第二十六話 詩恩くん、母親に連絡する
入学式を終えて自由時間となり、僕は自室で久遠兄さんと悠馬さんの二人に電話をかけていた。無事に入学式を終えたことを報告するためだ。
しかし久遠兄さんには繋がらず、悠馬さんは仕事中だからあとでかけ直すと言われ、思わず僕はため息をついた。
(今日は平日なのだから、こうなることはある程度予想出来ましたよね)
自らの行動に心の中でツッコミを入れる。とはいえ連絡しないのも問題なので、式が終わってすぐに連絡するという義務は果たしたのでよしとしておこう。そう思い直し、母さんに電話をかけたら三コールほどで繋がった。
『もしもし、詩恩?』
「母さん、入学式のことを話したいんですけど、今いいですか?」
『大丈夫よ。今日は休みで昼ももう食べてるから、長くなっても別に』
「わかりました」
電話に出た母さんから、今なら長電話しても大丈夫だと言質を取れたので、ひとまず安堵した。
『それで、入学式は無事に終わったの?』
「ええ。これといった問題はありませんでした」
式そのものは特に変わったこともなく普通に終わった。あえて挙げるとするなら、首席入学の子が小柄で気の強そうな女の子だったことくらいだけど、別のクラスの子なのであまり関係ないか。
『ならいいけど、お偉いさんの長話で貧血になりかけたりしなかった?』
「僕は大丈夫でしたけど、隣にいた桔梗ちゃんがふらついてましたね」
公立の中学校でも私立の高校でも、どこであっても式典での校長先生の話が長いのは変わらないようだ。それで退屈のあまり隣に目を向けたら、桔梗ちゃんがふらふらしてたのでちょっと焦った。
『そう。桔梗ちゃんは大丈夫だったの?』
「あと三分話が続いてたら危なかったでしょうけど、その前に終わったので大丈夫でした」
『よかったわ。というか桔梗ちゃんが隣にいたって、もしかして同じクラスだったの?』
クラスごとに並ぶ入学式の場で、桔梗ちゃんが隣にいたという事実から、僕と桔梗ちゃんが同じクラスだと母さんはわかったようだ。
「ええ。ついでに言うなら席も隣です」
『何それ漫画みたいじゃない!? 詩恩も嬉しかったでしょう?』
「もちろんです。嬉しさのあまり掲示板の前でお互いに抱き合ったくらいでしたから」
思い返すと恥ずかしいことをしていた気もするけど、それだけ喜ばしいことだったのだから仕方ない。僕の赤裸々な告白に、母さんの声は明らかに弾んでいた。
『あらあら、そんな場所で抱き合うなんて仲いいわね。その感じだと桔梗ちゃんも満更じゃなさそうだし、いつでも嫁入り歓迎するわよ?』
「勘弁してください。僕も桔梗ちゃんも恋愛とか考えてませんから」
クラスメートからも言われたけど、今は二人で遊んだり学校に行くのが楽しいため、恋愛とかそういうことを考えるのは後回しにしているのだ。
『あんたはともかく、桔梗ちゃんは本当にそうかしらね? まあいいけど。それよりも、同じクラスってことは、二人で教室に入ったのよね?』
「はい。思い切りざわつかれましたけど、一応クラスメート全員、僕や桔梗ちゃんのことをわかってくださったと思います」
数日の間はクラスの中に男装した女子や小学生がいると驚かれるだろうけど、それも次第に落ち着いてくるはずだ。
『なら問題なさそうね。桔梗ちゃん以外の友達は出来たの?』
「それは明日から頑張ります。一人くらいは男友達がいないと困りますからね」
たとえば体育の時間、僕と組んでくれる人を探さなくてよくなる。なんでも僕と準備運動すると、女子と組んでると錯覚するそうなので、それほど親しくない相手には頼みにくいのだ。
『あんたの場合、特に同性の友達が出来ないのよね』
「そうなんですよね」
『まあ頑張りなさい。それで、入学式のこと悠馬さんと久遠くんには連絡したの?』
「すでに連絡しましたけど、繋がらなかったのであとでかけ直す予定です」
『いい心がけね。褒めてあげる』
母さんからそう評され、先に連絡しておいてよかったと思った。もししてないとか忘れてたとか答えていたら、今後の生活に影響が出ていたかもしれない。主に金銭面で。
『そうそう、あんたと桔梗ちゃんの写真、早く送ってくれない?』
「電話が終わったら送ります。それと桔梗ちゃん個人の写真が欲しかったら本人に頼んでください」
『そうするつもりよ。じゃあ詩恩、また今度ね』
「ええ、母さん」
母さんとの通話が終わったので、指示されたとおり僕の写真と桔梗ちゃんとのツーショットを母さんへと送っておいた。その後昼食をとり明日の準備をしていると桔梗ちゃんが遊びに来た。
「桔梗ちゃん、いらっしゃい」
「しーちゃん、お邪魔します。実はその、お頼みしたいことがありまして」
「頼みたいことですか?」
出迎えた桔梗ちゃんから、頼み事がしたいと言われたので内容を聞いてみた。桔梗ちゃんからの頼みを断るつもりはないけれど念のためだ。
「はい。その、明日からのことなんですけど、御影さん達のお仕事を手伝おうと思い早く行きたいんです」
「いいと思いますよ。御影さんと友達になるためですよね?」
「はい......それでその、しーちゃんにも着いてきて欲しいんですけど、駄目ですか?」
「構いませんよ。僕も御影さん達と親しくなりたいですから」
「あ、ありがとうございます!」
申し訳なさそうな顔で頼み込んでくる桔梗ちゃんに、僕は肯定の返事をする。それを聞いた彼女の顔はとても嬉しそうで、見ていて胸が温かくなった。そうして明日からしばらくの間、僕と桔梗ちゃんは早めに登校することとなったのだった。
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