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体育祭編 第四話 詩恩くん、桔梗ちゃんと体育祭を頑張る

 雪片兄さんが活躍した俵運びのあとは、大縄跳びで四位で大玉転がしが三位だったりと可もなく不可もない結果が続き、僕達の出番となる玉入れが始まろうとしていた。


「事前に決めたとおり、詩恩は常にカゴから一定の距離に陣取って玉を投げ続けろ。それ以外は玉を投げるグループと拾うグループの二つに分かれ、交代しながら常にカゴを狙おう」

「「「了解!!」」」


 明日太の立てた作戦はクラス全体を二つのグループに分け、複数人が常時玉を投げ続けるという基本に則ったものだった。ただ僕に関しては例外で体力の無さとフリースローの得点率を考慮した結果、終始固定砲台としてカゴを狙い続ける任務を担っている。


(期待された以上、成果はあげませんとね)


 競技開始のホイッスルが鳴った直後、僕はまず周囲に落ちている玉を拾い集めその内一つをカゴに向かって投げた。カゴの口がかなり高い位置にあるため力を込めてアンダースローで狙ってみたところカゴの縁に当たり、そのまま外に落ちてしまい入らなかった。


(外しましたか。ではもう一歩下がって投げましょうか)


 一投目は外してしまったが所謂ゴールポストに嫌われたというやつなので、距離を調整して再度同じくらいの強さで投げると今度は予想通り吸い込まれるようにカゴの中に入り、僕は左手を握りしめ小さくガッツポーズをした。


(よし、あとはこのまま一つ一つ確実に入れていきましょうか)


 一投目と二投目で確信したが、非力な僕では数撃ちゃ当たるで投げ続ける戦法を使うよりも、力を込めつつしっかりと狙った方がいい。その方針で続け、周囲にある残弾が目に見えて減ってきた辺りで明日太が補充しにやって来た。


「詩恩、玉持ってきたぞ」

「ありがとうございます。補充はこれだけで構いませんから、明日太も投げる側に回ってください」

「いいのか?」

「ええ。あまり数があっても仕方ありませんから」

「わかった。じゃあまたあとでな」


 彼が持ってきた二十個近い玉を受け取り、再度投げ始める。競技時間五分で、最大二百個の玉のうちどれだけ入れられたかを競う中、総数の十分の一を僕に預けてくれたという事実に、俄然やる気が出て来た。


(ここまでしてくれたのに、半分も入れられませんでしたじゃ格好が付きませんよね)


 これが終われば午後まで出番無いのだから体力を温存する必要なんてない。そう考え休まず投げ続けることに集中し、最後に残った一つを投げ入れたと同時に競技終了のホイッスルが鳴った。


「あれっ......もう、終わりなんですか?」

「ああ。よく頑張ったな詩恩。肩貸してやるから少し休め」

「ありがとう、ございます」


 終わったあと体力を使い果たしてまともに立ってられない僕を明日太は肩で支え待機場所へと連れて行った。その途中でクラスメート達から何度も声をかけられたみたいだったけどボンヤリしていてまったく気付かず、しっかり意識が戻ったときには周囲の皆が雄叫びを上げていた。


「よっしゃあ!!」

「俺達勝ったんだ!!」

「たった一つの差でも、勝ちは勝ちだね」

「えっ、本当ですか?」

「本当も何も、一つ一つ確認してたんだから疑いよう無いだろう?」


 結果のみを告げられ実感がわかず隣にいる明日太に確認したが、どうやら事実らしい。少しでも勝利に貢献出来たのなら嬉しいけど、実態は少しどころじゃなかったみたいで、


「しーちゃん、お疲れさまです。玉入れ、とってもすごかったです」

「そうだな。最初から見ていたが一人で総得点の一割近く入れてるなんて思わなかった」

「可愛いだけじゃ無いんだ」

「これで体力あったらうちの部にスカウトするんだが」

「どうしたの詩恩さん? ポカンとした顔して」

「いえ、そんな活躍してたんですか?」


 団の座席に戻った瞬間に桔梗ちゃんを筆頭に結構な人数に活躍を賞賛された。入れた数が一番多いのは僕だろうなとは思ってたけど、そんなに得点していたなんて予想外もいいところで、結果を聞いた自分でも驚いていた。


「してたよ。ふらついたりするのも無理ないくらいの大活躍で、格好良かったよ」

「鈴蘭お姉ちゃん、それ私が言おうと思ってましたのに。しーちゃん、すっごく格好良かったです。お疲れでしょうからゆっくり休んでくださいね?」


 そう労いの言葉をかけてくれた。やっぱり好きな人に褒められるのは格別で、疲れた体に活力が戻ってくるのが感じ取れた。しばらく休んでいる間にも競技は続き、次の種目のアナウンスが流れ桔梗ちゃんが抜けていった。


「そういえば桔梗は借り物競走に出るんだったね」

「ええ。引っ込み思案ではありますけど、僕達相手なら頼ってくれるでしょう」


 それに借り物競走ならそこまで運動能力が順位に直結しないため、体力に不安のある桔梗ちゃんでも勝てる確率はある。そうして彼女が走る番になり始まったのだけど、やはり桔梗ちゃんはスタートで大きく出遅れ、彼女がお題の書かれた紙を拾う頃にはすでに他の参加者は借り物探しに動いていた。


「あっ、桔梗ちゃんがお題を見てすぐこっちに来てるよ」

「足取りに迷いが無いですね。一体何が書いてあったのでしょう?」

「本人に聞いてみるのがいいんじゃないかな」


 お題を確認しまっすぐ団のテントに駆け寄ってくる桔梗ちゃん。彼女が引いたお題は『美人だと思う人』という定番のものだった。うちの団には美人が多いから誰を連れて行くのだろうかと考えていたら、桔梗ちゃんに手を引かれていた。


「桔梗ちゃん?」

「しーちゃん、お願い出来ますか?」

「いいですよ。では桔梗ちゃん、行きましょうか」


 美人と思う人で彼女から指名されたことに少々面食らったが、どういう形にしろ一緒の種目に参加出来て嬉しくて、気付けば彼女の手を取り駆け出していた。


「は、はぅぅ!!」

「ほら桔梗ちゃん、やるからには勝ちますよ!」

「し、しーちゃんお疲れだったんじゃ」

「そんなのはとうの昔に回復しましたよ」


 それに桔梗ちゃんと一緒に走るのなら誰よりも速くゴールしたい。幸い他の人達は借り物を探すのに手間取っているようで、彼らがコースに戻る頃には、僕達はゴールテープを切っていた。


「は、はぅぅ......」

「や、やりましたね桔梗ちゃん。実行委員会の人が来ましたので、お題を渡してあげてください」

「わ、わかりました」

「はい、お題は『美人な人』ですね。間違いなく美人ですから、借り物成立です」


 実行委員の人から無事に認められ、僕も桔梗ちゃんも安堵のため息をついた。ただ手を繋いで仲良く走っていたことで、戻ったあとで冷やかされることとなったのだった。

お読みいただき、ありがとうございました。

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