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第九話 詩恩くん、桔梗ちゃんの両親に出会う

今回の話では、詩恩の生き写しとも言える人物が出てきます。

 桔梗ちゃんと鈴蘭さんの両親がたった今帰宅したのだけど、二人の姿を見て僕は絶句した。どちらもとても二児の親とは思えないような若々しかったが、間違いなく二人の両親だと断言出来る外見だったからだ。


(人類の神秘ってやつですね。僕も人のことは言えませんけど)


 一人は桔梗ちゃんと顔立ちどころか背格好までよく似ているため、小学生と言われたら疑わず信じてしまえる人物だ。恐らくだけどこの人が母親の方だろう。若々しいを通り越して完全に幼女の域だが、桔梗ちゃん達の親ならばわからないでもない。問題は父親の方だ。


(まさか、僕と同じような人がいるとは思いませんでした)


 そう、桔梗ちゃん達の父親とされる人物は僕と同じで、どこからどう見ても男には見えなかったのだ。外見年齢が二十代ということも、僕よりもずっと小柄なことなど、本来ならそこも異常なのだろうけど、僕からするとそんなのは些細な問題だった。


「ただいま帰りました......あの、その子が桔梗ちゃんが言っていたしーちゃんでしょうか?」

「お帰りなさい、ママ。そうですよ」

「とと様、この人は桜庭詩恩さんだよ」

「ああ。随分と綺麗な男の子だね」

「「「ええっ!?」」」


 父親の発言に驚く女性陣。母親の驚きは僕のことを男だと知ってのものだろうけど、桔梗ちゃんと鈴蘭さんの驚きは父親が僕を男だと見抜いたことによるものだろう。


「そんなに驚くことかな? 一目見ればわかるよ。桜庭君だって僕のことを男だってわかるよね?」

「ええ。僕も驚きました。鈴蘭さんと桔梗ちゃんの父親が、まさか僕と同じで女にしか見えない外見の持ち主だったなんて」

「僕も自分とまったく同じ境遇の男が他にいるだなんて思わなかったよ。名前の響きが女の子っぽいところも含めてさ」

「そうなんですか?」

「僕の名前、彩芽だからさ」

「なるほど確かに」


 こんなところで、僕のことをもっとも理解してくれそうな人物に遭遇するとは思わなかった。ただこの人を見ていると僕は年を重ねても男らしくならないという、残酷な未来予想図のようにも思えてくるがそれはそれだ。


「桜庭君、申し遅れたけど僕は佐藤彩芽。鈴蘭ちゃんと桔梗ちゃんの父親だよ。君のことは桔梗ちゃんからよく聞かされていたよ」

「わたしは佐藤楓です。見えないと思いますけど鈴蘭ちゃんと桔梗ちゃんの母親です。あの、桔梗ちゃんへいつもお手紙をくださりありがとうございます」

「いえその、僕も桔梗ちゃんの手紙で励まされてましたから。改めまして、僕は桜庭詩恩です。桔梗ちゃんに会ってお礼を伝えたくて、こちらに戻ってきました」

「はぅぅ///」


 彩芽さん達二人に、自分がここに来た目的を語る。また桔梗ちゃんが真っ赤になってるけど本当のことだから仕方ない。赤裸々に話したことが好感触だったのか、彩芽さんが僕の肩に手を置いた。


「気に入ったよ。桜庭君のこと、詩恩って呼び捨てにするけどいいかな?」

「構いませんよ。貴方には相談したいことがたくさんありますから」


 桔梗ちゃんのことはもちろん、僕と共通点が多く、かつ人生の先輩でもある彩芽さんに聞いてみたいことは山ほどある。だがそれは明日以降だ。


「ただ、今日はもう遅いので家に帰ります。ご迷惑でしょうし」

「別に迷惑じゃないし泊まっていったらいいのに。ねえ?」


 彩芽さんからの問いに頷く女性陣。ありがたいけどもうちょっと危機感は持った方がいいと思う。特に二人の母親である楓さんは。


「お気持ちはありがたいですけど遠慮します。さすがに一人暮らし初日で外泊したことを両親が知ったら、連れ戻されかねませんし」

「そっか。だったらまた次の機会にしよう。暗いし家まで送ろうか?」

「いえ、すぐ近くのアパートに住んでますので、それには及びません」


 外は暗いといっても徒歩三分程度の距離だ。もし途中で襲われそうになっても大声を上げながら自宅アパートかこの家に逃げ込めばいい。


「この近くのアパートというと雪片のところか。じゃあこのまま見送るだけにしておくよ。またいつでも遊びに来なよ」

「あまりお話出来ませんでしたけど、わたしも歓迎します。今度はもっとお話しましょう」

「学校のこととか困ったことがあったら、先輩のわたしに相談してね」

「はい。皆さんありがとうございます」


 玄関から出ようとする僕に、全員思い思いの言葉をかけてきた。そして最後に桔梗ちゃんが一歩前に出た。


「あの、しーちゃん。また会えて嬉しかったです。明日も会えますよね?」

「近所ですから、会おうと思えばいつでも。ただ明日は買い出しに外出するつもりです」


 実はうちの冷蔵庫の中には食べられるものが一つも入って無い。調味料やカップ麺は事前に購入していて、生鮮食品や冷凍食品は夕食を食べに行くついでに買うつもりだったのだ。


「買い出しって、しーちゃん食べるもの持ってないんですか?」

「お米なら五キロほどありますよ。帰ってから炊いて明日の朝食にします」

「お米だけで大丈夫ですか? 少しなら用意しますよ?」

「大丈夫です。それに初めての料理ですし最初は米だけで味わおうかと」


 なお米炊きに失敗した場合、自動的に明日の朝食がカップ麺になり、一人暮らしのスタートが非常に侘しいものとなる。ただいくらなんでもそこまで自分はポンコツじゃないと思いたい。


「そうですか。しーちゃん、頑張ってくださいね」

「ええ。それでは皆さん、おやすみなさい」

「「「「おやすみなさい」」」」


 僕は桔梗ちゃん達におやすみの挨拶をして、佐藤家を出た。三月の夜は少し肌寒くて、先程までいた家の暖かさが消えないうちに、僕は自分の部屋へと帰ったのだった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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