか思えなかった。


「あの先生、僕達に恨みでもあったんですかね?」

「初対面ですしそれは無いと思いますけど」

「だったらいいですけど」


 とりあえず次の授業までは様子見しておこう。今回たまたま虫の居所が悪く、僕達にやつあたりしてきただけなのかもしれないし。もしそうじゃなくて続くようなら、本気でどうすべきか考えないといけないなと思っていると、御影さんが近付いてきて話しかけてきた。


「桜庭さんに桔梗ちゃん、さっきは災難だったね?」

「まったくですけど、今日のところは虫に刺されたものと思うことにします」

「そっか。今日はこれからどうするのかな?」

「どうって、御影さん達の仕事を手伝ってから帰ります」


 この辺りは桔梗ちゃんと昨日のうちに話し合って、今週の間は朝と放課後に手伝いをすると決めている。そのため、帰りも鈴蘭さん達とは別々になる予定だ。放課後も手伝うと聞いた御影さんは意外そうな顔をしていた。


「あれっ、ウチらの手伝いって朝だけじゃ無かったんだ?」

「当然です。むしろ友達になったからこそ手伝わないと」

「そうですよ」


 苦労している友人達を放置して帰るほど僕は薄情じゃない。桔梗ちゃんも同じ考えなのか、隣でコクコクと頷いている。御影さんはそんな僕達を見て苦笑しつつ、改めて協力を求めてきた。


「ありがとう。じゃあみんなが帰ったあとで手伝いをお願いしようかな?」

「ええ」

「はい」


 そんなわけで、放課後も御影さん達の仕事を手伝った。なお、同じクラス委員の冬木くんからは「お人好し」と評された。別に普通だと思うのだけど。


 しばらく雑談しながら他の生徒達が教室を出るまで時間を潰し、日直の仕事を分担して行い、最後に日誌を職員室にいる天野先生へと提出し、四人で校舎を後にした。坂道を下りながら四人で会話する。内容は僕達の担任にして御影さんの姉でもある、天野先生の授業についてだった。


「天野先生、教え方上手でしたよね」

「そうだな。僕も中学時代の国語教師より上手だと思った」

「わかりやすかったです」

「そう言って貰えて、妹として嬉しいよ」


 姉を褒められ、御影さんは本当に嬉しそうにしていた。実際他の先生より教え方が上手だったから、お世辞でもなんでもないんだけど。もちろん、六限目のあの先生よりも。


「その妹の御影さんから見て、天野先生の授業はどうだったんですか?」

「授業内容どうこうよりも、お姉ちゃんあれで結構抜けてるから、身内としてはやらかさないか心配で」


 そういうものだろうか。兄弟がいないのでその感覚がよくわからず、僕は首を傾げていたのだけど、あとの二人は何となくわかったようで同意していた。冬木くんも兄弟がいるのだろうか。


「僕も年の離れた弟がいるから、心配になる気持ちはわかる」

「私はその、お姉ちゃんから心配される側です」

「へぇ、二人は兄弟いるんだ。桔梗ちゃんのお姉ちゃんって何歳かな?」

「一つ上で、同じ学校です。佐藤鈴蘭って名前ですよ」

「そうなんだ。ウチやお姉ちゃんと名前似てるね♪」


 鈴蘭さんの名前を聞いて、心なしか御影さんの声が弾んだ。言われてみれば鈴蘭に鈴菜に清白だから、響きだけでなく、植物由来なところも似ていた。


「そうですね。お友達が出来たら紹介してほしいと言われてますから、今度紹介しましょうか?」

「本当? だったらお願いしようかな?」

「いつにしましょう?」

「だったら明日でいいんじゃないですか? 今週中はクラス委員の仕事の手伝いで早く行くわけですし、鈴蘭さんに頼み込んで一緒に来て貰えば」


 同じ学校なのだから、紹介するなら早い方がいい。鈴蘭さんが桔梗ちゃんと一緒に登下校するのを遠慮しているのは、友達作りを応援するためなのだから、友達が作れた以上別々にする理由が無い。


「待て、それだと僕も一緒に紹介されることになるのだが、構わないのか?」

「問題ないでしょう? 冬木くんも僕や桔梗ちゃんの友達には違いありませんし」

「それはそうだが」

「決まりですね。ではちょうど坂も終わったことですし、解散しましょうか」


 会話の終わりと同じくして、学校前の坂を下り終えた。明日も今日と同じくらいの時間に教室に行くと伝え、二人と別れて僕達は帰宅したのだった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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