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第二十二話 詩恩くん、桔梗ちゃんと同じクラスになる

更新忘れてました。

 教室のドアの前まで来たところで、桔梗ちゃんが僕の制服の裾を摘まんで、不安そうな顔で僕を見上げてくる。そんな彼女を安心させるように頭を撫でて、落ち着いてからドアを開けた。


「おはようございます」

「お、おはよう、ございます」

「「「「「!!!???」」」」」


 僕達が教室へと入った瞬間、場の空気が大きく変わった。それまで雑談していた男子生徒も、鏡で自分の姿を入念にチェックしていた女子も、僕達の姿を凝縮していた。


(まあ、そうなりますよね)


 中身はどうであれ、男子生徒の制服を着た女子と、女子生徒の制服を着た小学生が仲良く教室に入ってきたら誰だって注目する。


「はぅぅ......」

「クラスメートですし、怯えなくていいですよ」


 多数の奇異の視線を向けられた桔梗ちゃんは怯えてしまい、僕の後ろに隠れてしまった。一方僕は見られることに慣れているため、彼女を宥めながら自分の席を探す。一目でわかるよう机の上に名前が貼っているみたいで、教壇の目の前にある二つの席が僕と桔梗ちゃんのものだった。


「ここですね。桔梗ちゃんも座りましょう」

「はい......」

「ねえ、ちょっといい?」

「構いませんけど、何かご用でしょうか?」


 僕達が席につき荷物を置くのを待っていたかのように、一人の女生徒が話しかけてきた。少し癖のあるミディアムヘアーと透き通った大きな瞳が特徴的の可愛らしい女子で、僕が返事をすると人懐っこい笑みを浮かべた。


「うん。キミ達に聞きたいことがいくつかあるんだけど、答えてくれるかな?」

「ええ。ですけど答える前に貴女の名前を聞かせてくれませんか?」

「もちろんだよ。ウチは御影鈴菜みかげすずな、よろしくね」


 問われて名乗る御影さん。鈴菜という名前が桔梗ちゃんの姉である鈴蘭さんと響きが似ているからなのか、それとも僕達と同じ植物由来からなのか、何となく彼女に親近感が湧いた。


「僕は桜庭詩恩です。御影さん、よろしくお願いします」

「あ、あの、私は佐藤桔梗です。御影さん、よろしくお願いします」

「桜庭さんに佐藤さんだね。じゃあ改めて、まず佐藤さんから質問するよ?」

「はぅぅ、何でしょうか?」


 その上で、御影さんはまず桔梗ちゃんに水を向けた。一応女子同士だから聞きやすかったのだろうか。


「初対面の子にこんなこと聞くのも失礼だと思うけど、同い年よね?」

「......そうです。見えないと思いますけど、十五歳の高校生です」

「「「「「えっ! 嘘!?」」」」」


 御影さんの声も桔梗ちゃんの声も決して大きくはなかったが、静まりかえった教室の中ではそれで充分聞こえたようで、クラスメート達の驚愕の声が響いた。その騒がしさとは対照的に、二人の話は続く。


「そっか。ごめんね変なこと聞いて」

「いえ、その、お気遣いなく。私が子供にしか見えないのはわかってますから......すみません」

「佐藤さんは謝らなくていいんだよ。ウチの方が気を遣わせちゃったんだから。でもうん、佐藤さんがいい子ってことはわかったよ。他にも聞いてみたいことはあるけど、それ以上に桜庭さんに聞かないといけないことあるから、ごめんね?」

「大丈夫ですよ。しーちゃんのことが気になるのもわかりますから」


 そう言って一歩下がる桔梗ちゃん。教室内は未だにざわついていたため、一度静まるのを待ってから御影さんが僕に話しかけてきた。


「今なんか気になることがあったんだけど、とりあえず後にしてこれから聞くね。桜庭さん、キミの性別は?」

「男です。こんな見た目ですけどね」

「嘘っ!?」

「「「「「えっ、えええええっ!?」」」」」


 性別を聞いてきた御影さんに、キッパリ男だと答えたところやはり驚かれた。ついでに会話を聞いていたクラスメート達も驚愕していた。


「ねえ、本当に男の子なの?」

「......本当ですよ。もっとも、証拠を求められてもここでは出せないものなので、出せと言われても困りますけどね」

「そこまでは求めないから! というかそんなの出されたら困る程度じゃ済まないからね!?」

「はぅぅ///」


 真実を話したのに疑われてちょっと腹が立ったので、あえて回りくどく、かつ誤解させる言い回しをしたところ、見事に思惑に引っかかって顔を真っ赤にする御影さん。桔梗ちゃんも同じ誤解をしたのか、頭から湯気が出ていた。御影さんへの仕返しにはなったけど、このままだと二人から露出狂だと思われそうなので、即座に本当の証拠を口にした。


「戸籍や保険証、あとはパスポートなんかですね。お二人とも、一体何を想像したのですか?」

「桜庭君! からかったのね!?」

「はぅぅ、しーちゃん意地悪です」

「すみません、疑いを晴らすのはこれが手っ取り早いと思いまして」


 僕にからかわれたとわかって、二人はさらに顔を赤くしながら抗議してきた。謝罪と釈明をしたところ御影さんからため息をつかれた。


「......桜庭くんは見た目と違って、イイ性格してるよね。でも、疑ったことは謝るね、ごめんなさい」

「ええ。僕もやり過ぎたので謝ります。すみませんでした。桔梗ちゃんも巻き込んでしまい、すみません」

「その、元々怒ってませんから。それにしーちゃんから意地悪されるの、嫌じゃないですし」


 御影さんとお互い謝り合い、さらに桔梗ちゃんにも謝罪の弁を述べた。僕に謝られた桔梗ちゃんだがさして気にしている様子はなく、むしろ意地悪されることを望んでいるみたいだ。そんな僕と桔梗ちゃんの会話を間近で聞いていた御影さんが、何か言いたそうな表情を浮かべる。


「御影さん、何か聞きたいことでもあるんですか?」

「うん。さっきからツッコもうかと思ってたんだけど、二人って――」


 そんな御影さんに水を向けたのだけど、彼女が何かを聞こうとした瞬間、チャイムの音が鳴り響いてその声がかき消されてしまう。鳴り終わってから改めて聞こうとしたが、チャイムの直後に教室を訪ねてきた若い女性教師から体育館に早く向かうように告げられ、そのまま入学式に参加することとなったのだった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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