体育祭編 第一話 詩恩くん、桔梗ちゃんと参加種目を教え合う
アフターストーリーです。気が向いたら書いていくつもりです。
桔梗ちゃんと初めてのキスを交わした日からしばらく経った。元々婚約済みということもあり、キスを済ませたあとでも特段関係に変化は無かった。変わったことがあるとすれば家族や友人に昔話をするようになったことくらいか。
(昔話といっても体調不良で修学旅行に参加出来なかったり、初めて部活に入ったものの人間関係が理由ですぐ辞めることになったりしたりと、聞いてて面白くない話ばかりですけどね)
これまでに語った話を思い返し、我ながらろくな人生を送ってこなかったなと一人苦笑する。だからこそ今が充実していると思えるので、悪いことばかりでもなかったのだけど。
(その証拠に、今度の体育祭が楽しみで仕方ありませんからね)
僕自身運動が得意ではないこともあって、小中学校時代は楽しみどころか苦痛だとさえ思っていた。にも関わらず今はそんな風に思えるのは、やはり人間関係が大きく変わったからなのだろう。
(だからこそ、どうにかして今日を乗り切らないとですね)
そう思いつつ病院の待合室で名前を呼ばれるのを待つ。少し前まで桔梗ちゃんも一緒にいたので気にならなかったが、やはり病院の待ち時間は長い。三十分ほど経過してようやく呼ばれ、医師から昨日と今日の二日間で行われた検査の結果が伝えられた。
「結論から話すが、全体的に前の検査結果と大差ない数値だった。生活リズムが不規則になりがちな夏休みを挟んでいることを考えれば悪くないと言える」
「つまり体育祭への参加も大丈夫ということですね?」
「そうだな。無理をしない前提かつ出場する種目次第だが。もちろん熱中症対策を怠るのは言語道断だ」
医師からもっともな忠告をされ耳が痛くなった。前の林間学校で熱中症になりかけたのだから当然すぎる指摘なのだけど。
「理解しています。水分補給はこまめに行うつもりです」
「わかってるならいい。それで一体どの種目に出るんだ?」
「実はまだ決まってないんです。団体種目は決まっているのですが、個人で出場する種目については今日決めるらしく、僕が何に出るかは友人に一任してるんです」
時計を見ると九時過ぎで、もう結果が出ていてもおかしくない時間だけど、今のところ明日太からの連絡はない。単に決めたあとそのまま授業に移って、こっちに連絡する時間が無かっただけかもしれないが。
「そうか。なら団体種目だけでもいいから教えてくれ」
「一年生男子は玉入れ、女子はキャタピラレースだそうです」
どちらも体育祭の定番で、団体種目の中では比較的体力を使わない部類なので、決まった際には桔梗ちゃんと一緒に安堵したくらいだ。
「だったら問題ない。個人種目が決まったらそのときは連絡してくれ」
「そうさせていただき――いえ、今連絡が来たみたいです」
医師との会話中、ポケットに入れていた携帯から通知音がしたので確認してみると、僕が出る種目の名前と説明書きが明日太から送られてきていた。
「それで、何の種目だったんだ?」
「男子限定仮装競走で、文字通り仮装して走るみたいです」
逆に言うとそれ以外のことは全くわからないそうだ。今年初めて行う種目なのでどのような仮装をさせられるのかも、どのくらいの距離を走らされるのかも、そもそもどうして男子限定なのかすらも。とりあえず確かなのは、仮装して走る関係上あまり無茶な距離やコースを走らせることはないというくらいか。
「医者としては体中に爆弾抱えている患者を詳細不明な種目に参加させたくないんだが、まあ聞いた感じ問題はなさそうか。とりあえずこれで診察は終わりだ。あとは彼女と一緒に学校行ってこい」
「はい。では失礼します」
診察が終わったので退室し、待合室で桔梗ちゃんと合流してお互いの結果を教え合う。彼女の方も何とか参加許可を得られたみたいで、僕はホッと胸を撫で下ろした。
「よかったです。桔梗ちゃんと初めて一緒の体育祭で、どちらかが見学なんて事態にならなくて」
「そうですね。体育は苦手ですけど、しーちゃんや皆さんとの想い出作りなら頑張れますから」
「僕もです」
欲を言えば二人で出場可能な種目に出たかったけどそれは来年以降のお楽しみということにしておこう。来年は種目決めと検査入院の日程が偶然重なることもないだろうし。
「ところで桔梗ちゃんの個人種目は何だったんです?」
「えっと、借り物競走みたいです」
「そうですか。僕は男子限定仮装競走らしいです」
借り物競走は運の要素が強く絡んでくる種目のため、身体能力が低い桔梗ちゃんでも一位を狙うことは不可能じゃない。数ある個人種目の中でこれを桔梗ちゃんの出場種目に選ぶ辺り、選んでくれた御影さんの優しさが伺えた。
「仮装競走って、どんな格好するんですか?」
「それが今のところ全くわからないんです。本番までには決まると思いますが」
「でしたら本番を楽しみに待ちますね。しーちゃんならどのような仮装でも似合いそうな気がしますから」
「ありがとうございます。さてと、会計も済みましたし学校に行きましょうか。何せ今日の放課後にはチーム分けが決まりますからね」
「そうですね。すっごく楽しみです♪」
病院を出て、二人手を繋いで学校へと歩いていく。そして放課後、僕達のクラスは鈴蘭姉さん達のクラスに加え一華姉さん達のクラスとも同じチームに所属することになった。
お読みいただき、ありがとうございました。




