表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
150/156

文化祭編 第四話 桔梗ちゃん、詩恩くんのそっくりさんと出会う

桔梗視点です。

 文化祭が来週に迫った日曜日。クラス展示の準備もある程度落ち着いたのと、最近肌寒くなったので冬物の服を用意しておきたいという話になり、私としーちゃんは買い物デートに出掛けました。


「ありがとうございます。桔梗ちゃんのおかげでいいものが買えました」

「お役に立てて何よりです」


 いくつかお店を巡ったあと、スーパーで見付けた可愛らしいデザインの暖かそうなパジャマを購入し、とても満足そうなお顔をするしーちゃん。これを着た彼がお泊まりに来ると思うとすごくどきどきしてきます。


「あとはそうですね、手袋やマフラー、セーターなんかも新調しておきましょうか」

「あの、私そういうの一通り手編み出来ますよ?」

「そういえば桔梗ちゃん編み物も得意でしたね。でしたら今回は見送ります」


 その代わりにクリスマスを楽しみにしてますねと耳元で囁いたしーちゃんは、そのまま私の頬へとキスをします。突然の口づけに驚いてしまい、危うく気絶しそうになっちゃいました。


「はぅぅ、しーちゃん大胆です///」

「婚約してるんですから、このくらい普通ですよ。さてと、買う物も買いましたし、場所を移しましょうか」

「その、ちょっと休憩してからでいいですか?」


 気絶こそしていませんが、どきどきしすぎてまともに歩けそうになかったので、店内の休憩スペースで休むことになりました。しーちゃんは私を座らせたあと、ちょっと恥ずかしそうにしながら席を立ってお手洗いへと向かいました。


(はぅぅ、私ダメダメです)


 ファーストキスを交わして自分でも少しは成長したと思っていたのですが、相変わらず私は子供のままという現実を突きつけられ激しく落ち込みます。そんな私を見かけて心配になったのか、どなたかから声をかけられました。


「ねえ、お嬢ちゃん大丈夫? 顔色悪いみたいだけど」

「いえ、だいじ――」


 優しげな声に返事をしようとして、私は固まってしまいました。何故ならその声の主である少女の顔に、非常に見覚えがあったからです。


(し、しーちゃん!? いえ、よく似てますけど別人ですね)


 彼女の顔はしーちゃんと瓜二つと言えるほどにそっくりで、普段見慣れている私でさえ一瞬彼と見間違えそうになるほどでした。返事の途中で黙ってしまった私に、少女は怪訝そうな顔でこう問いかけてきました。


「どうしたのかな? 私の顔に何か付いてる?」

「いえ!! すごく綺麗で見とれてしまっただけで、その」

「あはは、ありがとう。それよりお嬢ちゃん本当に大丈夫? 保護者の人呼んでこようか?」

「いえその、少し休めば大丈夫ですからお気遣いなく」

「そっか。小さいのにしっかりしてるね」


 優しく頭を撫でる少女。その慈愛に満ちた表情があまりにしーちゃんと同じで、迷子の子供を扱いされても嫌な気分はまったくしませんでした。


「ねえお嬢ちゃん、名前聞いてもいいかな? 私は日比谷楓花、楓の花って書いて楓花だよ」

「わ、私は佐藤桔梗です」

「桔梗ちゃんだね。私のことはふーちゃんやフーガでいいから」

「ではふーちゃんでいいですか?」


 しーちゃんと同じ容姿で、ママと同じ楓の字を持つふーちゃんに何だか親近感が湧いてきました。このまましーちゃんが戻ってくるまでふーちゃんとお話ししようなんて考えていたら、当の本人が戻ってこられました。


「桔梗ちゃん、お待たせしまし――えっ!?」

「よかったね、保護者の人が――嘘でしょ!?」


 戻られたしーちゃんですが、自分そっくりな姿をしたふーちゃんを見て目が点になっていました。それはふーちゃんも同様みたいで、傍から見るとまるで鏡を見ているかのように思えるほど、お二人とも同じ表情をしていました。


「色々あなたに聞きたいことはありますけど、とりあえずこの子の話し相手になってくれていたんですよね?」


 先に硬直から復帰し、現状を確認するため口を開いたのはしーちゃんの方でした。本来なら一番状況を理解している私が説明するべきでしたのに、お二人に見とれていて頭から抜けていました。


「は、はい。あなたが桔梗ちゃんの保護者の方ですか?」

「......まあそのようなものです。申し遅れましたが僕は桜庭詩恩と申します。桔梗ちゃんの話し相手になっていただき、ありがとうございます」

「ご丁寧にどうもありがとうございます。私は日比谷楓花です」


 お互い深々と頭を下げるしーちゃんとふーちゃん。こうして見ると顔立ちは瓜二つですけどふーちゃんの方がひとまわり小さいんですね。お胸は膨らんでますのでより女性らしいとも言い換えられますけど。


「では日比谷さん、ありがとうございました」

「楓花でいいですよ。同じ顔ですし桜庭さんのこと他人とは思えませんから」

「わかりました。でしたら僕のことも詩恩でいいですよ」

「了解です、詩恩さん」

「それと、ここで知り合ったのも何かの縁ですし、お茶くらい奢りますよ。桔梗ちゃんの話し相手になってくれたお礼もありますし、桔梗ちゃんも構いませんよね?」

「は、はい!」


 デートの途中ではありますがここでお別れする方が落ち着きませんし、何より私もふーちゃんともっとお話ししてみたいと思っていましたので彼に同意しました。


「それならお言葉に甘えますね。ちょうど暇でしたし」

「決まりですね。では行きましょうか」


 そうしてふーちゃんを連れ、三人で近くの喫茶店に入って紅茶とパンケーキを注文します。待っている間改めて自己紹介を行い、ふーちゃんが一つ下の中学三年生であることや、夏休みの終わりに引っ越してきたことなどが彼女の口から語られました。


「えっ、桔梗ちゃん年上だったの!?」

「はぅぅ、よく言われます」

「楓花さんが勘違いするのも無理ないですよ。僕だって再会したとき桔梗ちゃん本人ではなく妹だと思ったくらいでしたし」

「というかそれ以上に、詩恩さんが男ってことに納得いかないんですけど!!」


 それに関しては正直ふーちゃんに同意します。私自身当人の口から告げられるまで勘違いしてましたし、ふーちゃんからしてみれば自分と同じ顔の人が現れたかと思えば男の方だったわけですから、混乱するのも当然でしょう。


「納得いかなくても事実です。大体僕だって困惑してるんですよ、昔に亡くなった祖母の写真以外に、自分そっくりな顔なんて見たことないんですから」


 しーちゃんの母方のお祖母さんこと詩歌さんの写真は見せていただいたことがあったのですが、本当に彼とよく似ていてビックリしたくらいでした。同時に歌音さんが父親似なんだなとも思いましたけど。


「それは私もですよ。私の場合はお婆ちゃんの妹さんと似てたみたいですけど」

「......世の中、似たような話はあるものですね」

「いえその、もしかしてそれって同一人物だったりしませんか」


 かなり昔に亡くなられた女性に、お二人ともが似ているというお話はただの偶然にしては出来過ぎているのではと感じました。もしお二人が親戚でしたら似ていることも腑に落ちますし。


「可能性はあるかもしれませんね。楓花さん、その大叔母さんの名前って、もしかして詩歌ではないですか?」

「うーん、そこはお母さんに聞いてみないとわからないですけど、確かそういう名前だったような」

「僕も母に色々と確認してみますが、もし事実だったら僕達再従兄妹同士ってことになりますね」

「そうですね。ですがそうなると将来的に桔梗ちゃんも親戚になるわけですし、呼び方を考えないといけませんよね。たとえば桔梗お姉ちゃんとか」

「はぅぅ♪」


 しーちゃんと似たお顔と声でお姉ちゃんと呼ばれ、私は思わず鳴き声を発しました。そうですよね、ふーちゃんが身内になるということは私に妹が出来るわけで、嬉しくないわけがありませんでした。


「本人も嬉しそうですし、これからそう呼んであげてください」

「わかりました。詩恩さんの方はこんな呼び方して欲しいって要望はありますか?」

「今のままでいいですよ。それより、注文した品が出て来たみたいですし、冷めないうちにいただきましょう」

「そうですね。ふーちゃん、お金のことは気にしなくていいですよ」

「だったらお言葉に甘えますね」


 そうして私達は三人でティータイムを楽しみました。その後ふーちゃんを私達の学校の文化祭へお誘いしてから別れ、しーちゃんとのデートを続けたのでした。余談ですがしーちゃんとふーちゃんは本当に親戚だったみたいで、ふーちゃんのお母さんから正式にふーちゃんのことを頼まれたのでした。

お読みいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ