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番外編 佐藤姉妹のバレンタイン

バレンタインなので番外編です。

 その一、桔梗ちゃんのバレンタイン。


 二月十四日、本日はバレンタインデーです。朝早くに起きた私は色々と身支度を整えたあと、前日のうちに作っていたチョコレートを冷蔵庫から取り出して、しーちゃんの住むアパートへと足を運びました。


(鈴蘭お姉ちゃん、もう雪片お兄ちゃんのお部屋でチョコレートお渡している頃でしょうね)


 先程冷蔵庫の中を確認したところ、昨日鈴蘭お姉ちゃんが雪片お兄ちゃん用に用意していたチョコだけが無くなっていたので間違いないでしょう。もちろん私もしーちゃんにお渡しする分だけを持ってきています。


(大好きな人に渡すのを邪魔したくも、されたくもないですから)


 多分お家では今頃ママがパパにお渡しして、食べさせ合いとかしているのでしょう。凄く羨ましいラブラブっぷりで真似したい気持ちもありますけど、今の私にはハードルが高すぎます。


(それに、しーちゃんに本命チョコをお渡しすること自体初めてなんですよね)


 一応昔もチョコをあげたことはありましたけど、その頃はしーちゃんを女の子だと思っていましたのであくまで友チョコという認識で、こうして本命チョコをお渡しすることに今更ながらに緊張してきました。


(はぅぅ、しーちゃん喜んでくださいますでしょうか?)


 これまで作ったお料理やお菓子は美味しく食べていただきましたし、今回のチョコも味見しているので大丈夫だとは思うのですが、それでも初めてのことですので不安がこみ上げてきます。そうして思い悩んでいる間に彼の部屋のドアまで辿り着いてしまいました。


(......迷っていても仕方ありませんし、行きましょう!)


 勇気を出してしーちゃんのお部屋へと足を踏み入れます。部屋の明かりは既に灯っていて、洗面所から水の流れる音がしました。恐らく洗顔中なのでしょう。彼が洗面所から出て来るのを待って声をかけました。


「しーちゃん、おはようございます」

「おはようございます桔梗ちゃん。今朝は早いですけど何かあったんですか?」

「その、今日はいち早くしーちゃんにお会いしたかったといいますか、お渡しするものがあるといいますか......あのっ、これ、受け取っていただけますか?」

「ええ。もちろんです」


 洗顔が終わり、いつも通りに綺麗なしーちゃんの顔を見た瞬間、なけなしの勇気を振り絞り、その勢いのままにチョコレートをお渡ししました。雰囲気も何もあったものではありませんでしたが、それでもしーちゃんは微笑みをたたえて受け取りました。


「はぅぅ、よかったです」

「そんなに緊張しなくても、婚約者同士なんですから普通に渡せばいいですのに」

「婚約者同士ですけど、本命チョコをお渡ししたのはこれが初めてでしたから」

「言われてみればそうでしたね。この場で食べてもいいですか?」

「はぅぅ、その、はい」


 出来たら私のいないところでと一瞬だけ思いましたが、今家に戻ってパパ達のラブラブ現場に遭遇して気絶するのは避けたいですし、何より作ったチョコを一番に食べて欲しいという願望もあって、私はコクリと頷きました。


「ふふっ、ではいただきますね」

「は、はい」


 包装を解いて出て来たのは、この上なく本命だとわかるハート型のホワイトチョコで『しーちゃん愛しています』へというメッセージが書かれてあるミルクチョコレートで、彼への愛情をこれでもかと詰め込んだ一品でした。


「ありがとうございます。僕も愛してます」

「はぅぅ///」

「味も僕の好みに合わせてますし、桔梗ちゃんらしいチョコですね」

「普段からリサーチしてしーちゃんの好みは把握してますから」

「......本当にいいお嫁さんを貰いましたね僕は」

「はぅぅ!!」


 しーちゃんの呟きに、私は耳まで真っ赤になりました。ま、まだ婚約者ですし、いくらなんでも気が早いですしーちゃん。フリーズした私を余所に、しーちゃんは二人分の朝食の準備を始めたのでした。




 その二、鈴蘭ちゃんのバレンタイン。


 桔梗ちゃんが起きる三十分ほど前に起きたわたしは、雪片くんに渡すために用意していたチョコを冷蔵庫から取り出し、彼のアパートへと向かった。去年は彼がうちに来てしまいサプライズに失敗したので、今年はそのリベンジだ。


(それに、桔梗ちゃんに相手が出来ちゃった以上、とと様もかか様も遠慮なくいちゃつくだろうから、下手に家にいたら気絶しかねないし)


 何年か前、桔梗ちゃんと一緒にとと様の部屋へ挨拶に行ったらかか様が口移しでとと様にトリュフチョコを食べさせている場面に遭遇し気絶したことがあって、それ以来バレンタイン当日は迂闊に両親の部屋に入らないと二人で誓ったのだ。


(はぅぅ、今でも思い出したらどきどきするよぅ///)


 そのときのことを思い出して赤面する。雪片くんとお付き合いして大分いちゃつくのに慣れたと思っていたけど、まだまだ両親の域には達していないみたいだ。


(大人になったらああいうこと出来るようになるのかな?)


 少なくとも今は無理だと断言出来るけど、来年のわたしならわからない。チョコ作りに熱中していて渡すシチュエーションを考えてなかった去年に比べ、今年は彼の部屋でおはようを告げつつ自然にチョコを渡そうと画策し、実行に移せるほどに成長出来ているのだから。


(問題はこの時間に雪片くんが起きてるかどうかだけど)


 寝ていたら寝ていたで雪片くんの寝顔を堪能しよう。そう考えつつ彼の部屋のドアを開け、リビング兼寝室に繋がるふすまを開けると、ちょうど目を覚ましたのか、彼が焦点の合わない目でわたしを見つめていた。


「雪片くん、おはよう♪」

「んっ、ああ、おはよう鈴蘭。もう朝か?」

「うん。いつもより早い時間だけどね。さてここで問題です。今日は何の日かな?」


 地味にこれも去年のリベンジだ。何せ雪片くん当日にチョコ作ってる現場見てバレンタインって気付いたくらいなんだもん。ちょっとくらい婚約者とのイベントを楽しみにしてくれてもいいのに。


「......バレンタインデーだったな。ちゃんと今年は覚えてるし楽しみにしていたぞ」

「正解だよ。賞品はわたしの本命チョコ、もちろん受け取ってくれるよね?」

「当たり前だ。俺の最愛の婚約者が作ったものだからな」

「はぅぅ///」


 照れもせずに殺し文句を言えるところは、相変わらず去年と同じでズルいと思う。でもそんな雪片くんだから、去年以上に好きになるんだいね。今年のバレンタインは、去年以上に楽しい一日になるだろうと、朝からわくわくするわたしだった。ちなみに、とと様達のラブラブが一段落してお家に入れたのは遅刻ギリギリの時間で、しょんぼりした両親から謝られたのだった。

お読みいただき、ありがとうございました。

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