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第百二十二話 詩恩くん、盆の墓参りをする

 鈴蘭姉さんと姉弟になった翌日、彩芽さんと楓さんのご先祖様の墓参りのため、車に乗り込んで霊園のある山へと向かった。駐車場で車を降り、整備された斜面を登ると墓地が見えてくる。


「学校の坂道に比べれば短いですね」

「そうだな」

「どっちの家の墓も奥の方だから、まだ歩くけどね。三人とも今のペースで大丈夫?」

「「「大丈夫です(大丈夫だよ)」」」


 彩芽さんが体力のない女性陣を気遣ったが、彼女達もさすがにこのくらいなら問題ないようでしっかりした声で返事をした。歩みを止めること無く墓地に着いて、より奥まった場所にある、桜井と刻まれている墓の前に立つ。


「楓さんの旧姓ってうちと一字違いだったんですね」

「そうですね。わたしはお手紙で初めて詩恩くんの名字を知ったんですけど、もしも再会出来てお話する機会があったら言おうってずっと思っていました」

「そうだったんですね」


 彩芽さんと似た半生を送っていることや、僕の名字と楓さんの旧姓が一字違いだということなど、知れば知るほど僕と桔梗ちゃんがくっついたのは運命のように思えてくる。


「でしたら、一層心を込めて掃除しないとですね」

「そうだね。この辺りは開けた場所で落ち葉が少ないとはいえ、まったく無いわけでもないしさ」

「思ってたよりも日差しが強いから、手早く済ませないとっすね」


 今はまだ午前中ではあるけれど、遮る物のないところに真夏の太陽が照りつけている状況だ。急がなければ墓石が熱を持ってしまい掃除どころでは無くなる。男三人で手分けして掃除をしてから線香を供えお参りする。


(あなた方の子孫は必ず僕が幸せにしますから、どうか見守っていてください)


 桜井家の墓に祈りを捧げてお参りを済ませ、少し下って佐藤家の墓の掃除を始める頃には、墓石が熱を持ち始めていた。水を多めに含んだ布巾で墓石を拭き少しでも熱を奪ってからお参りする。


(僕の大切な人に会わせていただき、ありがとうございます。次は冬に挨拶に来ます)


 心の中で感謝を伝え、線香と花を供えて佐藤家の墓参りを終え、車に戻り席に座る。これまでの人生でお盆という行事を経験したことが無いため、これでよかったのかと不安に思い彩芽さんに質問を投げかけたのだけど、


「「彩芽さん、お盆の墓参りってあんな感じでよかったんですか?(よかったっすか?)」」

「大丈夫だけど、君達同時にまったく同じこと聞くなんて、今朝義兄弟になったとは思えないね」

「息ピッタリで仲良しです♪」

「「さすがしーちゃん(雪片くん)」」


 雪片兄さんと完全にハモってしまい、全員から生温かい目で見られてしまった。実は朝食の席で鈴蘭姉さんから、正式に僕を弟扱いするという話があり、流れで雪片兄さんとも義兄弟になったのだ。といっても部屋の合い鍵を預け合う仲になった以外は大して変わらないのだけど。


「それで、どうしてそんな質問をしたのかな?」

「お墓参り自体はこの間実家で経験したんですけど、お盆のものと何か違っていたりしないかと」

「俺も詩恩と同じ理由っす。あともう一つ、明日お袋の墓参りも兼ねて、松葉さんのところに行くので」

「そっか」


 僕達の返答を聞いて彩芽さんが納得した様子で相槌を打つ。ちなみに雪片兄さんが口にした松葉さんとは、母親の紅梅さんの親友の名前だそうだ。


「松葉さんのところに行くなら、わたしも連れて行って欲しいな」

「無論そのつもりだ。そういうわけで、明日詩恩達を見送ったらそのまま松葉さんの家に行くっす」

「わかったよ。それにしてもお盆なのに君達四人とも忙しいね」

「俺達自身で選んだ道っすから」

「僕達も同じです。ですが後悔はしていません」


 僕も桔梗ちゃんはもちろん雪片兄さんも鈴蘭姉さんも、様々な出来事を乗り越えて今こうしているのだ。これまで動いてきた結果忙しくなったとしても、それはそれで仕方ない。


「......本当、君達みたいなのが息子になってくれて嬉しいよ。あとは娘達の花嫁姿と、孫の顔を見せてくれたら言うことなしなんだけど」

「「はぅぅ!!??」」

「あやくん、二人に孫はまだ早いですよ///」


 冗談めかして言う彩芽さんに、姉妹は顔を真っ赤にして動揺し、楓さんは照れながら抗議した。話だけでも照れてしまうような子達と関係を進められるのかと疑問を感じ、何となく隣の雪片兄さんと顔を見合わせる。


「先が思いやられるな」

「ええ。本当に」


 桔梗ちゃんや鈴蘭さんと恋愛し家庭を築くことに、これまでの苦労よりも厳しいハードルが予想され、僕と雪片兄さんは揃ってため息をついたのだった。


 そして翌日の朝、僕と桔梗ちゃんは雪片兄さん達の見送りを受けた。たった数日早く帰るだけなので、今回は兄さんと姉さん、それに葵さんとカンナさんの四人だけの見送りとなった。


「詩恩ちゃんも桔梗ちゃんも、また来るんだよね?」

「もちろんです」

「番号も交換しましたし、気軽に連絡してください」

「なら入浴中でも遠慮しないで、テレビ電話するよ?」

「そのときはこちらからかけ直すか、タオル巻いて応対します」

「詩恩がそんな格好したら、本気で性別不詳になるね。桔梗ちゃんは詩恩のあられも無い姿見たのかな?」

「はぅぅ、まだです」


 ただ葵さん達とは最短でも冬休みまで会えないので、時間ギリギリまで話し込んだ。ちょっと葵さん、桔梗ちゃんに何を吹き込んでるんですか。


「もう時間だな。言い残したことは無いか?」

「では鈴蘭姉さん、桔梗ちゃんをしばらく預かりますね」

「詩恩さんならそのまま持って行ってもいいけど、わたし達が帰るまで任せたよ」

「では皆さん、行ってきます」


 そうして僕は桔梗ちゃんと共に電車に乗り、日没前に家へと帰った。十日近く留守にしていた家の換気と軽い掃除をして、昼食を取った駅の近くで買った食材と残っていた米で雑炊を作り夕食として食べ、彼女の部屋で二人寄り添い眠ったのだった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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