第十話 桔梗ちゃん、家族とお話しする
桔梗視点です。
しーちゃんが去ったあと、私はパパとママの夕ご飯を用意するため、鈴蘭お姉ちゃん達とダイニングに向かいました。二人の分のご飯はしーちゃんの歓迎会の準備のときにある程度作っておいたので、二人で協力して完成させ、席に着いたパパ達に出しました。
「鈴蘭ちゃん、桔梗ちゃん、ありがとう」
「お二人は食べたあとですか?」
「うん。詩恩さんの歓迎会のときにね」
「大人数なのでお鍋にしましたけど、しーちゃんは喜んで食べてくれました」
「それはよかったですね。桔梗ちゃん」
しーちゃんが私が用意したお鍋を美味しいと言ってくれたときに、鈴蘭お姉ちゃんが雪片お兄ちゃんのお弁当をいつも楽しそうに用意している理由が、ちょっとだけわかった気がしました。
(いつになるかはわかりませんけど、次は私一人で作りたいです。今回は鈴蘭お姉ちゃんに手伝って貰ったわけですし)
「桔梗ちゃん、今度は一人で頑張ってみてね。大丈夫、詩恩さんならきっと喜んでくれるから」
「はぅぅ!」
「どうしたの?」
私一人でしーちゃんにお料理を作りたいと、頭の中で考えていたところ、まるで心を読んだかのようなタイミングで鈴蘭お姉ちゃんからそう言われ、私は驚いてしまいました。
「な、何でもありません......ちょうど同じ事考えていまして」
「そうなんだ。だったら心配要らないね」
「そういえば桔梗ちゃん、詩恩さんと再会してどう思いましたか?」
鈴蘭お姉ちゃんとのお話が終わったかと思えば、今度はサラダを食べていたママから質問が来ました。そういえばママも私と同じで幼馴染との再会を経験していましたから、気になったのでしょう。
「どうって、すごくビックリして、でも同時にとても嬉しかったです。しーちゃんとお別れしてからずっと、いつか再会したいって思ってましたし。想像してたよりも綺麗になりすぎてて、すぐにはしーちゃんってわかりませんでしたけど」
元々しーちゃんは可愛かったですけど、あんなに美人になっているなんて思いませんでした。ただ、まさか男の子だとは思ってもいなかったですけど。私の答えを聞いてママは満足そうにしました。
「そうですか。わたしもあやくんと再会したとき、そんな感じでしたよ。桔梗ちゃんと違うのは、あやくんが来ることを事前にわかってたことと、あやくんが男の子だと知っていたことですね」
「それともう一つ、僕はかえちゃんとは初対面って思い込んでたけど、詩恩は桔梗ちゃんのことを覚えてたってのもあるよ」
そう考えると、離れていた幼馴染との再会というシチュエーションでも、結構差があるものなのだと感じました。このお話に加われず、少しだけ寂しそうに鈴蘭お姉ちゃんが呟きます。
「わたしはとと様達みたいに、何年も離れてた幼馴染との再会が無いから、桔梗ちゃんがちょっと羨ましいかな?」
「羨ましい、ですか?」
「あくまでもちょっとだけね。雪片くんとの出会いに文句があるわけじゃないけど、桔梗ちゃん達のはすごく運命的な出会いだから」
運命的とはいいますけど、ナンパされているところをほとんど交流の無い同級生に助けられるというのも、充分に運命的な出会いだと思います。言ったあとで自分でもそう感じたのか、鈴蘭お姉ちゃんは気まずそうにしながら話題を変えました。
「そんなことよりも桔梗ちゃん、詩恩さんに家事を教える約束してたよね? あれいつからにするつもりかな?」
「しーちゃんが時間のあるときにしようかと思ってますけど、駄目でしょうか?」
「それでもいいと思うけど、あんまりのんびりしてると学校始まっちゃうよ?」
「鈴蘭ちゃんに賛成です。せっかく春休みですし、忙しくなる前に教えておいた方がいいですよ?」
「僕は詩恩が家事が得意かどうかは知らないけど、初めてって言ってたから教えるなら早い方がいいよ」
私は慎重論を唱えたのですが、全員から否定されてしまいました。確かに学校が始まったら勉強や部活で時間が合わない可能性もあります。そう考えると、今教えるのが一番いいかもと思うようになりました。
「それに一人暮らしするために越してきたなら、町を案内してあげないと。初めての場所だから方向音痴じゃ無くても不安だろうし」
「そういえば本人も明日買い出しに出るって言ってたから、桔梗ちゃんの方から案内するって切り出せばいいよ」
「いいですね。案内が終わったら、家事を教えるってことでいいんじゃないでしょうか?」
お話は家事のことから、いつのまにかしーちゃんに町を案内するということにまで発展しました。これは私も別れ際に言い出すべきか迷って、結局言い出せなかったことです。
「ご迷惑じゃないでしょうか? もしかしたら一人で見て回りたいのかもしれませんし」
「桔梗ちゃんの考えすぎだと思うよ。今日話してみた感じだけど、詩恩さんって桔梗ちゃんのこと大事なお友達だと思ってるみたいだから、きっと大丈夫だよ。何ならあとで電話なりメールなり送ってみたら?」
「そう、ですね。お部屋に戻ったら試してみます」
その後、しーちゃんにメールを送ってみたところ、了承の返事がきました。無事に承諾されたことに安堵するのと同時に、これが生まれて初めて男の子と二人きりのお出かけだと気付いて、私はベッドの上で真っ赤になりました。
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