第二十話 桔梗ちゃん、鈴蘭ちゃんに報告する
桔梗視点です。
歌音さんにしーちゃんとの仲を触れられ、何だか落ち着かなくなった私は、夕方を待たずに自宅へと戻りましたが、あまりにも早い帰宅に鈴蘭お姉ちゃんから不審がられました。
「あれ? いつもより随分早く帰ったね。詩恩さんとのお出かけだしてっきりお夕飯要らないと思ってたのに」
「いえ、その、今日はお出かけしてません」
「そうなの? でもその割には嬉しそうな顔してるね」
「嬉しそう、ですか?」
「うん。詩恩さんと会うときは大体そんな顔してるけど、いつも以上かな?」
言われてみればそうかもしれません。今日はしーちゃんだけでなく、歌音さんにも会えたわけで、さらにお料理の腕を褒められたりしたわけですから。
「そうですか。実はその、しーちゃんのお母さんが来てまして」
「えっ、そうなんだ。遠くに住んでるって聞いてるけど」
「きっとしーちゃんのことが心配だったんだと思います」
普通に考えたら、一人暮らしを始めて一週間で様子を見に行くのは過保護だと思うでしょうけど、しーちゃんの場合はお体のこともあるので、おかしいことではありません。たとえ本人が小学校を卒業する前に完治したと言っていても、重病を患ったのですから。
「あー、何となくわかるかも。詩恩さんの場合過去が過去だから心配しすぎなくらいでちょうどいいのかもね。わたしだって桔梗ちゃんが一人暮らしするって言いだしたら、倒れてたりしてないか確認に行くだろうから」
「わ、私は大丈夫ですよ」
「そう思ってるのは本人だけだから。わたし自身ですら一人暮らしは難しいって思うのに、体力のない桔梗ちゃんには無理あるよ」
「はぅぅ!」
痛いところを突かれ、何も言い返せませんでした。私達姉妹とママは激しい運動や緊張などで心拍数が上がると気絶してしまうため、あまり体力がありません。特に私は病弱なため、義務教育時代のほとんどを保健室で過ごしていたくらいでした。
「とりあえず話戻すけど、詩恩さんのお母さんってどんな人だったの?」
「鈴蘭お姉ちゃん、興味あるんですか?」
「もちろんだよ。妹の大事な人のお母さんだもん」
「はぅぅ///」
鈴蘭お姉ちゃんは幼馴染という意味でそう言ったのでしょうけど、歌音さんとの別れ際に残された言葉のせいで、別の意味に思えてしまい、どうしてかわかりませんけど胸のドキドキが止まらなくなりました。
「桔梗ちゃん?」
「な、なんでもないです! それより歌音さんのことですよね。しーちゃんと似て、お綺麗な方でしたよ」
「へぇ、詩恩さんはお母さん似なんだね。他には?」
「賑やかな方で、我が道を行くって感じでした。今日訪ねてきたのもいきなりだったそうで、しーちゃんを困らせてました」
私も同じ立場なら困ったでしょうけど、いつも落ち着いてるしーちゃんが困ったり恥ずかしがったりするのは、見ていてとても新鮮でした。
「それは普通困るって。ああ、だから今日はお出かけしなかったんだね」
「はい。ですけど楽しかったですよ。あっちでのしーちゃんのお話を聞いたり、昔のしーちゃんの写真を送ってくれるって約束したり」
「あっ、ちょっとそれ見たいかも。来たら見せて貰えるかな?」
「いいですよ。代わりに私の写真も見せますから」
病院にいた頃は一人でしたが、退院してからはほとんど鈴蘭お姉ちゃんと一緒にいるので、しーちゃんに見せるとなると鈴蘭お姉ちゃんもいた方がいいと思います。
「そっか。他には何かしたの?」
「はい、お料理も一緒に作って、桔梗ちゃんは料理上手ねと褒められちゃいましたから」
私の話を楽しそうに聞いていた鈴蘭お姉ちゃんでしたが、お料理を一緒に作ったというところで寂しそうなお顔になりました。
「そうなんだ。ちょっと桔梗ちゃんが羨ましいかも」
「羨ましいって、あっ」
その一言で気付きました。鈴蘭お姉ちゃんの彼氏、雪片お兄ちゃんのお母さんは既に故人で、一緒にお料理を作る機会も褒めていただくことも出来ないのでした。配慮が足りなかったと思い、鈴蘭お姉ちゃんへと謝罪しました。
「すみません、鈴蘭お姉ちゃん」
「桔梗ちゃんが謝ることじゃないよ。でも桔梗ちゃんの話聞いてると、歌音さんって雪片くんや松葉さんが話してた紅梅さんと、ちょっと似てる気がするんだよね」
「確かにそうですね」
思い立ったら即行動な部分や、息子のために無茶するところなんかは似てる気がします。だとしたら、歌音さんが私の身内に会うのが楽しみになってきました。
「次来るときはわたしや雪片くんにも紹介してよ」
「もちろんです。パパやママにも、しーちゃんのお母さんって紹介しましょう♪」
「詩恩さんのお母さん、うちの両親を見て驚かなければいいけど」
「多分大丈夫だと思いますよ?」
大抵の人はパパやママを見て驚かれますが、歌音さんの場合しーちゃんという前例があるのでパパの方はそこまでじゃないと思います。ママはその、驚かれると同時に納得されそうです。
「だといいけど。まあ今度来るまでには、もっと詩恩さんと仲良くなれてたらいいね」
「そうですね」
再会してすぐに、しーちゃんが男の子でも女の子でも大事な幼馴染ということに変わりはないと私は考えました。それはある意味で正しくて、ある意味で間違っていました。
(だって、しーちゃんは男の子なんですから)
そんな単純な事実に、最近気付きました。だから私は、女の子だとずっと思っていましたが本当は男の子だったしーちゃんを、もっと好きに、もっと仲良くなりたいと思うようになりました。これからもよろしくお願いします、しーちゃん。
お読みいただき、ありがとうございます。




