第百五話 桔梗ちゃん、期末テストのお疲れ会をする
桔梗視点です。
期末試験の結果が出た日の午後、テストのお疲れ会をするため、私の家に鈴菜さんと冬木くん、理良さんと近衛くんが遊びに来ました。お菓子と飲み物をテーブルの上に並べてから、乾杯の合図でお疲れ会が始まりました。
「さて皆さん、まずは期末試験お疲れ様でした。順位や点数については皆さんすでにご存知だと思いますけど、見やすいようまとめてみました」
そう言いながらしーちゃんは全員から見えるよう、テーブルの中心にノートを広げました。広げられたページにはここにいる六人の期末テストの結果に加え、前回の結果や点数や順位の変動幅も記載されていました。
「なるほど。こうしてまとめられると一目瞭然だな」
「今回一番順位が上がったんは佐藤やな」
「私の場合、皆さんよりもずっと順位も点数も低いですから」
まず私の順位は二十七位で合計点は三百八十四点、中間テストに比べて順位が三つ、点数が十二点上がりました。今回の期末テストは比較的難易度が低く、全体的に平均点が高かったみたいですけど、それでも十点以上上げている人はほとんどいなかったらしく、しーちゃんからとても褒められました。
「順位が上がったといえば鈴菜さん、トップテン入りおめでとうございますわ」
「ありがとう理良ちゃん。でもこれに満足しないで、次は四百五十点越えを目指すね」
「僕もうかうかしてられないな」
鈴菜さんも十点以上点数が上がったうちの一人で、その合計点は四百四十六点。順位は一つ上がって十位になっていました。ただ鈴菜さんとしては点数が半端だったのが引っかかったようで、もう次の目標を立てていました。
「そういう明日太も結構伸びてますよね?」
「確かにそうだが、結果的に鈴菜との差が縮まって、近衛との差は広がったんだ。手放しでは喜べない」
「冬木は自分に厳しいですわね。その姿勢は嫌いじゃありませんけど」
冬木くんは前回よりも七点上がって四百六十一点。順位は二つ上がり五位に着けています。四位の人との差も三点とそこまでないので、もしかしたら二学期の中間テストでは近衛くんと競ることになるかもしれません。
「広がった言うても、たった四点やないか」
「だが、点差で言うと二十二点だ」
「そない言うたら、ワイとお嬢の差なんて十一点や。前より七点縮まったと考えへんとやっとられんわ」
「......そうだな。すまない近衛」
「ええよ。ワイの悩みをちっとでもわかってくれたんやから」
その近衛くんの点数は四百八十三点。順位は前回と変わらず三位ですが、何と十一点も上回りトップとの差を確実に詰めていっています。それでもなお届かない、二人の点数が異常なのですが。
(本当にお二人ともどうなっているのでしょうか?)
今回もしーちゃんと理良さんは仲良く同率一位、点数は四百九十四点で前回よりも四点上がっていました。つまりしーちゃんも理良さんも少なくとも二教科は満点を取っているわけで、私達との格の違いをこれでもかというくらい見せつけられました。
「ということで点数の変動幅ですが、下から僕と紫宮さんがプラスの四点、四位の明日太は七点、三位の御影さん十点、二位の近衛くん十一点、桔梗ちゃんが一位で十二点になりました」
全員の試験結果を確認してから、しーちゃんがそれぞれの点数の伸びを順位付けして読み上げます。私が個人戦で一位を取りましたけど、今回の勝負はチーム戦です。そちらの結果も読み上げられました。
「チーム戦では紫宮さんと近衛くんが十五点、僕と桔梗ちゃんが十六点、明日太と御影さんが十七点でトップという結果になりました」
「改めて言われると、結構接戦だったんだって思うね」
「そうだな。たった一問で結果が変わってたんだな」
「と言いますか、誰も中間テストより点数が下がっていないのが驚きですわね」
「中間より簡単やったんを差し引いても、よう勉強しとるわ」
チーム戦の結果を聞いて、各々が感想を述べられます。個人戦でトップだった私も、近衛くんと一点差だったので、こちらも接戦でした。もしもしーちゃんと毎日眠くなるまで勉強していなかったら、どうなっていたかわかりませんでした。
(しーちゃんにあとで感謝の気持ちを示しませんと)
婚約者になったとしても、こういうことはちゃんとしないと駄目ですから。
「それにしても、チーム戦でよかったです」
「ですわね。まあ負けたからといって柊を責めるつもりはありませんが」
「理良ちゃん、だからって自分を責めないでね?」
「それは......」
鈴菜さんの忠告に理良さんの目が泳ぎました。先ほど理良さんは冬木くんのことを自分に厳しいと評しましたが、一番厳しいのは理良さんだと思います。
「そういうの、あとに引き摺るからよくないよ? 近衛くんからも何か言ってあげて」
「まあ、厳しすぎるんはお嬢の悪癖やからな......この台詞は出来ればワイが勝ってから言いたかったんやけど、これもええ機会か」
「柊? 何ですの?」
鈴菜さんから促され同意する近衛くんでしたが、言葉の途中で何となく彼の雰囲気が変わりました。これから真剣な話になると察した私達が一斉に黙り込んだためか、理良さんの問いがやけに大きく聞こえました。
「お嬢、いや理良。昔から思とったけど何でもかんでも背負いすぎや。理良が優秀やからどうにかこなせとるだけで、今のままやといつか限界来て潰れてまうで? いつまでも子供やないんやから、意地を張らずええかげん他人を頼ることを覚えや」
理良と名前で呼ばれて最初は喜んでいた彼女でしたが、近衛くんからのお話がお説教だと理解すると、段々と不機嫌になっていきました。特に子供扱いされたことが逆鱗に触れたみたいで、理良さんは声を荒らげ、近衛くんに詰め寄ります。
「お、大きなお世話ですわ!! いくら執事だからと言っても、柊に言われる筋合いはありませんわ!!」
「いいや、大ありや。ワイの好きな女やからな」
「えっ!? 本当、ですの?」
しかし近衛くんは怯んだ様子も無く、それどころか理良さんの目を見て突然告白を行いました。当然理良さんは動揺して怒りが何処かに行ってしまったみたいです。トーンダウンした理良さんに、近衛くんは告白の続きをしました。
「ああ。こないな告白ですまんな。さっきも言うた通り、ワイは理良が昔から好きやった。ほんで、理良がワイのことを好いとるのも知っとった」
「なら、どうしてわたくしの想いに応えなかったのですの?」
「......それはな――」
「はい、そこまでですよ」
近衛くんの話を、手を叩いて遮るしーちゃん。話の流れで近衛くんの告白を聞いてしまったわけですが、これ以上聞くのはよくありません。たとえここが私の家で、お疲れ会の最中であっても。
「そうだな。続きは二人でやってくれ」
「だね。告白は勢いもあるから仕方ないけど、続きを人の家でするのはちょっとね」
「あの、二人きりになれそうな場所、探しましょうか?」
「......ええわ。続きは帰ってからや。お嬢もそれでええか?」
「ですわね。皆さん、申し訳ありませんでした」
理良さんと近衛くんが揃って頭を下げました。お二人とも告白の続きよりもお疲れ会を選んだようなので、一旦忘れることにして、打ち上げの続きをしました。ただ去り際に理良さんが近衛くんと交際を始めると宣言されましたが。
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