文化祭編 第二話 詩恩くん、文化祭の準備を行う その一
割り込み投稿の設定を間違えたので再投稿します。
文化祭の準備期間に入り初の週末が来た。研究テーマが決まる前から必要な資料をある程度確保していたこともあって、僕達の準備は今のところ順調に進んでいる。企画のキモとなる各時代の衣服についても親や祖父母世代の古着が集まったおかげで、当日に着る分の衣装もある程度確保出来た。
(流行り廃りは一周するとはよく言ったものですね。欲を言えば他国の民族衣装も入手したかったところですが、そこまで求めるのは贅沢でしょう)
個人の伝手を頼った関係上、国内で昔流行った服装が大半となってしまって着物やドレス、他国の民族衣装などはほとんど集まらなかった。もっとも前二つは僕と桔梗ちゃんが用意したし、民族衣装についてもレンタルで済ませられるので問題無いのだけど。
(文化祭の出し物の話を母さんにしたら、まさか昔宣伝で使ったドレスを送ってくるとは思いませんでしたよ)
去年の春頃に母さんの店でアンティークをテーマにしたフェアを開催し、宣材写真として何着かドレスを着て撮影に臨んだことがあったのだが、まさかそれらを母さんが買い取っていて、しかも今こうして有効活用することになるなんて思いもしなかった。
(そのおかげで使い勝手のいい衣装が手に入ったわけですが)
桔梗ちゃんの着物も含めレンタル衣装に比べ手直しのきく衣装がそれなりの数入手出来たこともあって、日曜日に衣装の手直しが行われることになり、ついでに実際に着てみようという話に繋がって僕達の教室でファッションショーが開催される運びとなった。
「さあ、女子達が準備してる間に資料作成を進めておくか」
「まったくだな。うちの女子のコスプレ姿を俺らで独占出来ると思えば、このくらい安いもんだ」
「いっそのこと今日のうちに完成させちまって、あいつらを驚かせようぜ?」
「それカッケーな!」
女子が手直しと衣装合わせを行っている間、手の空いている男子は展示用のパネル作成を担当することになった。文化祭期間中の休日は希望者のみが出席する形なのだが、うちのクラスは一人残らず参加している。参加理由はあえて聞かなくてもわかるけど。
「完成させたいなら、まず何をするか決めましょうね」
「日本の方は時代ごとに着物がどのように変遷していたのかを、世界の方は歴史的出来事に合わせた衣装の紹介で良くない?」
「それでもいいが、確か中世の欧州では日本以上に時代ごとでドレスの流行が違うって書いてなかったか?」
「じゃあ明治維新以前は日本と欧州をメインで、それ以降はざっくりやって、現代の多様化した服装の紹介にしよう。確保出来てる服の種類的にもそうした方がやりやすいだろ」
「わかりました。ではその方向でいきましょうか。何人かのグループに分かれて、担当箇所を進めましょう」
「なあ、その前にちょっといいか?」
出て来た意見をまとめ、全体的な方向性を僕が打ち出したところで、江波くんから待ったがかかった。何か問題でもあったのだろうか?
「いや、何で桜庭がこっちにいるんだ? お前も衣装合わせに参加する側だろ?」
「何故もなにも、僕は男子ですから女子に混ざって着替えるわけにいかないでしょう? 僕の着替えは彼女達が終わってからです」
「......混ざっても問題なくないか?」
江波くんがボソリと呟くと、教室内の男子全員がウンウンと頷いた。ちょっと、明日太もしれっと頷かないでください。
「冗談だ。だが実際途中で抜けて着替えた方がいいとは思うぞ。お前が何を着るにしても、男の服より着るのに時間かかるのは事実だろう?」
「それもそうですね。では昼までこちらで皆さんと作業して、午後から着替えに向かいます。そういうわけですから、早いとこ進めてしまいましょう」
あまり駄弁っていてもしかたない。まだ作業初日だしとりあえず日本史斑と世界史斑に分かれて資料作成しようという話になり、僕は世界史斑に配属された。
「それで具体的にどういった内容にすればいいのかな? 欧州の歴史と言っても長いし」
「そうですね、せっかくロココ様式のドレスを入手出来たことですし、その辺りの時代を中心にやりましょうか」
あまり絡んだことの無い男子、天音くんから聞かれてそう答える。一応バロックやヴィクトリア調のドレスも調達出来ているからそちらについても触れるつもりだけど、歴史的出来事とセットで書くならここは外せないだろう。
「じゃあさ、プーフについても取り上げてくれると嬉しいかな。一度でいいからリアルで見てみたいし」
「もちろんそのつもりですよ。女子にさせるとあれなので僕がやる前提ですが」
「桜庭くんがするの!?」
「ええ」
だって明らかにあんなのやったら首を痛めるし、もし地毛でやるとしたら髪にも確実にダメージが入るから女子にさせるわけにはいかないだろう。僕と天音くんの二人で盛り上がっていたところ、他の男子から質問が上がった。
「なあ、プーフって何だ?」
「フランスのルイ王朝末期に流行した髪型のことです。高く結い上げた髪を装飾品で飾り付ける、今でいう盛り髪の先駆けですね」
「概ね正しいけど一つ説明が抜けてるよ? その飾り付ける装飾品についてだが野菜だったり肖像画だったりと奇抜で、極めつけに船を頭に乗せていたとまで言わないと」
「「プッ、アッハハハハハッ!!」」
説明を聞いた彼らは一人残らず噴き出し、お腹を抱えて爆笑した。その気持ちはよくわかる、僕も初めて見たとき笑いすぎて呼吸困難になったほどだから。ただ真面目にやっている中笑い転げている人達がいたら不機嫌になる人がいるのも当然で、
「お前ら真面目にやれ」
「すみません明日太。プーフについて話をしたらこうなってしまいまして」
「......そうか。なら仕方ない」
明日太から注意を受けてしまった。理由を話したら納得してくれたけど資料作成が進んでないのも確かなので、気を取り直して真面目に取り組んだのだった。
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