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第十五話 桔梗ちゃん、詩恩くんに町を案内する

桔梗視点です。

 しーちゃんとのお出かけが終わり、お部屋に戻った私はタイツも脱がずにベッドへと寝転がり、近くにあった猫のぬいぐるみを抱きしめました。


(今日一日しーちゃんと過ごして、とっても楽しかったです)


 ぬいぐるみを抱きしめ寝転がった体勢のまま、足をパタパタと上下させ喜びを表します。子供の頃にもっと二人で遊ぼうという約束をして、それが九年越しに果たされたわけですから、こんな風にはしゃぐのも仕方ないです。


(私がお料理したり、しーちゃんのお料理のお手伝いをしたり、まるでおままごとみたいでした)


 おままごととの違いは実際にお料理しているところと、私達二人の関係が夫婦とかじゃなくて幼馴染というくらいです。おままごとで思い出しましたけど、しーちゃんはいつもお父さん役を希望していました。今になって思えば自分は男の子だという主張の表れだったのかもしれないと気付き、自己嫌悪に陥ります。


(はぅぅ、どうして気付かなかったのでしょう)


 一人称も昔から僕のままでしたし、服も男の子が着るようなものを好んで着ていました。こうして思い出を振り返ってみるとしーちゃんが男の子だというヒントはいくつもあったことに気付き、自分の察しの悪さに落ち込みます。


(ですけど、これ以上気付かなかったことを悔いるのは、よくないですよね)


 彼がこの場にいたらきっと『もう過ぎたことですし僕も気にしてないので、桔梗ちゃんも気にしないでください。むしろいつまでも申し訳なさそうな顔をされる方が迷惑です』と、キッパリと言ってくるでしょう。


(しーちゃんって昔から、クールに見えて実は優しいですから)


 言い方が厳しいのが玉に瑕ですけど。他にもちょっぴり意地悪だったり、義理堅いも部分も含めて、あの頃のしーちゃんのままでした。だけど好物を前にした際の子供っぽいお顔や、美味しいものを食べたときの満面の笑みは、私も見たことが無かったので思わず見とれてしまいました。


(綺麗で可愛いなんて、しーちゃん反則です)


 しーちゃんを男の子だと知っている私ですらそう思うのに、知らない人が見たらきっとメロメロになってしまいます。そう考えると、昨日夕ご飯に誘ったのは我ながら英断だったと思います。


(きっと鈴蘭お姉ちゃんやパパみたいに、ナンパされちゃいそうですからね)


 現に今日のお出かけでも、知らない男の方から何回か声をかけられていましたし。私と一緒だという理由でお断りしていたので、間違いないでしょう。


(女の子としては自分じゃなくて男の子がナンパされたことに傷付くべきでしょうけど、私はそういうのに無縁なのは自覚してますから)


 もちろん可愛くないという意味じゃなくて、幼すぎる外見で声をかけられないだろうという意味です。私は下手したら年齢一桁台に見えますからね。


(はぅぅ......)


 自分で考えて落ち込みます。こんなときは別のことを考えましょう。お昼からのお出かけですけど、ただ町を案内するだけでは味気ないので、私や家族がよく行くお店にしーちゃんを連れて行くことにしました。


(私の好きなものに、しーちゃんも興味を持って欲しいですから)


 そう思い最初に行ったのは画材店でした。ここは好感触で、しーちゃんは筆やペンをじっくり見ていました。興味があったのか試し書きをしていたみたいですが、しーちゃんの書いた字を見て思わず目が点になっちゃいました。


(お手紙でも達筆でしたから、上手な人は筆を選ばないというのは本当なんですね)


 褒められ照れた様子で画材店を出て行ったのも、個人的にはしーちゃんに親しみを覚えたポイントです。しーちゃん、意外と照れ屋なんですね。


(そのあとのお店で報復されましたけど)


 次に寄った靴下店で終始私はしーちゃんからいじられました。私達が愛用している150センチや200センチのルーズソックスを見て『桔梗ちゃんはそんな小さいのにこんな長いの、どうやって洗濯したり干したりしてるんですか?』と真顔で言われました。


(そのあと『似合ってて可愛いからいいですけど』なんて言いながら買って下さったので、危うく気絶しそうになりましたけど)


 すぐに助け起こそうと駆け寄ってきたのも、嬉しかったです。ただ私が気絶しかけたから、案内を中断して帰らざるを得なくなりました。そのため、本来買うはずだった食材も買えずじまいで、明日改めてスーパーに行くことになりました。


(はぅぅ、失敗でした)


 仕方がないので、ママに許可を取りうちにある食材を持ってきてお料理することにしました。お夕飯の準備は、しーちゃんの隣で作り方を指示しながら行われました。メニューはおみそ汁と焼き魚、それときゅうりとわかめのごま和えでした。


(意外としーちゃんって、手先が器用なんですね)


 ほとんど包丁を握ったことないと言ってましたけど、危なっかしさは欠片もなくて安心して見てられました。実際に作られたお料理も、初めて作ったにしては上手く出来ていました。


『ちょっと焦げたりしましたけど、このくらいなら大丈夫です。ちゃんと美味しいです』

『桔梗ちゃんにそう言って貰えてよかったです。レシピも見ずに作れる桔梗ちゃんはすごいですよ』

『はぅぅ、ありがとうございます』


 あのときは褒められて出て来ませんでしたが、私よりもしーちゃんの方がずっとすごいと思います。


(遠い場所で一人暮らししようって考え、実際にそうしているのですから)


 私は子供の頃に病室で寝泊まりしていたことがあったんですけど、一人で眠るのが寂しくて泣いちゃったことが何度もありました。しーちゃんと知り合ってからは寂しくなくなりましたし、成長して一人でお留守番も出来るようになりましたけど、昔感じた孤独の辛さは今でも忘れられません。私でさえそうなのですから、私以上に入院期間が長くて兄弟もいないしーちゃんはもっとでしょう。


(しーちゃんは、寂しくないのでしょうか?)


 本人に聞いても、自分で一人暮らしすることを選んだので寂しくないと答えるでしょう。ですけど、本音では寂しいと思っているはず。そう考えた私は、しーちゃんにこんなメッセージを送りました。


『毎晩眠る前に、おやすみのメッセージを送ってもいいですか?』

お読みいただき、ありがとうございます。

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