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体育祭編 第二話 詩恩くん、体育祭当日を迎える

 そして迎えた体育祭当日。桔梗ちゃん達といつも通りの時間に登校し、体操服に着替えてからグラウンドで準備運動を行った。もちろん適当にならないよう運動部のクラスメートによる指導を受けながらだけど。


「まあこんなもんで充分だろ」

「どうした桜庭、大分息上がってるぞ?」

「み、みなさん、いつもこんな準備運動してるんですか?」


 彼ら主導の準備運動が思いのほかキツく、それだけで僕は息切れしてしまっていた。体育の授業ではこうならないので、ここまでする必要は本当にあるのだろうか。


「当然だろ。部活では自分を限界まで追い込むわけだからな」

「そうそう。そんなんで適当やってたら最悪肉離れ起こして、自分が困ることになるんだぜ?」

「何だってそうだが、普段動かしてないものをいきなりトップギアで動かしたら壊れるだろ? それでも動かすのが短時間ならまだどうにかなるが、長時間動かすならそれなりに慣らしが必要なんだよ」

「確かにそうかもしれませんね」


 キツい準備運動の必要性を次々と語られ納得した。そういえば手術後のリハビリでもそんなこと言われてたような気がする。


「わかったならいい。あとは自分の出番前に、軽く体を動かしておけよ?」

「桜庭は玉入れの切り札だから、腕回しと屈伸だけでもやっとけ」

「昼メシ食った後の運動も忘れるんじゃねえぞ」

「ありがとうございます。ではまたあとで」


 クラスの男子達と別れ、少し離れたクラスの女子が集まっている場所に向かう。もちろん目当ては桔梗ちゃんで、僕以上に体力の無い彼女が準備運動で倒れてないか心配という理由からだった。


「桜庭くん、ちょうどよかった。桔梗ちゃんのこと頼めるかな?」

「いいですけど、何かあったんですか?」

「あったといえばあったかな? 準備運動で疲れ切って、あっちで横になってるから」


 そう言って御影さんが指差した先には、グラウンドの端で横になっている桔梗ちゃんの姿があった。見た感じ顔色も悪くないので、ただ疲れているだけだと思われる。


「やっぱりこうなりましたか。ちなみに準備運動をやり切ってからああなりましたか?」

「うん。無理そうなら途中で抜けていいって言ったんだけど、最後までやって終わったと同時に大きくふらついたんだよ」

「なるほど。では保健室に連れて行って、起きたらお説教しておきます」


 頑張って最後までやり切ったことは褒めてあげないといけないけど、それ以上に無理をして友達に心配をかけたことは叱っておかないと。


「ごめんね桜庭くん」

「いいですよ。彼女の駄目な部分を指摘するのも、彼氏の役目ですから」

「そっか。じゃあ桔梗ちゃんのことお願いね」


 御影さんと会話したあと、桔梗ちゃんを背負って保健室へと移動していると、その道中で僕と同じように女の子を背負った柊と遭遇した。背負われている人物は紫宮さんだろう。


「柊、こんなところでどうされました?」

「準備運動で疲れた理良を休ませよう思て、保健室まで運んどる途中や。そういうあんさんは?」

「僕も同じ理由で桔梗ちゃんを。というかあなた方クラス別では?」

「しゃあないやろ、理良と同じクラスの奴に頼まれたんやから。最近体力も付いてきたんやけど、それでも運動部基準の準備運動にはついていけへんかったみたいや」


 どうやら疲れた理由も桔梗ちゃんとまったく一緒らしい。一応紫宮さんの方が体力あるけど、準備運動で動けなくなっている時点で五十歩百歩だろう。


「まあ紫宮さんの本領は知力と人柄なところありますし」

「それでも最低限は体力要るやろ。まあ正直言うと、佐藤の嬢ちゃんもそうなってて安心したわ。たとえ保健室で開会式迎えたとしても、一人やあらへんからな」

「そこは起きるのを待ちましょうよ。仮にも恋人なんですから」

「仮にもは余計や。それにクラスが同じあんさんらはまだしも、ワイらがやってもただのサボりにしかならんわ」


 その通り過ぎて何も言い返せなかった。というかクラスが同じでもサボり判定を下す先生もいるため、天野先生が例外なだけで普通はアウトなのだろう。


「それもそうですね。ではギリギリまで待ちましょうか。きっとそれまでには起きるでしょうし」

「せやな。そういやあんさん、仮装競走に出るらしいやないか。何着るとか聞いとるんか?」

「それがまだわからないんです」


 一応リレー形式ということとレース中に着替えることは確かなんだけど、着るものどころか出走順すら知らされてないのだ。何を着るか秘密にするのはわからなくもないけど、出走順くらいは教えてくれてもいいと思う。あまりの秘密主義に話を聞いた柊も呆れ顔だ。


「そんなんで大丈夫なんか?」

「正直ここまで何も聞かされてないと、本番がどうなるか心配です」

「せやな。まあ考えてもしゃあないし、あんま深く考えんで楽しんだらええんちゃう?」


 走るのは僕なのだから、そんな気軽に言わないで欲しい。とはいえどうせ本番直前まで知らされないなら気にしても仕方ないという意見は一理あった。


「......そうすることにします」

「それでええわ。さて、そろそろ理良と嬢ちゃんを起こさへんか?」

「ええ。お二人とも疲れてるとは思いますけど、開会式を寝過ごす方が後悔するでしょうからね」


 桔梗ちゃんはわかりやすいけど、紫宮さんも記念日や想い出を大切にするタイプだから、ここは起こしてあげるべきだろう。寝ている彼女の手を握ると、僅かに身じろぎする。


「んっ......」

「桔梗ちゃん、起きましたか?」

「はぅぅ、ここは?」

「保健室です。準備運動が終わってダウンしたそうですから、起きるまで休ませてたんです」


 目を覚ました桔梗ちゃんに事情を説明する。その間隣のベッドでは紫宮さんが起き上がっていて、柊に小言を言われていた。話を聞き終えた桔梗ちゃんは、僕に頭を下げて謝ってきた。


「ご迷惑とご心配をおかけして、すみませんでした」

「ええ。駄目そうなら無理せず言い出していればこうならなかったんですから、そこは反省してください」

「はぅぅ、すみません。鈴菜さん達にもあとで謝ります」

「よろしい。では帰りましょうか。柊も紫宮さんもいいですね?」

「問題ないですわ!」

「理良、あんま調子に乗んなや」


 ベッドから下り健康さをアピールする紫宮さんの頭を軽く小突く柊。どうやらあっちも本調子に戻ったようなので、彼らと共に保健室を後にしグラウンドに戻り、開会式に出席し体育祭が始まった。

お読みいただき、ありがとうございました。

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