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第二十四話 詩恩くん、桔梗ちゃんと記念撮影する

 天野先生が出て行った直後、僕と桔梗ちゃんは揃って教室を出た。御影さんを始めとしたクラスメート達との交流を深めたい気持ちもあったけど、今日だけは特別だ。


「校門で千島先輩と鈴蘭さんが僕達のことを待ってますからね」

「そう、ですね」


 二年生の予定は入学式だけなので、僕達が終わるまでずっと待っていることになる。いくら身内に近いとはいえ、先輩を待たせるのは申し訳ないため、桔梗ちゃんの分の荷物を持って走った。


「お、お待たせしました」

「はぅぅ、す、すみません」


 息を切らせながら千島先輩達が待つ、入学祝いの立て看板付近まで駆けていく。到着した僕達の様子を見て、二人ともが心配そうにしていた。


「二人とも大丈夫? そんなに急がなくてもよかったのに」

「真面目なんだろ。とりあえず息を整えてからだ」

「お気遣い、感謝します」


 僕達の呼吸が整ってから、入学式の記念撮影が行われた。元々鈴蘭さんの家ではイベントごとに写真を撮っていたらしく、去年の入学式では楓さんが鈴蘭さんを撮ったそうだ。今年も楓さんは来るつもりだったらしいが、桔梗ちゃんと間違われて騒動になるから、代わりに鈴蘭さん達が撮影することになった。


「えっと、撮るのは詩恩さん単独、桔梗ちゃん単独、二人のツーショットの三種類でいいのかな?」

「あと鈴蘭さんと桔梗ちゃんで撮る分もありますよ」

「だったら四種類だな。俺が撮ってやるからとっとと終わらせるぞ。記念撮影を希望してるの、俺達だけじゃなさそうだからな」


 千島先輩の言葉通り、坂の下から保護者と思われる大人達が集まり始めている。この人達に迷惑がかかる前に終わらせようと思い、僕は立て看板の横に立った。


「桔梗ちゃんは逆サイドに立ってね。このまま撮れば、うん。二人別々のになったね」

「次はツーショット写真だ。お前らもうちょっと近付け――よし、こんな感じか。あとは鈴蘭、今桜庭がいた場所に入れ」

「わかったよ。雪片くん、このまま撮って」

「ああ。これでいいな。離れるぞ」

「うん!」

「「はい!」」


 撮影係の千島先輩の指示に従い、手早く記念撮影を終わらせ校門から離れた。そのまま坂を少し下りた辺りでどんな写真が撮れているか全員で確認する。


「これなら撮り直さなくても大丈夫だね。むしろいつもより綺麗なくらいだよ」

「褒めすぎだ。まあ、桜庭と桔梗のツーショットは、我ながらよく撮れたと思うが」

「これ、本当に僕ですか?」

「すごく綺麗です」


 桜の木と入学祝いの立て看板をバックに、遠慮がちに笑う少女とたおやかに微笑む少女――にしか見えない少年。こんな顔を自分達はしていたのかと思いつつ、他の人の迷惑にならないよう校門から離れた。


「よし、じゃあ帰るか。鈴蘭、動くなよ?」

「えっ? きゃぁぁっ!」

「鈴蘭お姉ちゃん!?」

「千島先輩、一体何を?」


 おもむろに鈴蘭さんを抱き上げながら、準備運動をする千島先輩。まさかだとは思うが、鈴蘭さんを抱いたまま坂を駆け下りるつもりなのだろうか。


「やっぱり初めての下校は、二人の方がいいだろ?」

「わ、わたしもそう思うけど、雪片くんちょっと強引じゃ」

「そういうわけで、またあとでな」

「ちょっ、はぅぅぅ!!」


 その予想通り、千島先輩は鈴蘭さんをお姫様抱っこしたまま勢いよく坂道を駆け下りていった。とても僕には真似出来ないと思いつつ、せめて桔梗ちゃんくらいはお姫様抱っこ出来るように鍛えようと密かに誓った。


「僕達も帰りましょうか。のんびりでいいので」

「そうですね」


 千島先輩達とは違って、僕達はゆっくりと坂道を下っていく。道中の話題は今日知り合ったクラスメートのことだ。自己紹介を聞いてて個性的な人が多かったように感じたので、賑やかで退屈しないクラスになりそうだった。


「桔梗ちゃんは仲良くなれそうな方はいましたか?」

「その、今のところは御影さんくらいしかお話ししてないですから、まだよくわからないです」

「そういえばそうでしたね。かくいう僕も同じですから、二人で友達作りを頑張らないといけませんね」

「わ、私も頑張ります。御影さん、お友達になってくださるでしょうか?」

「大丈夫だと思いますよ。僕も御影さんと仲良くなりたいですし」


 桔梗ちゃんが最初に仲良くなろうと考えたのは御影さんのようだ。僕も同意見で、単純に話をしてみて親しみを感じたのが主な理由だ。あとは御影さんはクラスのまとめ役なので、そういう女子を味方に付けておいた方がいいという打算も少しある。もっとも、僕と違って桔梗ちゃんは純粋に御影さんと仲良くなりたいようだけど。


「御影さんと、ですか?」

「ええ。話してみて楽しかったですから」

「私もです。あと私の場合、仲良しなお姉ちゃんがいるというところも気になりまして」

「なるほど」


 確かに桔梗ちゃんにしても御影さんにしても、姉と仲がいいのは話しているところを見ればすぐにわかる。違いがあるとすれば、御影さん達の方は遠慮が一切無いところか。天野先生は御影さんに対して無茶振りするけど、その仕返しで御影さんは先生の秘密を暴露して弄っている。ああいった姉妹の形もあるのだなと思いながら、桔梗ちゃんに一つ気になったことを聞いた。


「そういえばお姉さんで思い出しましたけど、桔梗ちゃんって自己紹介のときに鈴蘭さんのこと言わなかったですよね?」


 いつもの桔梗ちゃんなら、姉である鈴蘭さんのことを語ってもおかしくない。その疑問に対する桔梗ちゃんの答えだけど、よくよく考えたら納得のいくものだった。


「その、天野先生と違ってクラスの方達は鈴蘭お姉ちゃんのこと知りませんから、うちのクラスに来たときに言おうと思いまして」

「なるほど。でもクラスに来なくても、鈴蘭さん有名人みたいですから、そのうちバレると思いますよ?」

「そのときはそのときで、自慢のお姉ちゃんですって言います」


 そう答えた桔梗ちゃんの顔は、一点の曇りも無い笑顔だった。きっと桔梗ちゃんは鈴蘭さんに対してコンプレックスを感じていないのか、感じていても飲み込んでいるのだろう。


(桔梗ちゃんは本当に強い子ですね)


 目の前にいる、普段は弱々しく見える女の子が、心の奥底では決して折れない強さを持っていることに感心しながら、僕は帰路についたのだった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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