第二十五話 桔梗ちゃん、鈴蘭さんにお願いする
桔梗視点です。
しーちゃんと一緒に下校し、自分の部屋で私服に着替えて休んでいたところ、鈴蘭お姉ちゃんが今日の入学式について二人きりで話したいことがあると訪ねてきたため、ひとまず二人分の紅茶を用意しました。
「ありがとう、桔梗ちゃん」
「いえ......あの、どうして二人きりなのでしょうか? 入学式のことならお昼ご飯のときにお話しするつもりでしたけど」
「その前にちょっと聞いておきたいことがあったんだよ。とと様達に聞かれたら困ったり気まずくなるような話題が」
「困ったり気まずくなる話題って、何ですか?」
意図がわからずオウム返しする私に、鈴蘭お姉ちゃんは一口紅茶を飲んでから答えました。
「うん。具体的に言うと二人からお友達が出来たのか聞かれる」
「はぅぅ、い、言われてみればそうですね」
鈴蘭お姉ちゃんから具体例を挙げられ、確かにそうだと思いました。実際問題、しーちゃん以外のお友達は出来ていないわけですし。
「でしょう? まあその辺りはあとで聞くとして、最初の質問に移るよ?」
「はい、大丈夫です」
「桔梗ちゃん、詩恩さんと同じクラスになれたんだよね?」
「大丈夫ですよ。しーちゃんとは同じクラスでした♪」
鈴蘭お姉ちゃんが最初に聞いてきたのは、私としーちゃんが同じクラスになれたかどうかの確認でした。もちろん同じクラスだったのでそう答えると、鈴蘭お姉ちゃんは大きく安堵のため息をつきました。
「よかった。桔梗ちゃんがずっと楽しそうにしてたから多分同じクラスなんだろうなって思ってたんだけど、本人の口から確認しないとやっぱり不安で」
「鈴蘭お姉ちゃん、心配してくださってありがとうございます。実は席もお隣なんですよ?」
「本当!? すっごい偶然だね♪」
「はぅぅ!」
さらにしーちゃんが隣の席だと伝えると、鈴蘭お姉ちゃんは驚きつつもとても嬉しそうに、私に抱き付いて来ました。
急に抱き付かれてちょっとビックリしてしまいましたけど、撫でられているうちに落ち着いてきました。
「桔梗ちゃん、いい加減慣れよう? それにしても、詩恩さんが同じクラスで本当によかったよ。桔梗ちゃんって引っ込み思案だから、下手するとクラスで孤立しかねなかったし」
「それは、あったかもしれません」
しーちゃんがいてくださったのと、最初に話しかけてきた御影さんがいい人だったからそうならなかっただけで、私一人だったらどうなっていたかわかりません。
実際に中学時代は保健室登校の期間が長すぎて、教室に戻っても腫れ物扱いで、また保健室に戻るという悪循環に陥りましたから。
「その感じだとクラスにも無事に溶け込めたんだね」
「しーちゃんのおかげです」
「だとしても、小中学校のときとは全然違うよ。それでお友達は」
「はぅぅ」
「――入学初日で出来るとは思ってないから、桔梗ちゃんと仲良くなれそうな人はいたのかな?」
当初の宣言通り、鈴蘭お姉ちゃんからお友達が出来たかどうか聞かれ、私はうめき声を上げました。鈴蘭お姉ちゃんはそれだけで察したみたいで、話している途中で軌道修正を加えました。仲良くなれそうな人がいるかどうか考え、一人の女生徒の顔が頭に浮かびます。
「今のところ一人だけいます。クラスの委員長になった、御影さんって女の子です。私もしーちゃんも、まずその子から仲良くなろうと考えてます」
「詩恩さんもなんだね。でもうん、クラス委員の子なら他の人よりも話すきっかけが多くあるだろうから、お仕事を手伝うとかしてたら早く仲良くなれると思うよ」
「お手伝い......」
鈴蘭お姉ちゃんの言うとおり、クラス委員の人は何かと仕事がありますので、お手伝いを申し出ればお話しする機会が増え、その分だけ早くお友達になれるかもしれません。そういえばお仕事で思い出しましたけど、お花の水替えや朝の換気など本来なら日直がするお仕事も、今週中はクラス委員がすることになっていました。
「鈴蘭お姉ちゃん、日直のお仕事って大変ですか?」
「そうでもないけど、いきなりどうしたの?」
「実はその、今週の間は日直のお仕事をクラス委員の人がするらしくて、もし大変ならお手伝いしようかなって思いまして」
「それ、いいと思うよ。たとえ大変じゃなくても、お仕事を手伝ってくれたら誰だって嬉しいって感じるし、印象よくなるよ」
「あ、ありがとうございます」
御影さんと仲良くなるため、お仕事を手伝いたいという私の考えを話したところ、鈴蘭お姉ちゃんは手放しで褒めてくださいました。
「それで、明日から早く行くの?」
「そうしようと思ってますけど、しーちゃんと鈴蘭お姉ちゃんに確認しないといけませんから」
「詩恩さんは当然だけど、わたしにも聞くこと何かあるの?」
「はい。入学したら一緒に登校しようって約束をしてましたけど、今週末までの間はすみませんが別々に登校させてください」
もしも御影さん達を手伝うために早く登校するのなら、鈴蘭お姉ちゃん達と別々に行くか、私達の行く時間に合わせて貰うよう鈴蘭お姉ちゃん達に頼み込むかのどちらかを選ばないといけません。その上で、私のワガママに付き合わせるのは申し訳ないと思い、私の意向を伝えました。鈴蘭お姉ちゃんは優しい目をして、私の頭を軽く撫でました。
「そっか。じゃあとりあえずしばらくの間は別行動だね。わたしとしては早く桔梗ちゃんと一緒に登校したいけど、お友達作りは優先させないとね」
「あの、鈴蘭お姉ちゃん、ありがとうございます」
「いいって。ただ、仲良くなれたらお友達のことを紹介してくれると嬉しいかな?」
「はい!」
自分の気持ちを後回しにして、私のことを気遣ってくれる鈴蘭お姉ちゃんは本当に自慢のお姉ちゃんです。なので昔からお友達が出来たら紹介したいと思っていました。これまではそういう機会が無かったですけど、今回は頑張りたいと思います。
「それともう一つ、詩恩さんに一緒に行って貰うよう、説得しないとだね」
「わかってます。お昼ご飯を食べたあとで頼みに行こうと思います。今行くと忙しいと思いますし」
歌音さんを始めとした、保護者の人への連絡や明日の準備などで、しーちゃんはすることがたくさんあるでしょうから、時間を置いてから訪ねるつもりです。
「だったらその間に、いろいろと準備を済ませちゃおうか」
「はい」
それまでの間、私は鈴蘭お姉ちゃんと一緒に授業に必要なものを確認したり、時間割を机に貼ったりして過ごし、昼食を家族で取ったあと、しーちゃんのお部屋へと向かいました。
お読みいただき、ありがとうございます。
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