文化祭編 第七話 楓花ちゃん、詩恩くんのクラスメート達と知り合う
楓花視点です。
教室に足を踏み入れた私を待っていたのは、ゴスロリやスーツなど様々な格好をした人達からの歓声だった。普通は見ず知らずの相手をここまで歓迎しないだろうから、詩恩さんがクラスメート達から好かれていることが伺えた。
「桜庭くん、その可愛い子誰なの!?」
「つか桜庭と瓜二つじゃねえか!」
「その制服東中のよね? もしかして受験生だったりする?」
「こらこら、みんな落ち着いて。楓花ちゃんが困ってるでしょう?」
私を取り囲んで質問攻めにしようとした先輩方を窘める鈴菜先輩。初対面の私に好意的なのはありがたいけど距離感近すぎて戸惑っていたので助かった。先輩方が落ち着いたところで詩恩さんが一歩前に出て、
「この子は僕の親戚の日比谷楓花さんです。ほら、楓花さんも挨拶しましょう」
「は、はい。私は日比谷楓花です。こちらの詩恩さんからすると再従妹という関係で、つい最近知り合いになりました。今年中学三年生で冬にこちらの学校を受験するつもりで勉強しています。もし受かったときは皆さんよろしくお願いします」
詩恩さんから促され、先輩方に簡単な挨拶を行い深々と頭を下げる。こんな感じで良かったのかなと思いつつ顔を上げたところ、拍手で迎えられたのでホッと胸を撫で下ろした。
「楓花ちゃん、いい子だね♪」
「一つ下なのにしっかりしてるね」
「そういえばさっき知り合ったのは最近って言ってたけど、二人とも親戚なのに会ったことなかったの?」
「再従兄妹くらいの関係なら会ったことなくてもおかしくないだろ。兄弟仲が悪かったら従兄弟でもそうなる」
「ええ。現に僕と楓花さんの母親が従姉妹同士でしたけど、ここ最近までほぼ面識ない感じでしたから」
「そう、ですね。ちょっと普通の家とは事情は異なりますけど」
多くの人が聞いてる場では言えないのだけど彼のお婆さん、つまり私にとっては大叔母さんが大叔父さんと駆け落ちして、それに怒ったひいお爺さんが大叔母さんを勘当し両家の関係は絶たれていた。これだけならお互い様に思えなくもないけど、問題はお婆ちゃんに対しても大叔母さんとの接触禁止を言い渡したことで、一昨年の秋にひいお爺さんが亡くなるそのときまで続いた。
(お婆ちゃんがひいお爺さんに逆らえなかったのも、大叔母さんが家を出たのも、元を正せばひいお爺さんが原因だったんだよね)
ひいお爺さん自体が激情家だったのと、当時は躾と児童虐待の線引きが今ほどハッキリしていなかったのもあって、お婆ちゃん姉妹は幼い頃から厳しい扱いを受けていた。そんな状況で逃げるように家を出た大叔母さんを誰が責められるだろうか。そして大叔母さんが逃げたことを責任転嫁され罰せられたお婆ちゃんがひいお爺さんからの言いつけを守り続けたことを悪いと誰が言えるだろうか。
(でもそれはあくまでうちの家の事情でしか無くて、詩恩さんの家には関係ないんだよね)
特に詩恩さんのお母さんであり大叔母さんの娘である歌音さんからしてみれば、自分の母親の葬儀にも出なかった人達が子供をだしにして親戚面して来たわけで、今更虫のいい話でしかない。三日前に詩恩さんと一緒にうちに来たときは怒られることを覚悟していたけど、意外なほどあっさり許された。
(大叔母さんが亡くなられてからずっと一人で生きていた歌音さんに許すと言われたら、もう何も言えないよね)
しかもその直後に『親戚同士でいつまでも揉めるなんて馬鹿みたいじゃない』とバッサリ切られてしまったので、早いとこお婆ちゃんを大叔母さんの墓前に連れて行って、彼らと負い目のない関係を築こうと決めた。
「そっか。色々複雑なんだね」
「ええ。まあそれも解決しましたし、これからは普通に楓花さんの家と親戚付き合いをしていくことになると思います」
「ですね」
正直割り切れてない部分はあるけど、その辺りは私達が家族で消化すべき都合だ。少なくとも当事者ですらない私が勝手に負い目を感じるのは筋違いだろう。
「そっか。ちなみに楓花ちゃんって他に親戚っているの?」
「母方は詩恩さんのとこだけですね。父方は何人かいるそうですけど、全員が転勤族らしくて集まること自体稀なんです。しかも大体一、二年に一度のペースで転勤しているお父さんですら親戚内では少ない方なんですよ?」
「すごい一族だね。この辺りに住むのは初めて?」
「いえ、元々はこの辺に住んでて、最近また戻ってきたんです」
お父さん曰く私が高校を卒業するくらいまではこっちにいられそうとのことだけど、これまでのことを考えるとちょっと鵜呑みには出来ない。お母さんもその辺りはわかっているためか、今度転勤の話が出たら私だけお婆ちゃんの家に置いていくつもりだと、来たばかりの頃に話していた。
「ふーん、そういうところも桜庭くんと同じなんだ。桜庭くんもこの春こっちに越してきたんだけど知ってるかな?」
「はい。正直話を聞けば聞くほど私達似てるなって感じてます」
「僕もそう思ってまして、もしうちの学校に楓花さんが合格して通うことになったら、事情を知ってる人以外には兄妹ってことで通そうかなと」
「まあ、ここまで似てるとそっちの方が説得力出るよな」
詩恩さんの発言を聞いて、文学青年風の格好をした先輩が納得したように深く頷く。詩恩さんの妹を名乗るのにちょっとだけ抵抗感があるものの、それよりも彼に対しての親近感が勝っているのと利便性を考えそうすることにした。
「そういうことです。似すぎてて問題が起きそうな気もしないではないですが」
「学校では着てる服で見分け付くから大丈夫だろう。詩恩が女子の制服着て出歩かない限りだが」
「さすがにしませんよそんなこと」
「しないんですか?」
詩恩さん本人は否定しているけど、女子の制服着てるところは普通に見てみたいし、彼とお揃いの格好をして見分けが付くかどうかも試してみたい。どうやら私だけでなく桔梗お姉ちゃんや鈴菜先輩達も同じ意見だったみたいで、詩恩さんに期待に満ちた視線を向けている。どうにも逆らえないと悟ったようで、彼はため息交じりにこう返した。
「......文化祭とか、イベントのときならやってもいいですよ」
「ありがとうございます」
「じゃあ早速だけど楓花ちゃん、お姫様になってみない?」
「桜庭くんが着てるようなドレスやウィッグに予備もあるし、同じようにメイクしてあげるわよ?」
「是非お願いします!!」
そうして私は数人の先輩に連れられ、メイクを施された後ドレスに着替え記念撮影をしたのだった。ちなみにだけど、私と詩恩さんの見分けが付いた人はそんなに多くなく、付いた人も身長差でわかったとのことなので、案外入れ替わっても気付かれないのではと思ったのだった。
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